第3話 真紅のデビルファミリー
「ユイト様、お目覚めになりましたか? 今日はユイト様を始め、御家族での集まりがある日です」
「…………そうか、分かった」
翌朝———俺はレイブンに体を揺さぶられて目が覚める。
俺が寝ていたのは前世のベッドすらも超越する俺の部屋に置かれた最高級のベッドの上だった。
どうやら昨日、俺は無事に家に帰って来られた様だ。
昨日は少しテンションが上がり過ぎて普段より1時間長くコソ練をしてしまった。
そのせいで帰りの記憶がないのは勿論のこと、昨日の夜の疲れが全く取れておらず、現在進行形で物凄く眠たい。
だが……レイブンも言った通り、この後で家族で集まるらしい。
流石に家族の集まりをすっぽかすほど親不孝な奴にはなりたくはないのでちゃんと顔を出すが。
「レイブン、集まりまで後どれくらいだ?」
「大体後30分ですユイト様。何度かお声はお掛けしたのですが、お目覚めにならなかったので……」
「急ぐぞ、レイブン!」
俺は速攻でベッドから飛び起きると、30分後の家族の集まりに間に合う様に全速力で支度を開始した。
「———此方になります、ユイト様」
レイブンの案内で連れて来られたのは、我が家の中で最も来ることの少ない食堂の様な場所であった。
荘厳な扉を前に、前世一般家庭生まれの俺は少したじろいでしまう。
何度見ても慣れん……一体どれだけ金が掛かったんだよ……。
目の前の扉は、まず3メートル以上とそれだけで莫大な金が掛かりそうである。
しかも木材ではなく金属製で、様々な意匠が彫られていた。
「…………」
「ユイト様?」
「ふっ……この俺が気圧されるとは……中々やるな」
「は、はあ……?」
内心の動揺を悟られない様少し格好つけて言ってみたが、冗談の通じないレイブンは生返事をしていた。
そんなレイブンをスルーして、俺は扉をゆっくりと押す———。
「———ユイト〜〜〜〜!!」
扉が開くと同時に俺の視界を何かが埋め尽くす。
更に顔中に柔らかい何かが押し付けられており、心臓の鼓動が聞こえた。
「んぐっ!? あ、姉上……!?」
俺は俺を抱き締める人———姉上であるアカネ・デビルアイを押し除けようとするが、とても女性とは思えない強靭な力で全く離してくれない。
「あぁ……可愛い弟の匂い……」
「アカネ様、このままではユイト様が窒息してしまいます」
「あ、ごめんね、ユイト」
「ぷはっ……!? だ、大丈夫で……だ」
申し訳なさそうに謝る姉上に、俺は少しよれた服を整えながら答える。
———アカネ・デビルアイ。
俺の姉であり、我が家のNo.2の実力者。
腰辺りまで伸びる美しい漆黒の髪。
黒曜石の様に輝く蒼い瞳。
恐ろしく整った麗人系の顔。
胸は大きく、抜群のスタイルには誰もが目を奪われる。
残念ながら強過ぎて嫁の貰い手が一向に現れないと言う悲しい事態に陥っているのだが……今後姉上は結婚出来るのだろうか。
話はズレたが、世界最強の素質を持ち、原作より【模倣眼】を使い熟して俺でさえ、他の魔眼が使えないハンデはあるものの、姉上には未だ一度も勝ったことはない。
寧ろ勝負にすらなっていない様に思える。
そんなこの世界でも最上級の強者である姉上は……。
「ユイト〜〜ユイトの為にお姉ちゃんが会いに来たよ〜〜!!」
……物凄くブラコンである。
いや、こうなった理由があるんだ。
俺が転生してからユイトの記憶を覗き見た時、結構姉上のことを邪険にしていたんだ。
それが何か可哀想で、俺が転生してから出来るだけ甘えてみたり優しく接したりと実践してみたのだが……それがブラコンへの一途を辿らせてしまったらしい。
姉上は普段のクールな表情は鳴りを潜め、満面の笑みで俺に抱き付く。
毎回胸が当たるので、何処か慣れてきている俺がいるのがとても怖い。
「ユイトっ! 私と会えて嬉しい? お姉ちゃんはユイトと会えて嬉しいよ〜〜!! 大好きだよ〜〜!!」
「わ、分かったっ! もう分かったから抱き付くのはやめろ姉上!」
「えぇ〜〜……嫌だぁ……」
「姉上恐怖症になるぞ」
「や」
俺の脅しに一瞬で離れる。
だが、物凄く不服そうに頬を膨らませてむくれている。
「ねぇお父様〜〜ユイトがお姉ちゃんに冷たい〜〜」
「姉上のせいだ。断じて俺が冷たいわけではない」
「はっはっはっ、今回はアカネが悪いとお父さんは思うぞ」
「……余計なことを……」
姉上がキッと俺とは違って恐ろしく怖いキレ目で睨む。
そんな姉上の殺気さえ混じってそうな視線を前に父上は楽しそうに笑っていた。
「お久し振りです、父上」
「ああ、久し振りだな、ユイトよ。また大きくなったな」
「子供の半年は長いのです」
「はっはっはっ、そうだよな……儂が毎日家に居ていられれば……」
そう言って落ち込む父上。
彼こそが———王国最強と共にゲーム内最強と名高い最強の魔眼使いであり、魔眼名家の現当主。
———アルベルト・フォン・デビルアイその人である。
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