第14話 支配下_解放


〜フルトロン 集会場〜


見事優勝を果たしたタケル達のパーティ。

俺の能力は通用しなかったが、ルルマのせっかちが敗因で何とか勝った。

正直ガルドがいなかったら、この闘いでゾエラの仇を取れずに終わっていただろう。


致命傷判定を受けたルルマは、俺達より先に集会場に転送された。

転送された瞬間、俺の疲労がどっとと出てその場で倒れてしまった。

慌ててガルドが俺に近づき助けを呼ぶ声が聞こえる。

だがその声もうっすらと遠のいていき、視界が暗くなっていく。


不安よりも達成感を得られた俺は、微笑みながら目を瞑った。



〜集会場(医療室)〜


「……〜!」


誰かが俺を呼んでる……?

……そうか、そういえば俺はルルマと闘って……倒れたんだっけな。

声が微かに聞こえるが誰の声かまでははっきりしない。

恐らくガルドかゾエラだろう。


「……ル君!」

「……ケル君!」


徐々に声が聞こえてきた。君付けで呼ぶ人って事はゾエラか……?

目を開けて泣いてたらおちょくってやろう……。

そんで俺が決めゼリフを吐いて、照れさせてやる……!


「……ゾエ」

「目ェ覚ますんじゃああああ!!」


馬乗りになってるガルドが俺の頬を思いっきりビンタしてきた。

心配するのは有難いけどもうそれほぼ暴力だよね。

ゾエラと医療室にいた看護師などが口を開けて唖然としていた。


「痛てぇなおい!病み上がりの男に何してんだお前!」

「やっと起きたんかこのノロマ!ヌシが笑顔で倒れたから心配したんじゃぞ!気でも狂ったかと思うたぞ!」


いつも通りの日常。このやり取りを見てゾエラは笑顔になっていた。

ゾエラは俺の方に近づき、涙を抑えながら話しかけてきた。


「ありがとう。本当にありがとう……タケル君……ガルドちゃん……!」


泣き顔を見せたくないのか、俺が寝ているベッドに顔を伏せた。

ガルドと俺はお互いに見つめ合い鼻で笑った。

俺達は当たり前のことをしただけだと。


「ヌシはこれからもっと強くならんとな!あんな白髪男に負けないようなメンタルと筋力を!」

「当たり前を遂行しただけだぜ俺達は」


ゾエラは声を押し殺して、泣いていた。

感謝と生存の喜びが感情に出てしまっていたんだろう。

俺達の絆はまた一つ強くなった。

たった一本の線だけど、この絆は誰にも切れやしない。

あと全然降りてくれないガルドが重かった。



〜集会場 ロビー〜



ゾエラとガルドは医療室を出てロビーに向かっていく。

タケルは暫く安静にするように言われた。

暫くと言っても1日ぐらいだ。


ゾエラの目元が赤くなっている。泣きすぎだ。

それに気付いたガルドは、言わない方が面白そうだからそのままにしていつ気付くかという、なんとも面白くない企画を一人で行なっていた。


「……ガルドちゃん、そこのテーブルでタケル君がいない間何するか話し合おうよ」

「言うても1日じゃろ?寮で待機でいいじゃろ」


ガルドは今日の疲労もあり、明日は休みたい気分でいたがゾエラは何もしていない為仕方なく付き合うことにした。

テーブルに座り、ガルドが話を進めた。


「ゾエラ、あの白髪男は今どこにいるんじゃ?」

「あの人なら医療を受けてすぐに集会場を出てったって聞いたよ?少し反省してたって」


ガルドはそれを聞き、ゾエラに謝らないことに不満を抱いたが反省しているならまぁいいかと思った。

それに今回の報酬金等は既にゾエラが受け取っていた。

一人で寮に持って帰るのは不安なので集会場の銀行に預けているとの事。


「ま、今回の件は一件落着じゃ。ヌシの呪縛も解けたし、優勝もした。全てワシのおかげじゃがの」

「流石ガルドちゃんだよ〜!」


テーブル越しで抱きついてくるゾエラに対して、ガルドはいつものゾエラに戻ってきたと思い安心した。

その時2人はある女性がこちらに向かってくるのに気付く。

バロンのパーティメンバーのウィドウだ。


「あら?タケルはどこにいるのかしら?」


タ、タケル呼び……!?

2人は電流が走り驚愕していた。いつの間にタケル呼びをしていたのか不明だが、一応ゾエラが対応をする。


「タケル君なら今、新人戦で倒れて治療中です……!」

「情けないわね、私に勝ったくせになんでぶっ倒れてるのよ」


前に説得し心を打ち明けたと思っていたが、負けたことに関してはまだ根に持っているウィドウ。

だが昔のような鋭い目つき等はなかった。

心做しかウィドウが丸くなったように見えた2人。


「……まぁいいわ。ねぇ2人とも、私が持ってきた耳寄りな情報聞きたいかしら?」


2人はフルトロン代表から話を受けることに関してはもう驚きもなかった。

だがウィドウから直接話を持ちかけてくるのは珍しかったのか2人は少し驚いた。


「貴方達、仲間を一人募集してたわよね。戦力になる人を見つけたから紹介しようと思うのだけどいいかしら?」

「ほんとか?!」


ガタッと立ち上がったガルドは1番ワクワクしていた。

新人戦が始まる前までは何一つ進展がなかった募集の件が、終わった後に来たのが少々嬉しかったのだろう。

目をキラキラしながらウィドウを見つめるガルド。

続けてウィドウは経緯を説明する。


「募集の紙を見て言おうと思ったけど、新人戦があったから言うタイミングが無かったらしいのよ。それでわざわざ私の方まで来て伝えて欲しいって言ってきたわけ」


わざわざウィドウを通すのが少し不思議だったが、それよりも新人が来る事のワクワクが勝っていた。

するとウィドウは集会所の扉に居た女性に声をかけた。

そこには青い髪に杖を持ち、ゾエラとガルドより背が低い魔法使いが居た。


「この子の名前はマーチ。私の弟子よ」


「え、えっと……マーチ・キャルトルと申します!よ、よろしくお願いします!」


マーチは深いお辞儀をして自己紹介を始めた。

ウィドウに比べて礼儀が良い魔法使いだな、と言おうとしたガルドだが何とか押し殺した。

ゾエラはマーチに近寄り続けて自己紹介を始めた。


「私の名前はゾエラ!ゾエラ・クロエです!それでこっちにいる角が生えた人は、ガルド・ヴァン・ボルザークっていううちのパーティメンバーです!」

「それでこのパーティの情けないリーダーの名前は鈴木タケルよ」

「ヌシ、タケルにボコボコにされてたじゃろ」


その瞬間、ガルドは気絶寝を食らいその場で倒れた。

ウィドウはゾエラの方を向いて笑顔で振舞った。

その笑顔は下手に言葉を発すと殺される笑顔だった。

ゾエラは何も言わず、ウィドウに対して笑顔で返した。


「タ、タケルさんはいつ帰ってくるんですか?」

「あ、えっと、明日まで安静にしておけって。そう言われたから明日までどうするか決める途中だったの」


マーチは話を変えようと慌ててゾエラに話を振り、ゾエラもそれに対応する。

2人はアセアセとしながら次の話をしようと考えるが、頭が回らなかった。

するとゾエラはふと頭に疑問がよぎった。


ウィドウさんを倒したタケル君に恨みとかないのかな?

でも、タケル君はウィドウさんを助けた訳だし……。

大人しい子だけどそんなふうに思ったりするのかな?


だがゾエラは深く考えずにその質問をするのを辞めた。

ふとウィドウの方を見ると、医務室に向かっていた。

心配になって見に行ったのかな?と思い一緒に行こうとしたが、マーチはゾエラの袖を掴んで下を向いて話しかけてきた。


「ど、どうしたの?」

「私……」


ゴクリと固唾を飲む。

ゾエラはドキドキしながらマーチが発す言葉を待つ。

何か私にしか言えない事があるのか、もしくは依頼か。

不安だったゾエラだが、グッと覚悟を決めた。

その瞬間、マーチのお腹から音が集会所に響いた。


「……お……お腹減りました……」


一気に緊張感が溶け固まるゾエラ。

音が鳴った方を一斉に見る冒険者。

響き渡る空腹音で起きるガルド。

恥ずかしくて赤面を隠せていないマーチ。

集会所内は沈黙で時間が少々止まったように感じた。


「……なにか注文しよっか……」


静寂で包まれている中、ゾエラはマーチに優しい一言で話しかけた。

マーチは両手で顔を隠し、コクリと頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る