第18話 覚醒(マリアside)
「———チッ……やはり駄目か」
「…………」
私———マリアは、開いた方が塞がらないまま、隣で若干悔しそうに舌打ちをするユーさんを見る。
ユーさんは爆煙によって視界が遮られているにも関わらず、上空を見据えていた。
……あの威力は一体何なのですか……?
私の頭の中は混乱を極めていた。
まず、不死鳥が伝承通り……それ以上の化け物で、私では到底敵わない相手なのは兎も角、そんな化け物みたいな相手と同等の魔法を発動したユーさんだ。
初めは身長も165くらいの高さで仮面もしていたし……とても落ち着いていたため、12歳の私より5歳程年上だとずっと思っていた。
同時に5年で此処まで実力が変わるのかと驚いたものだが……仮面を外し、素顔を晒したユーさんは明らかに子供だった。
何なら———私と同い年に見える程顔付きは幼い。
しかし私とは違い、ユーさんは目の前の化け物と対等に戦っているのだ。
「切り裂け———【風刃・改】」
ユーさんの掌から幾つもの魔法陣が現れると同時に、目を凝らさなければよく見えない半透明の斬撃が飛び———不死鳥が生み出す直径50センチ程の火球を切り裂いていた。
そんな中、ユーさんは何かに気付いたのか突然私に目を向ける。
「おいマリア、俺に抱き付け。振り落とされるぞ」
「え……あ、はいっ!」
私は半ば反射的にユーさんに抱き付く。
するとユーさんは地面を蹴ってその場を離れる———とすれ違う様に火球が元居た場所に直撃するではないか。
はわわっ……い、異性の身体……っ!
次に私が混乱しているのは———ずっと異性であるユーさんに抱き寄せられていることである。
村での私は『落ちこぼれ』なので、村にはアルバート君しか友達はおらず、そのアルバート君も最近は魔眼を手に入れたせいで遊んでくれなくなっていた。
なので———当たり前だがこれほど異性に密着したことはない。
最近になって良く同い年くらいの女の子達が色恋沙汰で盛り上がっているのを聞いた事あるので……私も興味があるのだ。
ただ、「私は落ちこぼれだから」と半ば諦めていたのだが……まさかのまさか。
何の巡り合わせか———今私は、貴族様みたいに物凄くカッコいい異性に抱き寄せられているのだ。
しかも、度胸があって、少しぶっきらぼうだけど面倒見がよく、とても強いユーさんと言う男の子に。
命を助けてくれただけでなく、ユーさんも目的があるのに私の事情を聞いてついて来てくれると言ってくれる。
村の皆んなが無理だと言い、アルバート君でさえ諦めた方がいいとまで言った、不死鳥探しに。
本当に優しくて……素敵な人だなぁと思った。
しかし———私は今、そんな命の恩人で心優しいユーさんのお荷物となっている。
ユーさんは、私のせいで着実に追い込まれていた。
「くっ……荒れ狂え———【暴風】」
苦々しい表情で唱えた魔法は、不死鳥の炎の光線にやって易々と消え去る。
それどころか魔法を突き抜けて光線が私達の所まで届く。
「マリア、少し離れていろ」
「———え……?」
突然ユーさんは私を半透明の四面体に閉じ込めると……。
「ユーさん!?」
「戦えとは言わん。そのままその中にいるのもいい。だが……強くなりたいなら1つだけヒントをやろう」
ユーさんは私に勝ち気な笑みを浮かべた。
「———覚悟を持て。そうすればその中から出られるだろう」
そんな言葉と共に———私は飛ばされた。
———私を閉じ込める四面体が止まった頃には、既にユーさんの姿が見えなかった。
しかし戦闘音は今も聞こえてくる。
「ユーさん……私はどうしたらいいんですか……?」
私はボソッと呟く。
どうせ私が行った所で勝てるわけない。
寧ろ邪魔にしかならないだろう。
でも———このまま何もせずに居てもいいの……?
私は心の中で自問自答する。
私が何故此処に来た?
「……お母さんの病気を治すためです……」
でも今の私は?
「……偶々出会った男の子に全部やらせているだけの卑怯者……」
このままでいいの?
「でも……私は魔眼も使えないし……」
そう、私は魔眼が使えない。
色々な方法試してみたけど駄目だった。
魔眼が全く使えない私がユーさんの助けに行った所で……。
私はその時———最後に彼が言ったことを思い出す。
『———覚悟を持て。そうすればその中から出られるだろう』
私は強くなりたい。
ユーさんみたいに、誰かを助けれる様な力が欲しい。
私は昔死んだお父さんの形見の剣を握る。
「私は……私は……ッ!」
そう、私は強くなりたい。
そのために……。
「———もう私は絶対に……何からも逃げませんッッ!!」
私は私を閉じ込めるモノを壊すため、全力で剣を振るうその瞬間———。
《———継承者の覚悟を確認。【剣神眼】が開眼します》
私は———世界が一変した。
同時に……振るった剣が私を閉じ込めるモノを、何の抵抗も感じる事なく斬り飛ばしていた。
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