第11話 ルルマ_始動


〜岩石エリア〜


「ガルド……へぇ、お前ボルザーク族の1人か?」

「だったらなんじゃ?もしかして怖気付いたか?」


ルルマはノートにガルドの名前を書き込む仕草を行おうとする……が、しかしガルドはそれを見逃さなかった。


「これがヌシが愛用してるノートか。名前だけ書いて……趣味が悪いノートじゃのぉ?」

「おぉーっと!ガルド選手!彼が持っているノートを奪っている〜!これはルルマ選手どうする!?」


いつの間にかガルドはノートを片手に、ルルマの後ろにいた。

ガルドはノートを開き自分の名前が書かれていないか確認するが、どうやら書いてはいなかったようだ。


「ちっ……!」


電光掲示板に書かれているガルドの名前を見ようとするが、既にガルドが隠しておりルルマの顔面に蹴りを入れた。


「蹴りを入れた〜!!これは致命的ではないかぁ!?」

「こすいやつじゃのぉ。ヌシそこまでして100万がほしいのか?」


吹っ飛ばされたルルマに近づくガルド。


「へっ、これだからボルザーク族は嫌いなんだよ。名前がいちいち長いからな」


ゆっくりと立ち上がるルルマに対して、ガルドは電光掲示板の前に立ち見せないようにしていた。


「ヌシ、うちのパーティメンバーを虐めてたじゃろ」

「はぁ?誰の話だよ……」


虐めた本人は覚えてなくても虐められた本人は死ぬまで覚えているという典型的な例だ。

彼は全くもって覚えてなさそうな素振りを見せている。

その言動を見たガルドは血管が浮き上がるほど憤怒していた。


「ヌシはゾエラを虐めてたじゃろ!!ヌシを見て吐き気を催すほど恐怖しておったんじゃぞ!!」


ゾエラという人物を聞いたルルマは一瞬ハッとする。

だが嘲笑うかのような反応を示す。


「あぁ〜あいつな、いいカモだったよ。全然動かねえ時はカッターとかで傷入れて分からせてやったっけか」


ガルドはそれを聞いた瞬間、もう既にルルマの腹に本気の腹パンをしていた。


「がっ……!?」

「こ、これは!?腹パンです!しかも重い一発……!」


ルルマのみぞおちに入った為、息が出来ない。


「致命傷を受けたら集会場に戻るんじゃったのぅ。けどゾエラが今まで受けた傷に比べたらこんなもの、擦り傷程度じゃろ」


倒れ込んでいるルルマに思い切り殴ろうとする。

だがその行動がルルマにチャンスを与えることになる。


「……はぁっ!」

「……ガルド・ヴァン・ボルザーク!」


息が出来るようになり、ガルドは掲示板を離れた為…名前が見えた。


「……しまっ!?」


ここからは……ルルマのターンだ。

解除と言うまでルルマの手の平の上で踊るしかない。


「ガルド選手!ルルマ選手に名前を言われてしまった!これはもう動けない!」

「はぁ……随分と虐めてくれたなてめぇ……」


ルルマはガルドに近づき、ガルドの顔面に殴りを入れた。


「ちっ!動け……!」


だが、動かない。いくら願っても。いくら動いても。

完全に彼の言いなりになってしまったガルド。

自分の弱さに腹を立てるが、それよりもゾエラの仇を取れなかった事により腹を立てた。


「あいつはワンワン吠えながら動いてくれたよ。今はお前らのパーティにいるとはなぁ。今もパシリか?」

「ふざけ……!!」


否定しようと叫ぶが、ルルマはガルドの腹を殴って黙らせる。


「がは……!げほっげほっ……!」


実況者も解説者も、モニター越しで見ている冒険者達も……全員公開処刑を見ているかのような気分だった。

こんな冒険者が居たのかと、恐怖を感じた。


「なんだよこれ……まるであの男敵じゃねえかよ……」

「中止にさせろよ運営!こんなの見てられねえよ!」


走ってきたゾエラが集会場の門を開けモニターを見る。

そのモニターにはガルドがボコボコにされ、それを面白がっているルルマが映っていた。


「……ガ、ガルドちゃ……!?」


虐められていた記憶が蘇り、再び吐き気を催すが我慢した。


「ヌシは最低じゃの……こんなか弱い女を虐めて楽しいか?」

「手駒が増えると支配感を得られて楽しいんだよ」

「……ヌシの手駒なんて死んでもゴメンじゃな」


その言葉を聞いたルルマは少しイラッとし、再びガルドに蹴りを入れる。

それを見ている冒険者達は目を背ける。

こんな光景、もう見たいやつはいないだろう。

だがゾエラは違った。あの言葉を信じて見ていた。


『そいつが負けるとこ見たけりゃ来い!』

「……ガルドちゃん……タケル君……!!」


ルルマは少し距離を置き、ノートを取りに戻った。


「お前、俺に攻撃を入れた初めての相手だよ。誇りに思えよ?」


ルルマは指パッチンをし、ガルドの拘束を解いた。

急いでガルドはルルマに反撃しようとするが、1歩歩いた瞬間倒れてしまった。


「お、おぉっと?!ガルド選手が倒れてしまった……!」

「急所に入れて暫く動けない状態にしましたね」


ルルマはガルドの急所を殴打していたのである。

その場で悶えるガルドに対し、ルルマは完全に立場が逆転した為か嘲笑っていた。


「くそっ、ヌシ……何処までも最低……じゃな…!」

「おいおい、拘束は解除したぜ?動いてみろよ……」


バカにしているようにしか見えない言動を見せる。

でもガルドは殴られてばかりではなく、策を考えていた。


「おい、ヌシ。ゾエラを虐めていた時もこんな気持ちじゃったのか?」

「……あぁ?あいつはただのボロ雑巾だろ。俺が見つけた唯一動ける犬なんだからよ」


するとガルドはゆっくりと腰を上げ座り込む。


「……限定解除……」


ガルドの角が激しく光る。音は鳴っていないが空耳で聞こえるほど光っていた。

その光景を不思議そうに見るルルマだが、瞬きをした時にはもうガルドはいなかった。


「……はっ?」


気づいた瞬間遅れて爆音が鳴り響き、岩石が振動によって岩が浮き上がる。


「なっ……何が……!?」

「なっ……!?何が起きたぁ〜!!??突然岩石が浮き上がっている〜!!」


頭の整理がついていないルルマだが、真っ先にガルドの名前を口にしようとした。

だが二度目はない。


「言わせるか」


ガルドはルルマに小さな岩を口に突っ込み、地面に叩きつけた。


「がっ……!!?」

「ワシらが棄権しなかった理由はヌシをしばくためじゃ。そこで頭を冷やしておけ」


浮き上がった岩石が次々と落ちてくる。

今まで受けてきた傷のせいか、今の叩きつけで動けなかった。


ガルドは急いでタケルの方に向かいに行こうとした時。


「ガルド・ヴァン・ボルザーク…」


もう既にルルマは口に入っていた岩を取り、ガルドの名前を喋っていた。


「ヌシ……!?」

「致命傷になり、集会場に戻れ……!!」


その瞬間、ガルドの視界が揺らぐ。ゆっくりと血を吐きその場で倒れた。


「ふっ……少し俺は休憩してお前のパーティメンバーをシバキに行ってやるよ」


大きい岩石が落ちていく音が聞こえる。

声が出ない。けど声を出して怒鳴りたい。

自分の弱さに。助けれなかった己の無力さに。


フッと消えるガルド。集会場に戻ってしまった。

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ガルド・ヴァン・ボルザーク 脱落

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〜集会場〜


「ガルドちゃん!」


涙を流しながらバタンと医療室に入るゾエラ。


「ゾエ……ラ」


ガルドはゾエラに合わせる顔がなかった。

あんな大口を叩いて今ガルドはベッドで治療状態だ。


「すま……んのぅ……」

「謝らないでよ……!見たよ、ガルドちゃんの勇姿……」


それを聞いたガルドは笑顔で返し、目を瞑った。

いくら喋れるとはいえ致命傷の状態だ。

ゾエラはガルドの顔を見て集会場のロビーに戻った。



〜屋内エリア〜


「……お前の仲間がやられたな。2vs1だ」

「ガルドやられたのかよ……!」


実況者の声がかすかに聞こえる。岩石の落ちる音でよく聞こえなかったが、こいつが訳したおかげで今の状況が把握出来た。

開始して40分、不利な状況ではよく耐えた方だ。


「なぁダスさんよ。あんたの能力教えてくれないか?」

「敵に簡単に教えるバカがどこにいる?」


手っ取り早くあのルルマってやつを倒したいが、こいつはそう簡単に退いてくれない。

むしろ構えて攻撃体制になっている。


「行くぞ」


彼は地面を叩きつけ剣を錬成し始めた。

ズズッ……と地鳴りが屋内に響き渡る。


「寿命錬成(ライフスパン・アルケミスト)」


石で出来た大剣を両手で待ち構え、こちらに近づいてきた。


「ダズ選手の能力が発動〜!!錬金術師か!?」

「彼の能力は見てる方も使う方も苦痛です」

「一体どんな能力なんですか?」


寿命錬成

この世に存在する物は何でも錬成可能だが、それと同時にそれ相応の寿命も削れてしまう。

(銃などは5秒、世界1つを滅ぼすなどは20年程。)

今現在大剣を錬成した為、約10秒寿命が削れた。

彼の残り寿命は右腕にある擦り傷で確認可能。


「はぁ!!」

「ちょっ!?」


大剣を俺の目の前に振り下ろすが、間一髪で回避。

同時にヒビが入り建物の一部が崩落した。


「……寿命は残り63年12日48秒か。すぐに片付けるとしよう」


ダズは右腕を確認し、擦り傷を見て小声で喋る。

こいつが退かないならしゃあない……俺の能力の『対象内』か確認するしか道は無い……!!

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