第16話 能力者_決闘


〜草原エリア〜


「この辺でいいかなー?」

「はいー!」


マーチとゾエラはお互い離れた場所で始める。

ガルドとウィドウは少し遠い木の下から見ていた。

風の音、草が掠れる音だけが響く。


「先に参ったって言った方が負けじゃぞ〜!ヌシら死ぬんじゃないぞ〜!」


ジリッ……と踏ん張り両者構える。

見張り組にある木の葉っぱが取れた時、マーチは詠唱を始め杖をゾエラに向けた。


「フレア!」


炎の球がゾエラに放たれる。


「炎の球……でもこれくらいは……!!」


ぶつかるギリギリの時にゾエラは能力を発動し、右に避ける。

ゾエラの右耳からヴォンと音が聞こえ、その方向を見ると

避けた先には魔法陣が出来上がっていた。


「!?これは……!」

「ワープ!」


交わされた炎が魔法陣に吸い込まれ、避けた先の魔法陣から出てきた。

避ける隙が無いと思いきや、ゾエラは片足を付けまるでイナバウアーのように避けた。

身体能力が向上しているため、体に負担はない。


「これを避けるとは……ではこれで……!」


マーチは杖を上にし、詠唱を唱え始めた。

体制を整えるゾエラ。だが頭上が暗くなったと思い上を向くと巨大な魔法陣が完成していた。


「なっ……!?」


ウィドウはニヤリと笑い、マーチの成長に喜んでいた。

マーチは自分の弱さと負けてしまう焦りが生じ、全身が震える。

だが期待を裏切る訳には行かないと、グッと杖を握る。

ゴゴゴと地鳴りがなり始める。ゾエラは上の魔法陣を見てグッと拳を握る。


「プレス……!!」


頭上の魔法陣から巨大な岩が少しずつ出現し始めた。

隕石と思うぐらいでかく…相手に絶望を与える程だ。

だがゾエラは絶望しなかった。


「絶望なんてするもんか……!」


もう逃げない……諦めない……立ち向かう……!!!

私の為に戦ってくれたタケル君やガルドちゃんみたいに……!

誰かを守る人に、私もなるって決めたんだ!!!

だからもう、このパーティで足を引っ張ってたまるか!


じりっと足を動かし、キリッと岩を見る。


「……撃ち砕く!!!」


身体能力を超向上させ、じわじわと近付く岩に飛んで立ち向かう。

ドゥっと轟音が鳴るとゾエラは岩の下まで飛んでいた。

ググッと右手に力を集中させ岩に殴りを入れた。


「ぐ……うぅぅ……!!!」


ヒビ割れが進行し始めたが、ゾエラはまだ力を入れる。

諦めないゾエラと杖を強く握り岩の落とす力を上げる。

だがマーチの方が若干劣勢であった。

その光景に師匠であるウィドウが驚いていた。

だがガルドはニヤリと笑う。


「……っ……壊すまで……壊し続ける!」


ググッと力をさらに引き出しヒビをさらに入れる。


「ぶっ壊れるまでぶっ壊す!!」


ゴゥッという爆音が響き渡った瞬間、太陽の光が次々と差し始める。


「っ………だぁぁぁああああああああ!!!!!」


岩で隠れていた太陽が顔を表す。


「私の究極魔法を……!?」

「打ち砕いた……!!」


ウィドウとマーチは今起きている光景に口を開けることしか出来なかった。


無数の岩の欠片がドサドサと草原に落ちていく。

マーチは杖をグッと握り、己の弱さを痛感した。

まるで欠片のひとつひとつが自分の涙のように。

今まで積んできた力。教えてもらった努力。

全てが今割れた岩のようにヒビが割れた。


割れた先には差し伸べられた手があった。

上を見ると笑顔で手を取ろうとするゾエラがいた。


「凄いね……マーチちゃん!」

「……え?」

「上手く表現出来ないけどこう……相手に通用するレベルの強さだった!」


語彙力がないが頑張って励まそうとしているゾエラ。

だがマーチにとってすごいという言葉は、落ち込んでいるマーチに対して嬉しい言葉だった。

遠くで見ているガルドは苦笑いでゾエラの語彙力に呆れていた。


「……ありがとう……ございます」

「えへへ……魔法使いってやっぱり強いんだね……!」


相変わらずゾエラは初対面の人と接するのが得意だ。


「今はこんな弱い私ですが……みんなのパーティに入って……より一層強くなってみます!!」

「うん!!その意気だよマーチちゃん!」


座っているマーチに手を差し伸べ立ち上がらせる。

その光景を見ていたガルドとウィドウは保護者のように見ていた。


「負けたぞぉ?ヌシの弟子」


嘲笑うかのようにウィドウに向かって煽り言葉を放つ。


「後でしばきね。でもまぁ……あの子は戦える程度まで教えてあげた。後は貴方達の教育次第……」


ウィドウが少し悲しげな顔をしながら、ガルドに小声で喋る。


「……よろしく頼んだわよ」

「……承知じゃ」




〜エルザル〜


ファステルの5倍難易度が高いクエストが用意されている。超上級冒険者が集う代表村のひとつ。

通称"魔王に最も近づける村"


雰囲気はフルトロンより外装が豪華。

顔が厳ついパーティが見受けられる。

その雰囲気も一瞬。城門前から突如爆風が起きた。

悲鳴等が飛び交う中、エルザルの村長が住む屋敷に1人の執事が村長室に入る。


「村長様!緊急事態です……魔王軍の配下が攻めてきました!」

「……いつも通り代表班を出せば良いだろう」

「それが……いつも来る配下の強さではなく……!」


村長室の窓が一気に割れ、風が押し寄せてくる。


「……カイルお姉様、ここに村長らしき人がいます」

「type.06で殺しなさい」

「承知致しました。……type06」


鋼色の固体を手から出し、ポイッと村長室に投げ入れる。


「村長様!」


執事やボディーガードの人達が村長を囲った瞬間、固体からいきなり無数の針が全方向に飛び出し、次々と刺さって倒れていく。

村長は無傷で済んだがカイルとエテルナは当然どこかに行かず入り込んできた。


「貴方達の代表パーティ、本当にみんなから認められていたのかしら?弱すぎたわよ」

「ここの村は初めて来ましたが……魔王に最も近づける村とはよく言えましたね」


カイルがピンク色の固体を村長の机に置く。


「貴方の村は今日で崩壊。生きてるのも苦だろうし、それに触れて死ぬといいわ」


このような状況でも村長は冷静だった。


「ここの村は……他の村より魔王の配下と闘ってきた代表村だ。お前ら……そんなに強くなっているのはどういう事だ……?」


魔王の配下はここエルザルに進軍する時があったが、なんなく代表班が倒していた。

だが今回の事例はおかしい。配下にしては強すぎる。


「……まぁあんたはこれから死ぬから教えてあげるけど、魔王様の血をもらったのよ。たっぷり」


魔王の血を飲めば、今までの力とは桁違いの力を引き出せるようになる。

魔王から認められた配下は血を分けていたのであった。

その説明を聞いた村長はため息を着く。


「……これを押せば何が起きる?」

「爆発よ。爆死してそこら中に寝ている死人と一緒に来世を迎えるといいわ」

「最後に村人達に言葉を伝えてもよいか?」

「いいわよ。最後の遺言、一緒に聞いてあげるわ」


覚悟を決めた村長は立ち上がり村放送を行った。


『聞こえるか村に住む人々よ……今までご苦労だった。このエルザルという村は今日をもって崩壊する。ここに住んでいるものは急いで他の村に逃げなさい。……私はここの村長だ。ここの崩壊は私が見送らなければならない』


カイルが村長を見ながらエテルナに指示する。


「……エテルナ、バリア」

「はい、カイルお姉様」

『エルザルに光あれ』


スピーカーから爆発音がなったと思ったらピーと故障音が鳴り放送が中断された。

村長室が爆発し、村人達はザワザワし始める。


「……エテルナ。後は村人の排除をよろしく」

「……はい、カイルお姉様。……type.10」


村人達の魂が村長室に向かっていく。

ドサドサと倒れていく。泣き始める子供…赤ちゃんを抱えて魂を抜かれる母親……村から逃げる前に抜かれる人……。


エルザルがあっという間に廃村になった。

……たった4分の出来事であった。

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