第35話
…やっぱり、花蓮さんだ。このとんでもない殺気を出しているのは…彼女だ。そして、多分彼も気付いている…この殺気に。
『やっぱり…壊れたのは花蓮だったか』
「なっ!?お前ついに起きてる時にまで…」
『しっ、静かに。花蓮の顔を見てみろ』
いきなり喋る以前の俺に驚きつつ、言う通りにした。
…なんて顔だ、憎悪に染まりきっている。
『まぁ亀井くんいろいろやらかしちゃったからな…恨まれるのも仕方はないが…あそこまで行くか?普通』
「それは…共感だ」
凍りついた空気が教室を覆う。
さっきまで楽しそうな空気が漂っていたこの空間は一瞬にして静かなものへと変わり果てた。
ここまで変わるのだ。亀井というやつは一体どれほどの悪行を行ったのだろうか。
「…お、遅いぞ亀井。さっさと席に着け」
「…えっ、あ、はい」
急に向けられた殺意に彼も驚きを隠せない様子で、さっきから少し体が震えている。先生に言われて、おぼつかない足取りで自分の机に向かって行った。
徐々に彼女の殺気も収まりつつあるようで、教室が本来の空気を取り戻し始めた。
『これは…何か大事件が起こるぜ、今日か明日にでも』
「だからやめろって言ってるだろ…そういう不安を煽る台詞」
『…ならとっとと記憶取り戻してほしいな…そうすれば俺も表に出られるってもんだから』
…表に出る、か。
そうなったら、今の俺は一体どうなるんだろうな。
『なんにせよ、花蓮がこれ以上暴走するようなら、お前も何か行動を起こさなきゃな』
「…はぁ、行動ねぇ」
俺はどうすればいいのだろう。
彼女にとってさほど大切な存在じゃない俺に、何が出来るんだろうか。あいつなら…記憶を失う前の俺だったら…きっと、彼女も振り向いてくれるんだろう。
だが、しょげている場合でもない。
俺はこの姿を使って、彼女の鎮静剤くらいにはなれるだろう。そして記憶を取り戻したのなら…後は彼に任せればいい。
そうだ。俺は脇役に徹するんだ。
あくまで主役はきっと…あいつだ。ならば、少しでも役に立っておかないと。脇役にも、脇役の意地というのがあるのだ。であるならば…彼女の鎮静剤という役割も、少しは楽しくやれる。
おいおいおい…どうなってんだ?
俺はなんであんな知らねぇモブにあんな目を向けられなきゃいけないんだ?邪魔な神崎は記憶喪失でもう使い物にならねい。ならば、と目的を進めていたのに…
まぁ、タイトルにはそぐわない結果だったが。
それでもやっと望み通りになったってのに…なんだあいつ。
見るだけで恐ろしい。もう見たくねぇ。
それしか考えらねぇんだ。
…ふざけてやがる。どいつもこいつも、なんだってここまで邪魔するんだ。どうやらまだ分かってなかったようだな。
この世界の主人公を。ならあいつにも教えてやろう。
そうすりゃもう逆らうことはねぇだろうよ。
顔や体も悪くねぇし…真緒といっしょに可愛がってやろう。
くひひ。
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