第15話 マーチ_過去
〜フルトロン 病室〜
「タケル、起きなさい」
病室のベッドに転がる俺に向かって腕を組んで立ち尽くすウィドウ。
眠たいし病み上がりなのに起きろとか言ってくるウィドウに対して、嫌な顔をしながら起きるがそんな顔をしてもウィドウは動じなかった。
「……俺今ぐっすり眠りに入る3秒前だったんですが?」
「知らないわよ。後で永眠させてあげるから」
冗談交じりで少し微笑みながらウィドウ。
ベッドの近くにある椅子に座り、かばんを漁り始めた。
「貴方に優勝賞品でこれを渡したくてね」
「……え、なんかありがとうございます。何くれるんですか」
ち〜ん
机におりんと俺の写真を乗せて、おりんを鳴らした。
「死んでねーよ!ちーんじゃねえ!!!」
ベッドから起き上がり、ウィドウに指を指した。
「あんな攻撃食らったら死んでるようなものでしょ。生きてることが奇跡よ」
ルルマの能力で心臓発作を食らった俺が未だに生きているのは実際奇跡だ。
「……ところで貴方。エルザルに行ったことはあるかしら?」
魔王城に行ける代表村と聞き覚えがある。俺達がこいつを助けるためにチラッと聞いた記憶がある。
〜エルザル〜
人口約1400人程の中ぐらいの村。
6つの魔王城出動可能村で唯一信頼されている程、全人口が強いスキルや身体を持っている。
ファステルも上級冒険者が集う場所だが、それ以上に厳しく難しいクエストなどが用意されている。
「……そのエルザルになんの用があるんすか……?」
「貴方のパーティに1人新人を入れたわ。マーチと言う魔法使いよ」
俺はその言葉を聞き思考が止まった。
俺が居ないうちに知らんやつが1人入った……!?
「そしてその子を連れてエルザルに行って欲しいの。」
また思考が止まった。
新人連れて超級者がいる村に行け……!?
「ま……待て待て!いくら何でもでしょ!?なんで新人連れてそんなとこに!?」
ウィドウは足を組んで窓を見ながら語り始めた。
「マーチはエルザル出身よ。生まれた頃から弱くてここに放り出されたの」
マーチはエルザルで生まれ、その瞬間に一族に捨てられた。エルザルでは生まれた子に対し儀式を行うのだ。
その儀式は未来の戦闘力をある程度予言する。神父のスキルであった。
エルザルの村人の戦闘力数値が平均500以上。
だがマーチの平均値は未来でも200。
「……マーチはまだ歩くことも出来ない状態なのにここフルトロンにポイ捨てされたのよ。」
その時マーチを拾ったのがウィドウであった。
ウィドウはバロンのパーティと一緒にマーチの世話を1人で行っていたのである。
やがてマーチも立ったり喋れるようになり、捨てた親を見返すために師弟関係になった。
「今のマーチはこのフルトロン代表の魔法使いウィドウさんに修行されているから、強いことに間違いはないわ。」
……最初の一言入らないが、俺はその話を聞きウィドウさんも面倒がいい人なんだなと思った。
「話が逸れたわね。まぁ単刀直入に言うと見返すために行って欲しいってことよ」
捨て台詞を吐くとウィドウは立ち上がり、病室を後にした。
「……まぁ今考えても仕方ねえな。一日だけ安静にしろってことだし寝るか」
色々な思考が飛び交ったが、やはり頭があまり回らない病み上がりの状態で考えるのは良くない。
タケルはベッドに再び寝転び、眠りについた。
〜フルトロン 集会所〜
「エルザル!?」
恐らく優勝賞金で頼んだ飯を食べながら、ゾエラは驚いた。
他のガルドとマーチは頭上にはてなマークが浮かび上がっていた。
「マーチの故郷よ。そこに行って今のマーチの強さを見せつけてあげるのよ」
ウィドウはマーチの隣に座り、置かれていたチップスを食べ始めた。
「のぅ、エルザルってなんじゃ?」
何も知らないガルドがパスタを頬張りながら、ゾエラに聞く。
ゾエラは目を輝かせながら、説明をし始める。
「エルザルはね!魔王城出動可能村のトップに君臨する別名"最も魔王に近づける村"とも言われてるの!ここのクエストよりも5倍ほど難しいのがあるの!ガルドちゃんそういえば難しいクエスト行きたいって言ってたよね!エルザルにいけb」
「ストップじゃ」
早口になるゾエラに対してガルドは若干引き気味になる。
さっきまでタケルを心配して泣いてた人とは思えない。
「タケルさんが復帰したら行かせるってウィドウさんが言ってたんです」
「そういうことよ」
「私の強さ通用するでしょうか?」
「するわよ。私が育てた弟子よ?」
「そうですよね!ウィドウさんは代表ですもんね!」
マーチとウィドウは淡々と喋り淡々とチップスしか食べなかった。
「おい!!チップスばっかり食べるな!ワシらの分残しておけ!」
〜集会場前〜
飯を食べ終わった4人は、始まりの草原に向かって歩いていった。
マーチの強さをガルドとゾエラに見るためだ。
ウィドウと同じ魔法使いという事で攻撃魔法は勿論、回復や防御も扱える。
「タケルが安静にしている間、貴方達2人に私が育てたマーチの強さを見せつけてあげるわ。私が育てたマーチよ」
「それ言葉使いすぎると弱かった時に後悔するぞ?」
マーチは本から出した杖を持ちながら後ろで着いてきている。
「えっと、私と手合わせ願える人ってどなたでしょうか……?」
マーチは恐る恐る2人に聞く。新人戦でガルドの強さを知っているためか、少しだけゾエラの方に寄って歩いていく。
「ワシじゃ不満か……と思ったが新人戦で体力使ったからゾエラ、ヌシがやれ」
流れるようにゾエラを対戦相手にするガルド。
ゾエラは少し戦うのは嫌だったが、キラキラした眼差しをしてくるマーチに対して断れなかった。
「マーチちゃん……私でいいの?」
「はい!是非お願いします!」
お互い了承の上対戦相手が決定し、下を向いてこぼれる笑みを隠すマーチだった。
4人は始まりの草原に向かっていった。
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