第5話 最大級_魔法


〜草原 9:00頃〜


「……ウィドウのやつ、またここで修行か?」


バロン達はウィドウを探しに回っており、草原でようやく見つけた。

余程あの時が悔しかったのか、ウィドウの顔は怒りで血管が浮きでていた。


「最大級の魔法はもっと……こんな物じゃなくてもっと……!!あいつを倒せるほど!!」


杖を前に出し、1度大きくなった炎の塊を凝縮させ放つと、凄まじい爆音と共に草が激しく揺れる。

バロン達はそれを見守っていた。


パーティを結成して今日で三日目の奴らが……。

アイテムハンターを捕らえ、最大級を叩き門を壊す……。中々破天荒な奴らだな。


「ウィドウの最大級魔法、パワーアップしても無意味な気がしますよ。あの人にとっては」


バロンの後ろからパーティメンバーが話し始める。


「なぜだ?ロイ。あれ程の炎を持っていると流石にあの兄ちゃんも倒せると思うが……?」


バロンは腕を組みその場で座り始めた。


「奴の能力は打ち消す能力とみました。どれだけ速くても、強くても、呪いだろうが毒だろうが全部無効化すると思いますよ」


ロイは眼鏡をくいっと上げる。


「お前の能力が言ってんのか?それ」


バロンはウィドウを見ながらロイに問いかけた。

ロイの能力はリメンバーアイ。記憶眼とも言われる。

1度見たものは死ぬまで覚えており、そこから弱点や能力を探ったりする。不必要だと思った記憶は消去できる。


「えぇ、奴が叩いた時。炎がジリジリと消えていくのではなく炎全体がパーンと消えたんですから」

「あの兄ちゃん……。一体何もんだ?」


バロン達は草原でウィドウが特訓している姿をじっと見ていた。



〜集会場 12:00〜


「行け」

「嫌じゃ」


集会場の机で2人の男女が口論している。

体を前に出し圧をかけてるタケルと腕を組み圧に応じないガルドが話し合っていた。


「5万ガロン!草毟ってたらそのうち返せるだろ!」

「草むしりなんて誰がするんじゃ!もっと派手な依頼を思いつかんか!」


するとタケルは立ち上がり、依頼掲示板に向かい始めた。


「はぁ……一括で5万を貰える依頼……なんかねぇか?」

「依頼と言っても1万や3万。内容は迷子の捜索や草むしりばっかりじゃ。正直言って敵を倒してドーンと金をくれた方がマシじゃろ?」


ガルドはタケルのそばに近寄り、掲示板に難癖を付け始めた。


「なにかお探しでしょうか?」


奥から集会場のお姉さんが歩いてきた。


「あぁ、こいつの注文が多くてな。……なんだっけ?」

「お金チャラにしろって話じゃ」

「「出来ません」」


〜〜〜〜〜

「なるほど、一括で5万となると……フルトロンを出て旅を2日ほど行い、収穫したものを売却すればお金にはなると思いますよ」


自由捜索とは旅をし、収穫・討伐等を行えば報酬金が平均3万弱は出る。

しかし自由捜索は危険が多い。前みたいにアイテムハンター等が出没しやすい。

初心者などは向いていない特別な依頼内容である。


「よいじゃないか!タケル早速準備していくぞ!」

「違ぇよお前だけだよ行くのは」


俺は即答でキッパリ断った。


「とは言ったものの……こいつをその辺に放出したらだるいことになりそうだしやめておくか……」


俺は頭を掻きながら今1度依頼掲示板に目をやる。


「タケル。さっきから門から視線を感じるんじゃが。知り合いか?」


ガルドはクイクイと袖を引っ張り俺を呼ぶ。


「……なんだ?」


俺はガルドの向いている門の方へ向くと、そこには見覚えがある女性が立っていた。


「久しぶりね。スズキタケル」

「ウィドウさん……!」


最上級魔法を叩き落とした以来だ。ウィドウの杖が前より大きくなって見た目が強化されていた。


「バ、バロンさん達は?」

「さぁね、私に呆れてどっかいったんじゃない?」


ジリジリとこちらに近づいてくる。

俺の前にガルドが立ち、ウィドウを睨んだ。


「ヌシ、タケルと知り合いか?」

「退きなさい、死ぬわよ」


ウィドウはガルドの額に手を当て魔法陣を広げる。


「|気絶寝(スリープショック)」


バチンと音が集会場に響いた。目と咄嗟に瞑り、目を開けるとガルドは後ろに倒れ始めていた。


「ガ、ガルド!」


俺は慌ててガルドを支える。


「安心しなさい。その子は気絶してるだけよ」


今の音で集会場内がざわつき始める。


「ウィドウさん!なんでこんなことすんだよ!」


俺はガルドを床に寝かせ、立ち上がり叫んだ。

ウィドウは俺をギロリの睨む。


「全部貴方のせいよ。私の魔法をいとも簡単に消した。そのせいで私は怒りが収まらないのよ!!」


ウィドウは拳を握り、怒りをあらわにした。


「リベンジマッチよ。草原に来なさい。もし私が負けたらバロンのパーティを脱退し冒険者を辞めるわ。」


ウィドウは覚悟を決めた目をしていた。


「な、何でそこまで……!?」

「私がいても貴方で解決するからよ。意味が無いって事。私が今まで努力した結果も貴方で全て無駄という事よ!」


ウィドウは暫く俺を見て、集会場を後にした。


「待ってるわよ。スズキタケル」


ウィドウの目は覚悟をしていて……

それでいて悲しい目をしていた。



〜草原 13:00〜



俺のせいでウィドウさんが辞めるなんて、そこまで俺は追い詰めていたのか……。

……ふざけんな。そんなこと絶対にさせねえ……!


俺は草原に着き、ウィドウを探す。


「遅かったわね」


後ろを向くと、ウィドウは浮いている杖に座っていた。


「……ウィドウさん。考え直してくれ!冒険者は沢山いてこそだろ!?俺のせいでもあるけど……勝手に辞めるとか言わないでくれよ!」


俺は必死で説得する。だがウィドウは杖から降り血相を変えてこちらに近づいてくる。


「意味無いって言われたのよ。私のパーティメンバーにね。いくら修行をしても貴方には勝てないって」


浮いている杖を手に取り俺に向ける。


「ここで貴方を倒せなかったら私は居る意味が無いの。貴方で解決するからね……全て」


俺は今までの記憶を思い出す。

ロボットの女の攻撃を食らって……ゾエラのバフもかかったんだ。


「俺は無敵じゃない。たまたまウィドウさんの攻撃に耐性があっただけだ。俺もこの能力を分かっていないんだよ……!」

「……何よそれ。たまたま……!?」


ウィドウは杖を上に向け炎を溜め始める。


「待ってくれウィドウさん!落ち着いてくれよ!」


止まらない、ウィドウはもう誰にも止められない。


「ウィドウさん!」

「私は貴方が憎い……!!私の努力を全て消した貴方が憎い!」


炎の塊を俺に放ってきた。近くなる度体が熱い。

涙目で声が震えていたウィドウが叫んだ。


「プライドを削った|お前(・・)が憎いんだよ!」


俺は炎の塊を殴って爆音を鳴らしながら打ち消した。

今まで頑張った……努力……プライド?


「……馬鹿野郎!!」


ウィドウはハッとし俺を見る。


「あんたのプライドはそんなもんかよ!」


俺はウィドウに走って近づく。


「……!!」


ウィドウはいくら俺に攻撃しても効かないことを悟り後ろに下がることしか出来なかった。


「冒険者ってのは、依頼を受けて依頼主を助ける!そういうお仕事じゃねえのかよ!」


俺は拳を握り、ウィドウの前でしゃがむ。


プライドだって努力だって……今から起きる出来事だって……!俺じゃなくても出来んだろ!

もう一度あんたを覚まさせてやる……!!


「冒険者を舐めてんじゃねえぞ!!!」


ウィドウに強烈なアッパーを決める。


「がっ……!!」


少し浮きドサッと落ちるウィドウ。


「……俺の能力は俺一人で全て解決できるような能力じゃないんだよ。勝手に俺を最強にしないことだな」


息を切らしながら、上着を脱ぎウィドウに被せた。


「今日は寒いからな、暫くそこで頭冷やしといてくれ」




〜集会場 14:00〜



「ガルドは?」


俺は集会場のお姉さんに問いかける。


「こちらでゾエラさんといますよ。気絶はもうしておらず寝ている状態です」


その報告を聞き俺はホッとした。


回復室をガラガラと空けると、ゾエラがガルドを見つめていた。


「ゾエラ、遅かったな」

「タケル君!また寝坊しちゃった……」



〜〜〜〜〜

「そっか……ウィドウさんが……」


ゾエラは少し悲しい顔をする。


「俺が今出来ることをした。今から起きることは分からない。でもウィドウさんは少し変わると思うぜ」


するとガルドは目をパチっと開けガバッと起きる。


「……良く寝た。」

「ガルドちゃん!心配したよも〜!」


ゾエラはガルドに抱きつく。


「ワシは確かタケルが知っている女にやられたんじゃ……っけ?」


ガルドはゾエラの抱きつきを無視し俺に問いかけた。


「あぁ、でももう安心していいぞ」

「そうか、じゃあよい……っておい!ゾエラいつまで抱きついておる!!」

「……いや、待て」


2人は俺の言葉に反応し頭を傾げる。


「お前が起きたんだ、行け」


ガルドは少し考え、ハッと思い出す。


「あ、そういえば5万まだだったね」


ゾエラはあははと笑いながら、ガルドに言った。


「ま、待てタケル!ほら!ワシ病み上がりじゃ!」


必死に俺を説得するが関係ない。借金5万パーティなんて異名が付いたらまじで困る。


「嘘つけ寝てただけだろ、行け」

「嫌じゃ!みんなで行くなら話は別じゃがな!」

「嫌だよ!お前が壊したんだろうが!!」


俺とガルドが喧嘩している姿を見てゾエラは笑う。


「回復室ではお静かに!!」


ナース的なお婆さんが回復室のドアから大声を上げ、俺たちに注意した。

反射的に俺達は「ごめんなさい」が言葉に出た。

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