第11話 エドワード
「———ユイト」
「ん?」
「ユイトは今回が初めての社交界だし、好きにしてて大丈夫だからね」
「……いいのか?」
俺のイメージでは、社交界デビューした奴って結構話し掛けられるのだが……。
まあ一応親族の集まりなのでちゃんとした社交界デビューでは無いのかもしれないが。
俺が色々と考えていると、姉上が腰に手をやって胸を張った。
「勿論よ、お姉ちゃんに任せなさい。ユイトに来る有象無象を跳ね除けてあげるわ」
「ありがとうございます、姉上」
俺がそう言うと、何故か姉上が不服そうにジト目で俺を見てくるではないか。
「どうしたのですか、姉上?」
「その口調……どうして敬語なの?」
「はい?」
いや、公の場だし、幾ら家族とはいえ敬語を使うのが貴族では一般的だとレイブンが言っていたんだが?
俺は「嘘をついてのか?」と言う意図を込めてレイブンに視線を向けると……小さく首を振った。
つまり、レイブンの言ったことはやはり嘘ではなく、姉上がおかしいのだろう。
俺がそのことを言おうとした時———メアリーが全く目の笑っていない迫力のある笑みを浮かべた。
「アカネ様……いい加減にしてください。巫山戯ていらっしゃるのですか? 申し訳ありませんがユイト様、少しの間、アカネ様から離れてお寛ぎ下さい」
「分かった。姉上を頼むぞ」
「畏まりました、ユイト様」
「あ、ま、待って———」
俺は触らぬ神に祟り無しとばかりに、姉上の引き止める声をガン無視してパーティーの舞台へと足を踏み入れた。
「———初めましてユイト様! 先程の交流試合、見事な闘いぶりに、私は感動いたしました! あ、因みに私の名前はモーブ・サーチアイです。ぜひお見知りおきを!」
「そ、そうか……覚えておこう……」
パーティーに参加して僅か20分。
俺は今で10人目にも昇る、主に穏便派と呼ばれる本家に忠実な分家当主からの挨拶に辟易としていた。
しかし、彼らは後に当主の座を継いだ俺を支えてくれる重要な人材なので、無下にも出来ず、こうして仕方なく付き合っていると言うわけである。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様です、ユイト様。此方、ユイト様の好物の苺のショートケーキです」
そう言ってスマートに俺の前に苺のショートケーキを出してきた。
正直この世界に何で苺があるのかとか、ケーキがあるんだとかツッコミたい箇所が沢山あるが……これが日本人が作ったゲームの中だから、と思うことにして深く考えない様にしている。
「おお、流石気が利くなレイブン」
「勿体無きお言葉です」
俺はレイブンより手渡された苺のショートケーキを頬張る。
流石に食べている途中に話し掛けてくる奴は居ないだろう。
居たらぶっ飛ばしてやる。
「———おーこれはこれはユイト様じゃないですか」
「……」
「無言で殴ろうとするの止めない?」
まるで俺が建ててしまったフラグを回収するためだけに来たと言われても疑わないほどのタイミングで話し掛けてくるエドワード。
勿論有言実行で殴ったが、流石武闘派なだけありあっさり躱されてしまった。
「チッ……何の用だ、エドワード」
「そんな邪険にするなって。苺のショートケーキそんなに好きなのか?」
「大好きだ。だから邪魔した貴様を憎んでいる。食べ物の恨みは怖いぞ」
俺は軽く敵意を込めながらエドワードを睨みつける。
「わ、悪かったって! だからそんなに睨まないでくれ———痛っ!?」
エドワードが多少申し訳無さそうに謝って来たのだが……その後ろから身長2メートルは優にありそうな大男が現れ、エドワードの頭を結構な力で
不意の打撃に怯むエドワードだったが……叩いた張本人を見て表情を固くする。
「と、父さん……」
「あれ程敬語を使えと言ったのに……まだ分からないのか?」
「あ、いや……痛っ!! ちょ、ゲンコツは反則だろ!?」
「黙れ。———ユイト様、我が愚息が失礼しました。今後このようなことが起きぬ様、しっかりと言い聞かせて置きますので、どうか処罰だけは許して貰えないでしょうか?」
俺は自身よりも年上で尚且つ身長も高く厳つい大男に敬語を使って話されると言う違和感を覚えながらも、何も言わないのは失礼だろうと口を開いた。
「別に構わない。俺も気軽に話せる同年代の奴が欲しかったしな」
「だってよ父さん。やっぱ敬語じゃなくても良かっt———痛っ!?」
「気遣われてに決まっているだろう! 本当に1度黙っていろ! ……お見苦しいところをお見せして誠に申し訳ございません」
「あ、ああ……別に構わないのだが……」
俺は目の前の厳つい大男の名前が分からず答えに窮していると、本人も気付いたのか直ぐに挨拶をしてきた。
「申し遅れました、私、ドラゴアイ家の当主を務めております、ギルバード・フォン・ドラゴアイと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧に感謝する、ギルバード卿。私はユイト・デビルアイだ。此方こそよろしく頼む」
俺達はそう言って握手をする。
どうやらギルバード卿はいい人で、エドワード自体も悪い奴ではないので、今後とも仲良くさせて貰おう。
「ところで1つお聞きするのですが……」
「ん?」
「……【暴竜眼】は何時頃継承されたのかお聞きしてもよろしいですか?」
ギルバード卿が敬語ながら嘘は許さんとでも言うように全身から威圧を放って来る。
その威圧は父上に匹敵するもので、流石の俺も少し驚いた。
「……あれは、【全能眼】の能力の1つだ。時間はかかるが、一時的に相手の能力を使うことができる」
俺は予めレイブン話し合っていた内容を述べる。
今回の事件で家族とレイブンとメアリーに俺の魔眼の真実を知られてしまったが……父上曰く「まだこの事を明かすには早い」とのことで話していたのだ。
「そう、ですか……初めて聞きましたが、【全能眼】にはまだまだ知られていない力があるのですね」
「ま、まぁそういう事になるのかもな……?」
ギルバード卿は何とか納得してくれた模様で、俺はホッと安堵のため息を吐いた。
「———アイツが【模倣眼】を生まれ持った奴か……」
俺はこのとき、見られていたことに微塵も気付いて居なかった。
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