第16話 メインヒロインと

「———あの……ユーさんはどうして此処にいるのですか?」


 この世界———【魔眼伝説】のメインヒロインの1人であるマリアが、仮面を被り、『ユー』との偽名を使った俺に尋ねて来た。

 俺は内心ため息を吐きながらも手短に答える。


「……少し用事があるのだ」

「用事、ですか……?」

「ああ、どうしても必要なモノがこの森で手に入る」


 俺がそう言うと……マリアは少し驚いた様子を見せた後で遠慮がちに眉を下げた。


「それほど大切なモノなのに……私の都合に合わせて貰って大丈夫なのですか……?」

「大丈夫だ。良いからさっさと行くぞ」

「あ、はいっ!」


 俺が足早に歩き始めると、マリアが剣を胸に抱いて駆け寄ってくる。


 何故俺がマリアと共に行動しているのか。

 先程までバレない様にして居たのに、何故バレたのか。


 色々とあったのだが……端的に言えば俺の幻影がやらかして、マリアに人が居ることがバレてしまい、正体を表さざるを得なくなったためだ。

 その後にバレたのだからと開き直って、マリアのこの森に居る理由を訊いてみた。


 すると……案の定母親の病気を治すために不死鳥の羽を手に入れるためにこの森に入ったのだと言う。

 相変わらず健気な少女だと思うが、幾ら何でも無謀過ぎるし普通に死にそうなのでついて行くことにしたのだ。


「えっと……ユーさんは———」

「【模倣ストック:全能眼】———おい、危ないぞ」

「えっ? ———キャッ!?」


 俺はマリアに飛びかかろうとしていた『シャドウウルフ』と呼ばれるレベル70のモンスターの攻撃を予測すると、マリアを抱き寄せながら避ける。

 それと同時に黒い影が横を通り過ぎた。


 気になって影の方を見てみると……俺達が居た場所の地面には大きなクレーターが出来ていて、シャドウウルフが唸りながら睨んでいる。


「ガルルルル……」

「五月蝿い獣だな。弱い獣ほどよく吠える」

「あ、あの……事実でもそんなに煽らない方が……」

「グルァアアアアア!!」


 シャドウウルフがマリアの一撃で堪忍袋の尾が切れたのか、襲い掛かってきた。

 俺はシャドウウルフの攻撃を【全能眼】を使い予測して避けながら、あわあわと焦っているマリアに言った。


「お前がトドメを刺したな」

「ええっ!? 私ですか!?」


 驚いた様に言うマリアには悪いが、完全に最後のトドメを刺したのは紛う事なきマリアである。


「グルァアアアアア———ッッ!!」


 突如、一瞬で姿を消したかと思うと頭上にシャドウウルフが現れ、影の手が俺達を掴もうと迫る。

 

「光り輝け———【光線レイ】」

「グルァッ!?」


 しかし———影の手は俺の眼前に現れた直径2メートル程の魔法陣から放たれる極光に術なく消し飛ばされた。

 これにはシャドウウルフも驚いたのか、空中で大きな隙が出来る。


「———マリア」

「分かりました———はぁあああああ!!」


 マリアが俺によって光属性の付与された剣でシャドウウルフを突き刺す。

 流石未来の剣聖なだけあり、正確にシャドウウルフの喉を突いていた。


「ガ、ガァ……」


 血を口と喉から噴き出させたシャドウウルフは、マリアの剣に突き刺さったまま絶命した。


「……うそ……」

「よくやったな、マリア」

「あ、え、あえっと……ありがとうございます……?」


 まさか自分が倒せるとは思って居なかったのか、何度も目をパチパチと瞬きしながら呆然としていた。

 そんなマリアを見ながら……俺はふと思ったことがあった。

 

「そう言えばマリア、お前の魔眼は?」

「え、えっと……まだ使えません……」


 俺が話題を変える様に訊くと……マリアは視線を右往左往した後で肩を落とし、気まずそうに目を逸らした。

 俺がマリアを知っていると悟られない様に敢えてそう訊いたのだが……まさかの言葉に少々驚く。

 

「まだ使えないのか? もう12だろ?」

「うっ……周りの皆んなは使えるのに、何故か私だけ使えないんです……頑張ってはいるんですけど……」

 

 痛い所を突かれたとばかりに眉を八の字にして泣きそうになりながら、シュンと落ち込むマリア。

 まあ彼女の魔眼が【剣神】とか言う特殊な魔眼で、色々と条件を達成しないと発眼しないせいなのだが。


「……そうか。だが、そこまで焦ることはない。お前なら———きっと強い魔眼が手に入るだろう」

「……??」


 俺の言っている事の意味が分からないと言う風に首を傾げるマリアを横目に、俺は再び歩き出した。


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