第5話 分家との交流会の開始

 ———1週間後。

 

 遂に……分家との交流会が開催される日となった。

 外は気持ちのいい快晴の朝であるが、馬の蹄の音、車輪が地面を転がる音、人々の声などで非常に騒がしい。

 それのせいで朝早くに起こされた。

 更に普段聞こえる小鳥の囀りや木々の葉擦れ、窓から入る爽やかな風のは……全てが掻き消されて1ミリも聞こえなかった。


「…………」

「どうしたのですか、ユイト様? もしや……緊張していらっしゃるのですか? 大丈夫です! ユイト様のお力は私が———」

「———レイブン」

「はい、何でしょうか?」

「悪いが……少し黙っていてくれ」


 ただでさえ周りが五月蝿いのに、横から話し掛けられては溜まったものではない。

 しかもレイブンは武術をしているせいで普通の人より声が大きいときた。


 勿論普段は執事長なだけあり他の人と変わらない……何ならとても心地よいイケボだ。

 しかし今日は俺を鼓舞するために敢えて声を大きくしている様で……正直寝不足ということもあり、非常に脳に響いて頭が痛い。


 レイブンは一瞬俺の言葉にキョトンとした後、何を悟ったのか知らないがそっと一礼して静かに数歩後ろに下がった。


「出過ぎた真似を……普段と違う環境の中でありながら失礼しました、ユイト様」

「いや、レイブンが俺を鼓舞しようとしたのは分かっているし感謝もしている。だから気にする———」

「———此処が本家か! ふんっ、俺の家より断然小さいじゃないか! この程度ならユイトとか言う奴も高が知れているな!」

 

 突然外から———そんな不快な声が聞こえて来た。

 甲高くキンキンとした不快な声質からして恐らく分家の子息だろう。

 どうやら随分と本家を……俺を舐め腐ってくれている様だ。


「———レイブン」

「———何でございましょうか? このレイブンに何なりとお申し付け下さい」


 俺は恭しく頭を下げるレイブンに告げた。



「———一流の回復師の準備を頼む」



 アイツだけは絶対に泣かす。











 決意を固めた1時間後。

 我が家に建てられた闘技場の武舞台上に本家の血筋……つまり俺と姉上と、分家の者達が集まっていた。 

 分家の殆どが本家の者達を前に圧倒されてか、もしくは当主への敬意からか頭を下げているが、一部の奴らが不遜にも舐めた態度を取っていた。


 そんな中、俺は、ふと自らに向けられた視線に気付く。

 その視線の主を確認すると……ニヤニヤと醜い笑みを浮かべた2人の男子が見ていた。

 

 ……何処かで見たことが……。


「兄上、アレが次期当主らしいですよ」

「ふっ……随分と爽やかな顔立ちだな。当主には合わん情けない顔だ」


 コイツら今、母上のから授かった顔を侮辱したな……そう言えば……この声あの時俺を舐め腐っていた奴だな。


「…………あの屑共……」


 目のハイライトを消した無表情の姉上。

 今にも本当に襲い掛かりそうな殺気を纏っていた。

 俺が咄嗟に止めようとするが……今度は姉上が1人で怒りを鎮める。


「…………ふぅぅぅ……ユイト前でかっこ悪い所は見せられないわ……」


 既に色々とかっこ悪い所を見ているので今更だと言わざるを得ないが……それで感情をコントロール出来るのなら、言わぬが吉という事だろう。

 

 それに———先程まで生意気な事を言っていた兄弟も、闘技場の最上段にある上座に、父上、その横の座席に母上が座っている姿が現れた途端に静かになった。

 場に緊張感が走る。


 そんな緊縛とした空間で、父上が厳かな声色で口を開いた。


「———今回、理由は全く不明だが……一部の分家から……我が息子———ユイトの素質が当主には足りないという声が上がった」


 少しの怒りの篭った父上の言葉に会場内に激震が走り、更なる緊張感によって場が完全に支配される。

 張り詰めた空気に誰もが口を噤み、唯只管ただひたすらに父上の言葉を待つ。


 そして———。



「そして……儂はこの意見を考慮し———これよりユイトVS分家の子息達の交流試合を始める」


 

 ———波乱の交流戦が始まった。


————————————————————————

 ☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る