ゆうしゃにならずにせかいをすくえ!

なんぶ

ゆうしゃにならずにせかいをすくえ!

 この世界はたった一人の魔王によって牛耳られている。

 魔王の武器はたった一つのハサミだけ。

 そのハサミは紙も布も切れない。

 そのハサミが断ち切るのは『勇者が発生する世界線』だけ。


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ!


 「おや……どこかで『勇者』と呼ばれた者がいる……」

 パチン。

 この世界は断ち切られてしまった。


 「だーーーーっクソッ!!!! 感謝の言葉とかいらないーーーっ!!!」

 古臭い宿屋の一室で、大声を上げながら目を覚ました少年。

 「それ毎回やるのやめなって。さすがに迷惑だよ」

 少し年上の少女が呆れながら話す。

 「いいだろ別に、どうせこの世界線の人たちにとっては初めてなんだし」

 「でもいつも会計の時にちょっと小言言われるのも嫌なんだよ」

 少年は自身を盗賊の"あああああ”と名乗った。

 少女は自身を踊り子の”ねこ”と名乗った。

 二人は魔族に襲われた幼子を助け、感謝された。

 《ほんとうに ありがとう! あなたたちって まるで ゆうしゃ みたい!》

 もう口に出されては、こちらの手出しはできない。

 魔王が気付きハサミでこの世界線を断ち切るのを、ただ悲鳴を上げて見ているしかなかった。

 「もう何が正解なんだ? 助けた瞬間あの子に平手打ちすれば良かった?」

 「人としてどうかと思うけど、一番早いのはそれなのかもね……」

 「もうおかしいんだって。魔族を倒さないと呪文も筋肉もつかないし、魔族は決まって誰かを襲っているし、襲われているやつに気づかれずに倒せってこと?」

 「転職……はまだできないもんね。あと2つ山を超えた先の街じゃないと」

 「盗賊だって名乗ってるのに!」

 「もっと汚らしい格好をしてげんなりさせるとか? いや、でも助けられた時点でフィルターはかかるから、あまり意味ないか……」

 「飛び道具で見えない距離から倒せばいいんじゃないか?」

 「それってあなたも見えないでしょ」

 「…………うん」


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ!


 「きっ、奇跡起きたぞ」

 「奇跡とか言うのやめてよ縁起でもない」

 「でもこの村を越えたら魔王城だ」

 「ブーメラン戦法がここまで役に立つとはね……。あとは変なことを口走りそうになった人に煙幕をぶん投げれば、混乱してそれどころじゃなくなるって分かったのも大きかった」

 「”ねこ”……」

 「何? 変なフラグ立てるぐらいなら黙ってて」

 「分かった」

 「(立てるところだったんだ)」


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ!


 「本当に、魔力の反応は一つだけなんだよな?」

 「うん。それも、かなり微弱。形としては——ハサミが一つだけ」

 「魔王はただ世界線を断ち切れるだけってことなのか?」

 「お粗末だけど、そうみたいね。まあ、世界線を切除できるのって十分強大すぎるけど」

 「……倒される世界線がなくなれば、魔族も自由を謳歌できるもんな。誰も逆らわないわけだ」

 「ハサミも使いようね」


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ!


 「”ねこ”!」

 魔王の部屋前、最後の魔族の攻撃が重かった。

 少女は重傷を負ってしまった。

 「全然痛くない。足ツボロードの方がずっと痛かった」

 「次で大詰めなんだ、手当を!」

 「口が動かせる。呪文は話せるから後方支援はできる。手当するな。人でなしみたいなことを話して、できるだけいっぱい、多く、たくさん。発生しちゃだめなんだよ、ここまで来たのに」

 「で……でも……」

 「”あああああ”は下品で人手なしで平気で人の荷物を盗むし子供も年寄りも大人も同級生も嫌いで、そんな奴が魔王を倒さなきゃだめなんだよ、この世界は。お願いだから、善い人になんて絶対なるな!」

 「……そうだよな」

 少年は少女の太ももをソフトタッチし、少女の鞄からありったけの回復薬と強化薬を盗み、毒霧(効果は弱め)を少女に吹きかけた。

 「そうだよ、最低じゃなきゃあんたじゃない……!」


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ!


 「な……なぜ、ここまで来れた……!?」

 重い扉の先、魔王は恐れ慄いていた。

 「ここまで来れるのは繧�≧縺励cぐらいじゃなきゃ……ハッ!?」

 「そうだよ、ここまでの道中でその言葉は一度も出ていない。そして仕様上、お前は”それ”を言葉にできない……!」

 「な、は、ハサミ、ハサミ、断ち切れ——!!」

 ハサミは空を切る。

 何も断ち切らずに。

 「残念だったな魔王様。地獄で一緒に酒飲もうぜ」

 「な、わたしが、このわたしが繧�≧縺励cでもない男に——」

 ”あああああ”はブーメランをアホみたいに投げ、粘着質の虫をすごい数放して魔王に這わせMPを奪い、煙幕を焚いて混乱状態にさせ、自身は謎の踊りをしながら、魔王の周りをぐるぐると周回した。


 THANK YOU FOR PLAYING


いや〜長かったですね。やっぱり村人助ける系イベントはキツかったですねー。救ってるのに感謝されちゃダメは鬼畜でした。ゆうしゃって単語が出てきた時点でリセット、普通にキツかったんでシリーズ化はしません(笑)。我ながら50時間越えたあたりでバカだろと思いながらやってましたよ、ほんとに。噂じゃ魔王戦でバグるって聞いてたんですけど、本当にバグりましたね! あんな感じになるとは。でも、どういうプログラミング? なんですかね? その辺全然詳しくないんで詳しい人いたらコメント欄にうまいこと書いておいてください。あんまり大所帯だと勇者感出ちゃうかなと思って二人パーティーにしてたんですけど、別に人数関係なかったですね。とか何とか言ってたら動画時間1時間越えそうなのでこの辺で。ご覧いただきありがとうございました!


 ゆうしゃに ならずに せかいを すくえ! END

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ゆうしゃにならずにせかいをすくえ! なんぶ @nanb_desu

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