第31話

思い出せ………

お前の目的を………

そのノートを見たのなら………!


うるさい…誰だ…

俺は…何も知らない…


…あぁもう、じれったい…!

全部忘れたんじゃないだろ…!

ならとっとと戻ってこいって…!!


黙ってろ…俺はもう…全部忘れた…


…や…うや…!


あぁ…しつこいな…!

静かにしてくれって言ったじゃないか…!


「勇也…!ねぇ、どうしたの!?」

「…っは!」

「わっ!…な、何があったの?部屋で倒れてたけど」

「…あぁ、花蓮さんか…ちょっと、ね」

「そう…まぁいいわ、とりあえずなんともないのね?」

「もう大丈夫…ていうか、まだいたんだね」

「そうね、でもそろそろ帰ろうと思ってたし」

「そう…じゃあ玄関まで送るよ」

「あぁいや、大丈夫よ、部屋でゆっくりしてていいから」

「…?じゃあそうさせてもらうけど」

「じゃ、失礼するわね」

「あぁ」

…彼女が帰ったあと、時計をちらりと見てみる。

「…もう18時か、どれだけ倒れてたんだろ」

あの日記帳を見てから、頭痛がした。

そのまましんどくてぶっ倒れていたが…思ったよりも倒れてたな。

「はぁ…もう読みたくねぇな」

そう言って日記帳を棚にしまう。もう出すことはないだろう。

そして、俺は布団に倒れ込んだ。

「…記憶が無くなる前、か」

はたして、記憶が無くなる前の俺はどんな人物だったのだろうか。暗い性格か、はたまた明るい性格か。花蓮さんによると大して変わっていないらしいのでそこまで気にすることでは無いが。

問題なのは、頭の中に響くあの声。

思い出せ、とかあのノートを見たのなら、など色々言っていたが、いったい誰の声だったんだろう。

またひとつ、疑問が増えた。



「…ぐっ!?」

またもや急に頭痛が来る。

今度は理由が分からない。眠っていただけなのに…

『未知のエラーを一件感知しています…早めの削除をお勧めします』

…それ以上は聞き取れなかった。

「…未知のエラー?」

それを聞き、瞬時に花蓮さんのことを思い出す。

未知のエラー…?

聞き慣れない単語だった。でも、何か恐ろしい言葉に感じられた。それにしても、なんで俺の頭の中にそんな声が流れたんだろう。

「それに…削除って…どういうことだ?」

まさか、あの日記帳と関係しているのだろうか。

あまりにも非日常すぎる。いきなり頭の中に声が入ってくるなんて、いくらなんでも変だ。そういう所では、どちらもぶっ飛んでいる。

「未知のエラーって…なんだろな」

……深呼吸をし、今一度日記帳を手に取る。

もう触ることは無いだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く再び見ることになるとは思わなかった。

「…よし、めくるぞ」

『8月21日。今日は花蓮とデートだった。いろんな場所に連れて行ったり、一緒にご飯食べたりしただけだったけど…何故か異様に楽しかった。はぁー、もっとデートしてぇーー』

「…なんじゃこりゃ」

意を決して開けたページには、以前の俺のデートの時の思い出が書かれてあった。

「はぁ…緊張して損した」

気が抜けたところで、頭の痛みも収まったし下にでも行ってみようか。何やらさっきからいい匂いがするし。

「まぁ、いつか戻るよな」

そんなことを考えながら、下に降りる。

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