第2話 夜のコソ練

「———おやすみなさいませ、ユイト様」

「ああ、おやすみ」


 俺の部屋の明かりを消したレイブンが俺の返事を受けてそっと扉を閉める。


 昔、『闇の女神が俺を呼んでいる……しばし現世を離れるとしよう……』と厨二的に言ったことがある。

 そうしたら、レイブンが本気で勘違いして魔眼を発動させようとしたので、こう言う時はちゃんと普通に接する様にしている。

 どうやらレイブンには冗談が通じないタチらしい。


「……今宵は月のない闇夜。常人には憂鬱メランコリーだろうが、俺にとっては聖域サンクチュアリ……ふむ、しっくりこないな。やはり俺は生粋の厨二病ではないらしい」


 前世でも言ったことない厨二用語を用いながら部屋の窓を開ける。

 『びゅう』と言う窓から風が入る不気味な音が聞こえ始めた。

 外は当たり前だが真っ暗で何も見えない。


 しかし———。


「俺に見えないモノなど存在しない———【模倣ストック全能眼プロビデンスアイ】」


 俺の片目が真紅に輝き、世界に色が取り戻された。

 【全能眼】であれば、どれだけ暗い場所だろうと見通すことが出来るので非常に便利。


「さて……くか———永遠なる闇へ」


 俺は窓の縁に足を掛けて飛び降りた。









 少し、俺の身体の話をしよう。


 ———ユイト・デビルアイ。


 俺の転生した身体であり、他の家族とは違う【模倣眼】と呼ばれる魔眼を持つ最強になるはずだったキャラ。

 不遇にも、イレギュラー過ぎたせいで運営から消されてしまった悲しいキャラ。


 ゲームではユイト自身は勿論、家族さえも【模倣眼】のことを知らなかった。

 【模倣眼】が一瞬で【全能眼】を模倣してしまったせいで、父親や姉の【全能眼】を無効化してしまったのだ。

 そのせいでついぞ死んだだいぶ後に知られるわけだが。


 ゲームでは勿論【模倣眼】は知らないので『模倣ストック』などは言わないが……かっこいいから言っている。



「———この最強の力で、俺をあやめる輩も邪魔する輩も纏めて粉微塵にしてやる」



 そう———【模倣眼】を使えばどんな魔眼も模倣可能。

 つまり、1人でどんな状況にも対処出来る力を秘めていると言うことだ。


 前世のユイトより強くなれば殺される事もないはず。

 そのために———最近はこうして真夜中に家を抜け出してコソ練している。


「ふぅ……ここで良いか、【模倣ストック:幻影眼】」


 俺は【全能眼】を発動させている右目とは反対の左目で、家に雇われているメイドの1人の魔眼である幻影眼を発動。

 更に月明かりが出てきたので【全能眼】を解除して、右目に新たな魔眼を発動させる。


「【模倣ストック:現世眼】」


 今度の魔眼は幻影やら何やらに実体を持たせることの出来る魔眼だ。

 これは……誰か忘れたが誰かが持っていたのを模倣させて貰った。


 ここで1つ【模倣眼】の説明に移ろう。


 基本、【模倣眼】で模倣した魔眼の性能は本物より劣る。

 【全能眼】の見通す限界が設けられる。

 【幻影眼】はしっかりと時間を掛けて細部まで想像しなければ発動しない。

 【現世眼】は本来なら一度見た物なら実体化出来るが、俺では幻影限定でしか実体化出来ない———と言った感じだ。


 だが、使い熟し、様々な魔眼と組み合わせれば相乗効果で本物よりも強くなる。


 例えば今の【幻影眼】と【現世眼】だが、2つを組み合わせれば実体を持った自動で動く幻影を生み出せる。

 

 つまり———これで1人で実践を幾らでも経験出来ると言うわけだ。


 危ない時は【現世眼】を解除すれば良いので、死ぬこともない。

 それに幻影を何体も作って全て実体化させれば軍隊を作ることも可能だ。


 因みに今生み出したのは、レイブンの実体を持った幻影。

 レイブンってめちゃくちゃ剣の扱いが上手く、何でも俺の父親に剣の指導をしていた程らしい。

 実際に何度も見ているが、正直俺の【全能眼】では、攻撃の一瞬前に軌道が見える程度にしか見通せないくらい強かった。

 

 その時の記憶を元に、こうして作り上げたわけである。


「———よし、行くぞ……ッ!!」

 

 俺が剣を構えると、レイブン(幻影)も剣を構える。

 そして超速と言って差し支えない速度でレイブン(幻影)が俺に接近し、刺突を繰り出して来た。


「…………」

「くっ……」


 俺はギリギリで剣を下から弾き飛ばす。

 そこで俺は【幻影眼】を解除して別の魔眼を発動。


「———【模倣ストック:全能眼】」


 俺はほんの少しだけ緩慢になったレイブンの動きを良く観察しながら全方向から迫る剣を弾く。

 それを繰り返している内に、段々テンションが上がっているのが自分でも分かった。


「クックック……ハハハハハハハハ!! 面白くなって来た……! 朝まで俺と踊り戦い明かそう!!」


 俺は、接近するレイブン(幻影)に勇ましく踏み込んだ。


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