第13話 タケル_危機



〜岩石エリア〜


「お前の名前は既に電光掲示板で把握済み。俺が名前を言えば完全に俺の勝利だぜ?」


ルルマのノートには既に俺の名前が記入されていた。


「直接拳で来ないのかよ?お前はそうやって上から命令したせいで、近接戦が得意じゃないんだな。」


ノートを見ながらニヤニヤと笑うルルマに対して、俺はルルマに煽りを行なった。

するとルルマはまんまと俺の策に引っかかり、ノートを閉じてこちらに向かってきた。


「どうやってダズを倒したか知らねえが…そんな調子で挑んでると痛い目見るぞ……!!」

「逆にアドレナリンがドバドバ出てる状態で闘わねえと調子が出ねえんだよ!」


ルルマは腹を立てたのか、名前を言わずに俺の顔面に攻撃を仕掛けてきた。

だがやはり近接戦では俺の方が一枚上手だったようだ。

拳を見切って横に回避し、奴の顔面に殴りを入れた。


「ルルマ選手が殴りを入れられた!これはタケル選手優勢かぁ〜!?」

「ガルド選手との対決もあり、かなり体力が消耗してますね」


その場で倒れ込むルルマだが、集会場に移行しなかった。

それどころかルルマは笑っていた。

まるで俺達をバカにしているような笑い方をしていた。


「スズキタケル、浮け」

「なっ……!?」


ルルマがそう言った瞬間、俺はゆっくりと地面から浮いたと思ったら勢いよく上空に飛ばされた。

それと同時に、こいつに勝てるか危ういと確信した。

何故なら、能力を受けているからだ。

ゾエラもガルドも冒険者達も、皆絶望に包まれていた。


「そのまま落下しろ」

「嘘だろ……!?」


ギュンと地面に近づき、そのまま叩きつけたれた。

石と砂が舞い上がってタケルの生存が不明の状態だ。

だが影を見ると両足を地面に着き、何とか踏ん張ってる状態だった。

足がジンジンと痛み、立っている事が不思議なぐらいだ。


「タケル選手!なんと立っております!あの上空から足が折れてもおかしくないのに!?」

「こいつ……しぶとい雑魚が……!!」

「っ!」


立ち上がるルルマを目にした俺はすぐさま口を止めようと、ルルマに向かって走っていった。

足が痛いがそんなのは今痛がっても仕方がない。

口を塞ぐため俺はルルマの顔面にもう一度殴りを入れようとする。

だがルルマはそう甘くはなかった。


「後ろに吹っ飛べ」

「うっ……!?」


瞬きをした時には既にルルマとの距離が離れていた。

そして同時に背中から痛みが伝わる。

言葉を発した瞬間、後ろの岩石にぶつかっていたのだ。

ルルマはこちらに向かって歩いてくる。

致命傷判定じゃない俺をまだ痛めつけるつもりだ。


「……てめ……ぇ!」

「仇はそんなものかよ。もっと強くなってから出直してこいや!」


今まで受けてきた攻撃を、全て凝縮したような怒りの拳が繰り出された。

何も出来ない俺は痛みよりも、悔しい気持ちが勝っていた。

ここでこいつを仕留めないと、ゾエラはこれからも悲しむ事だろう……。


「タケル選手……これは痛々しい状況です……!」


頬を殴り続けられ、最後に腹を殴られる。

まだ……こんなのは致命傷ではない。

こんなのゾエラの苦しみに比べれば……擦り傷だ……!!


「こんな実力でダズを倒したのか?」

「……どうやらお前と俺は相性が悪いんだよ」


するとルルマは指パッチンをし、俺の洗脳を解いた。

どうやら、俺と肉弾戦を行なうらしい。

ルルマは拳を構え、攻撃態勢に入った。


「……?」

「相性が悪いなら、拳でやり合おうぜ?もし俺が負けそうになった時は能力を使うけどな?」


冗談じゃない。こんなボコボコにされている俺対ルルマは明らかに不利な状況だ……!!

痛みでフラフラの俺は、逃げようとするが当然ルルマに捕まり攻撃される。


「……こ、これは……ひどい……」

「致命傷判定にならないのおかしいですね……」

「タケル君……!」


ゾエラは口を手で押え、絶句していた。

ルルマにタケルの能力が通用しないという事実が大きすぎた。

ルルマは一方的に俺に攻撃をしている。

馬乗りになり、俺の顔面をずっと殴っていた。

暫くすると殴り疲れたのか、馬乗りの状態で休憩をし始めた。

そこで俺は起き上がると同時に、ルルマのデコに頭突きをした。


「次は……俺の番だ……!」


もう致命傷判定と言っても過言では無い。

だが俺はまだ諦めなかった。致命傷でもゾエラとの約束を守るために……。

頭突きを食らい、その場で尻もちをついたルルマに顔面パンチを食らわせてやった。


2回目の攻撃。後ろに倒れたルルマは起き上がり、立っていた俺の足を崩す。

膝から崩れ落ちる俺に、腹パンを決めるルルマ。

実況者ももうこの泥試合に言葉が出なかった。


「はぁ……はぁ……」


息ができない。恐らくみぞおちに入った。

呼吸を整える余裕さえ貰えなかった。

俺の腹を蹴りゴロゴロと転がす。その様子をルルマ笑っていた。


「がっ……はぁ!……やめだ!」


呼吸を整え呼吸ができるようになった俺は、産まれたての子鹿のような足の震えで立ち上がる。

俺は立っているのがやっとという状況で、ルルマに対して叫んだ。

やめだ。という言葉にルルマは不思議そうにこちらを見る。


「……はぁ?」


ルルマはノートを開き、俺の名前を喋ろうとした時。

咄嗟に俺はルルマの呼びを俺の声量で止めた。


「…俺の負けだよ、ルルマ。お前は強い」


突然の褒め言葉に驚きを隠せないルルマ。

何か裏があるのではと、意識を固めるが今のタケルに何もすること…できることはなかった。

ただ何かの交渉するだけだとルルマは、俺に近づく。


作戦に引っかかった。


「お前、このバトロワのルール聞いたか?」


当然ルールを聞かずに、早く始めようってした奴はこいつだ。

つまりこいつらはルールを知らない。

致命傷になれば集会場に戻されることしか知らないはずだ。


「ルールなんて簡単だろ?お前を殺して賞金を手に入れるだけの簡単なルールだろうが!!」

「そう、それがこのバトロワのルールだ。だがあんたはそれしか知らない……説明を聞いていないからな」


ルルマと俺は向かい合い立ち尽くす。

ルールを詳しく聞いていないルルマは、笑って言い返すしか無かった。

俺は口から流れている血を拭き取り、続けてルルマに話しかける。


「その格好、だいぶ俺の仲間にやられたらしいな。もしかして苦手な部類だったか?」

「苦手だったが集会場に戻してやったよ。俺に負けるヤツは大抵雑魚だからな」


ルルマはなぜいきなりそのようなことを聞き出すのか疑問を感じたが、パーティメンバーの俺に嘲笑って返答した。

だがその余裕ももうすぐ絶望に変わる。

いつ殺されるか、いつ殺すか。そんな緊迫した空気が続く。


「結局何が言いたい。お前は俺との戦いをやめる、俺に負けた女の話をする……今更時間稼ぎか何かを行ってんのか?」


ルルマはノートを開き、俺の名前を叫んだ。


「スズキタケル……心臓発作!」

「おっと!?ルルマ選手!タケル選手に命令を発行!どうするタケル選手〜!?」


その瞬間、俺の心臓がドックンと言う音が身体中に響き渡った。

それと同時に視界が揺らぐ。だが俺は胸を押さえ、ルルマに向かって叫んだ。


「……生き返れぇ……ガルド!!!」


そう叫んだ瞬間、俺はドサッと倒れ呼吸を整える。

ルルマはその言葉を聞き、頭の整理を始めた。


「蘇生……!?そんなスキルがあったのか……!!」


スペシャルスキル『蘇生』

脱退したメンバー1名を復活させる、1度きりのスキル。

傷も全て完治したガルドが、ルルマの後ろでヤンキー座りで座っていた。


驚いたルルマは後ろを振り向くと同時に、顔面に素早くそして重い一撃が決められた。


「決まったァ!!タケル選手!ガルド選手を復活させ、見事に右ストレートが入ったぁ!!」


近くの岩石にぶつかり意識が飛びそうになるルルマ。

だが気絶させる余裕すら、俺達は与えない。

なぜならゾエラの傷に比べたらこんなの擦り傷程度だ。

すぐに俺はルルマの元に走っていき追い打ちをかけにいく。


足が痛い。心臓の鼓動がまだ早い。口の中で血の味がする。

だからなんだ……そんなのは関係ない……!

今ここでこいつを倒してゾエラの仇を取るんだ……!!


「スズキ…タケル……!!ここで死n」

「っ……!?」


ルルマは必死に俺の名前を叫ぼうとした瞬間、俺の真横から押し出されるほど強い風が吹いた。

ガルドが能力を使って、ルルマの腹を殴っていたのだ。

遅れて打撃音が聞こえてきた。

凄まじい音が会場内に響き渡り、ルルマは白目を向いてその場で倒れた。


「……ふぅ、こんなもんかのぅ」


パンパンと手を払い、腰に手を付くガルド。

それを見て鼻で笑う俺。


「タ、タケル選手パーティー……優勝ー!!!!!」


その瞬間、集会場にいた冒険者達は全員歓声を上げていた。

まるで魔王を倒したかのような歓声っぷりだった。

ゾエラもその歓声を聞いて、涙を流していた。

あの言葉を信じていて……本当に良かった。


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ルルマ 脱落

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激闘の末、新人戦はこれにて幕を閉じた。

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