第6話 魔王軍_登場
〜ファステル 11:00頃〜
俺たち3人はフルトロンの隣町、ファステルに来ている。
ガルドの借金返済が目的だが、俺とゾエラは観光目的で着いてきただけだ。
『5万ガロンと返済するならファステルに行ってみては如何でしょうか?依頼内容もランクアップしてますよ!』
集会場にいたお姉さんが教えてくれなかったら今頃ガルドは草むしりをしてただろう。
「のぅ、タケル。集会場はどこじゃ?」
「この道を右に曲がったらあるらしいぞ」
「依頼も難しいって聞きますよ?ガルドちゃん大丈夫なの?」
中身がうっすい会話をしていると前から見覚えのある人達がこちらに歩いてきた。
「お、兄ちゃんじゃねえか!」
バロン達だ……いつも後ろにいるウィドウは見当たらなかった。
「バロンさん……」
俺は何故か言い出せなかった。言葉が詰まる。
だがバロンが俺の肩を叩き大きい笑いを上げた。
「ウィドウなら俺達の宿で寝てるぜ!ガッハッハ!」
正直ホッとした。辞めるとか何とか言ってたが俺の言葉が通じたらしい。
「んで、お前らはファステルで依頼を受けんのか?」
「そうじゃ!ワシの借金があるからの!」
ぐいっと俺の前に立ちバロンに自慢げに言う。
「ガッハッハ!嬢ちゃんか!門破壊の角女ってのは!」
アホみたいな異名つけられてるじゃねえか。
「な、なんじゃと!?あの集会場の門が脆いだけじゃ!もっと強度を上げない集会場が悪いんじゃ!」
諦めてくれガルド。
「まぁ頑張れや。ここの依頼はフルトロンより3倍ムズいって事は教えておいてやるぜ。じゃあな!」
捨て台詞を吐きスタスタと歩いていくバロン一行。
それを聞き俺達は少しワクワクしていた。
「よし!ヌシら!頑張って依頼をこなすぞ!」
「「いや、貴女だけですけど」」
〜〈ファステル〉集会場 11:30頃〜
ガルドは依頼を受け速攻走って行った。
まぁ、迷子の子猫を5匹捕まえるっていう依頼じゃ死なんだろという事で受けさせた。
報酬はピッタリ5万ガロン、正直得すぎる。
「んじゃ、散策でもするか」
「そうですね!」
俺達は集会場を後にし、ファステルの街を歩き回ることにした。
〜〜〜〜〜
11:45頃
ゾエラはウキウキしながら洋服屋や化粧品屋などを物凄い速さで見回っていく。
正直女物に興味無い俺は「かわいー」「きれー」ぐらいしか言えない。現世でそんな経験をしてないから。
あれこれ回っている内にゾエラは俺に目をキラキラさせ話しかけてきた。
「ちょっとここの店気になるので入ってきますね!時間は大体3時間!」
「あ、はい」
3時間も待たされる俺の身を知らないのか。
まぁ、ゾエラも楽しんでるし俺も少し散策するか。
ゾエラの入っていった店の反対方向を少し進む。
「そこのお兄さん。少し悩んでますね?……フフ」
「……」
胡散臭い占い師が俺に話しかけてきた。
見た目は俺の少し上の女性。金髪で片目を隠しており、水晶玉を赤い机に置いて座っている……いかにもって奴だ。
「悩んでませn……」
「自分の能力について…不明点が多々ありますね?……フフ」
俺は占い師に身体を向け、少し動揺した。
確かに俺は今能力について分からない事が山ほどある……。だけどなんでそれをこの女性が……?
「なんでそれを?」
「占い師はなんでもお見通せるのです……フフ」
目をギラっと俺に向け、座れと言わんばかりに圧をかけてくる。
「占ってあげます……貴方の能力の正体を……フフ」
〜占場 12:00〜
「俺の悩みが分かるのって貴方の能力……ですか?」
水晶玉を見ながら、問いかける。
「当然……。私の能力は|絶対未来眼(デヴィネイション)。この世界で占いを完全に当てるのは私だけなんです……フフ」
彼女は水晶玉に手を置くと、目を瞑り呪文の様な物を唱え始めた。
そうか、ここは現世じゃなくて異世界。胡散臭い占い師なんて居ないはずだ。
すると彼女は目を開き、俺に質問してきた。
「お名前……教えてください……フフ」
「……あ、鈴木タケルです」
再び彼女は目を瞑る。沈黙とした時間が過ぎていく。
「……貴方の能力は対象者によって発動しますね……フフ」
彼女は少し照れながら俺に話しかけてきた。
「俺の能力……わかったのか?」
照れてる意味が分からなかったが、能力がようやく判明するかもしれない!
「分かったなら教えてくれ!やっと分かるんだよ!」
「……その……えっと……」
ますます彼女の顔が照れていく。
「こ、言葉じゃ嫌なので文字で書きますね……フフ」
すると彼女は紙とペンを取り出し書き始めた。
「……どういうことだよ?なんか危ないやつなのか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
貴方の能力は
「非童貞・非処女の人物に対して最強の力を得る。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……は?」
俺は紙を見て少し困惑していた。
それと同時にこれまで行ってきた行動を振り返る。
ゾエラのバフはかかった。ロボットの攻撃が効いた。
ウィドウの最大級魔法を叩き落とした……。
「……なんでこんな能力なんだよ」
「もう1つ違う世界にて……貴方は1つの偉業をなしとげた……からではないですか?……フフ」
『あるじゃないですか!取っておきの武器が!』
待て……。まさか!?
あの女が言ってた武器って……!!!
俺が童貞ってことか……!?
童貞だからこんな能力を得たのか……俺は!?
「あんた、俺の能力を見破ったって事は処女って事か……?」
「……フフ」
知りたかったが、知りたくなかった。
俺の能力……こんなアホらしい能力だったのか……!
「……でも貴方の能力は人を救う能力でもあります。現に昨日……1人の女性を救っていますから。……フフ」
水晶玉を見ると寝ているウィドウが映っていた。
後ろからゾエラの声が聞こえてきた。
3時間だったが早く済んだらしい。
「……俺のこの能力は嘘じゃないんだな?」
俺は立ち上がり、彼女に聞く。
「えぇ、私の占いに嘘はございません……フフ」
その言葉を聞き、俺はゾエラの所に戻って行った。
「あの女性と何を話していたんですか?」
すごく純粋な質問をしてくるゾエラに対して、俺は急いで嘘を考える。
「あ、あれだよ。ほら、未来の話だよ」
俺の頭の引き出しがゴミしかないことに腹が立った。
「へぇ〜!例えばどんなのですか?」
「こ、この街に魔王の配下が来るとか!なんつて!」
「あはは!も〜冗談はよしてくだ……」
その瞬間ファステルの入口付近から爆音が聞こえた。
「えっと、タケル君……私今すぐ逃げたいんですけど……入口に行かずにフルトロンに戻りたいんですけど……」
「は、ははは……まっさか〜……」
その瞬間ファステルの街から緊急サイレンが鳴り始めた。
『ファステル内にいる冒険者達は急いで市民の安全を守ってください!緊急事態出動者は直ちに入口へ!』
滅茶苦茶平和だったファステルが一気にざわつき始める。
俺達は汗をダラダラ垂らしながら呆然と立ち尽くすしか無かった。
すると奥から占い師の女性がこちらに走ってきた。
「ま……魔王の配下です……!集会場に逃げましょう!」
口癖のフフ。を言わないあたり本気で焦ってるのがわかる。
俺とゾエラ、占い師は集会場に向かっていった。
〜水辺の森林 14:00〜
「んじゃも〜!猫が全然見つからん!!」
プンスカ怒りながら森を歩いていくガルド。
「もう死んだってことにして帰ろうかの」
頭を掻きながら、物騒なことを言い出す。
(にゃー)
「……!猫の声がした……!」
鳴いた方向を見ると森の中で寝ている猫を発見した。
急いで依頼書に載っていた猫と見比べるガルド。
だがしかし。
「野良猫じゃ!!!!!!」
バシンと依頼書を叩きつけるガルド。それにびっくりした猫は逃げていった。
「はぁ……タケルとゾエラは今頃何しとるんじゃろうか」
いい感じの木の棒を見つけ、ブンブン振り回しながら歩いていく。
「……しかし、あの音はなんじゃったんだろうか……?」
どうやらガルドも少し聞こえてたらしい。
猫を探す依頼だったが、思い出したそれが気になりすぎて依頼どころではなかった。
ガルドは依頼を後にし再びファステルに向かって走っていった。
〜ファステル 同時刻〜
「なーんだこんなものなの?」
「このお方達、弱いですわね。カイルお姉様」
ファステルの入口で次々と倒れていく冒険者達。
回復魔法をかけている冒険者もお構い無しで倒していく。
「もっと強い冒険者はいないのかしらー?」
ピンク色の固体をふわふわと浮かせながら、冒険者達に問いかける。
「……お、お前らは……一体何者だ!?」
意識がある冒険者が彼女達に問いかける。
「四天王」
ピンク色の固体を一つにまとめ冒険者に叩きつけようとする。
「エアーバリア!」
10人ほどの男女が、攻撃されそうになった冒険者を守った。
ギシギシと鳴り響くバリアと固体。バリアが壊れそうだが、男女は粘って守っている。
「守ってばかりですわね、カイルお姉様」
「えぇそうね……エテルナ、魔力ちょっと貸して」
「はい、カイルお姉様」
青い固体をふわふわと浮かせる。するとピンクの固体と融合した。
「あたし達の力舐めすぎ。」
固体は地面に着き、ドォンと鳴り響く。
ギリギリ冒険者は逃げ出し、後ろに下がった。
「ちょこまか逃げるのが得意なようね」
固体がさらに大きくなっていく。
冒険者達はそれを見ることしか出来なかった。
ファステルに魔王軍が攻めてくるのは初めてだった為、立ち向かえる冒険者は……。
0だった。
だが、たった1人。
何も分かっていない冒険者が立ち向かっていた。
「さ、まずは入口の人間共からね」
投げつけようとしたその時。
カイルとエテルナの後ろから人が歩いてきた。
それに気付いた2人は後ろを向く。
「でかいのぅ〜……これが爆音を鳴らしてた正体じゃな?」
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