第11話 出口のない家⑥

 扉を開けた真海まみ秀一しゅういちを見つめた。「入ってもいいですか?」と不安気に秀一にきいてくる。


「いいよ」


 秀一が言うと、未央が玄関めがけて駆け出した。

 すかさず宇佐美が未央を捕まえる。


「秀一くんと僕が入ります。みなさんは外で待っていて下さい」


 宇佐美の言葉に不満を漏らしたのは未央だけだった。

 他の三人は、どこかホッとした顔で秀一に頭を下げる。




 宇佐美に続き家の中に入った秀一は、薄暗い玄関ホールに入った途端、立ち止まり振り返った。

 真海に後ろから抱えられている未央と目が合う。


「秀ちゃん! 僕も入る!」


「秀一くん」と階段下に立つ宇佐美が手招きして、秀一を呼んだ。


 秀一が近づくと、二階を見上げながら宇佐美は小さく囁いた。


「屋根裏に、ご遺体があるんですか?」

「ご遺体? 死んだ人がいるかって、こと?」

「はい」

「いる」


 二階に上がろうとする宇佐美を秀一は止めた。


「宇佐美さん、屋根裏にはオレ一人で行くよ。みんなを中に入れて、一階で待ってて」

「家の中で待つんですか?」

「大丈夫。ここは危険じゃないよ」


 危険なのは家の外だ。

 宇佐美たちには見えないが、この場所は、人間が悪霊だの妖魔だのと忌み嫌う者たちが集まっている。

 人肉を好む種族もいた。

 そいつらに『食べるな』と命じても、犬に『待て』をさせる時間に限界があるのと同じだ。


 だが外の連中もこの家には入ることが出来ないようだ。


「一人で大丈夫ですか?」

「オレは平気。死んだ人と話してみて、宇佐美さんたちとも会う気があったら、呼びに戻ってくる」


 未央たちを守るにはこの家にいるしかないが、ここから出るのは容易ではなさそうだ。

 秀一の力をもってしても、この家に出口をつくることは出来ない。

 家主との交渉が必要だ。

 

 秀一は一人で階段を上っていった。



 

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