第30話

「えーっと……結衣…さんでしたっけ。それに花蓮さんに陽介さん…離してくれませんかね…?」

「嫌です、もう兄さんを絶対離しません」

「もう誰にも傷つけさせないんだから」

「僕が勇也を守るんだ」

うむ、まずは何故こんな状況になっているのかを説明しないとな。



「うん、もう大丈夫そうだね」

「本当ですか?」

「あぁ、骨折していた部分の骨も治ってきたし、内臓のほうも特に問題は無い。明日から学校に復帰できるよ」

「そうですか…良かった」

「あの爆発で生き残っていたんだ、奇跡とも言えるね」

俺の担当をしている先生は、俺の状態を見ながらそう話す。

「毎日君の部屋に来ていた子によると、君は爆発のほぼ中心部で倒れていたそうだ」

「爆発の…中心部?」

「つまり、君の目の前で爆発が起こったんだ」

「!?じゃあ俺なんで生きて… 」

「そうだよね、私もいろいろ考えてみたが…やはり爆弾の威力が大したものでは無かったと考えるのが妥当だ」

「そうですか…」

「済まない、こんなことぐらいしか思いつかなかったんだ」

「いえ、いいです。生きてるだけマシです」

「そう言ってくれると、私も気が楽だ…さて、では話は以上だよ。君を待っている人もいる…早く顔を見せてやるといい」

「はい…先生、ありがとうございました」

「あぁ、お大事にね」

先生との話を終え、そのまま荷物を持って病院を出ようとすると、

「にぃぃぃぃさぁぁぁぁぁーーーーん!!!!」

「ん?何だこの声…ぐわっ」

いきなりの突撃に驚きつつ、その声の主を見る。

「君は…」

なんだか自分に似てるような気もするが…

「あっ!この前来てた子!」

「結衣です!あなたの妹!!」

「あぁそう…」

どうやら俺のことを迎えに来てくれたらしい。

俺が出てくるまでずっとスタンバイしていたんだろうか。

「出迎えありがとう…っとと、じゃあ家まで案内してくれるか?」

「はい!」

その日はなんだか、その子が犬に見えた。



「そう言えば、親とかは…」

「…そうでした、記憶ないでしたね」

「…?」

「私たちの親は、まだ私たちが小さい頃に2人とも病気に侵されて死んでいます」

しまった、と心の中で悪態をつく。

「その、ごめん」

「いいんです、後でも親がいないことに疑問を持ちますし」

「…じゃあ、今までどうやって暮らしてきたんだ?」

「隣に兄さんの幼なじみがいたんです。その人の親が私たちの面倒も見てくれて」

「そうか…」

「…あっ、家見えてきましたよ」

目的地につく。ここが俺の家らしい。

ドアを開ける。

「お邪魔します…って自分の家なのに言ってどうするんだ」

ドアが空くと同時に、ドタドタと足音が迫る。そして、

「んっ!?あのすいません何を」

「…」

妹さんは何も言わない。は?

で、目の前に2つの影が…



そうして、今の状況に至る。

「あの!玄関で立ち往生するのもあれなんで!…とりあえず中に入れてくれませんか…?」

「むぅ…分かりました、こっちです」

3人とも渋々手を離す。

やっと解放されたので、後に着いて行く。

「ここが兄さんの部屋です」

「あぁ、どうもありがとう」

「じゃあ、入りましょう」

「コラ、君まで入ることはないだろ」

「えぇ…」

「えぇじゃない、向こうに行ってなさい」

しょんぼりしながら、彼女は降りていった。

気を取り直して、部屋に入る。

「ここが…俺の部屋」

少し懐かしく思いながら、部屋を見る。

「意外と綺麗だな…」

どうやら以前の俺は綺麗好きだったらしい。どこもかしこも整理整頓されている。

「ん?なんだこれ…」

部屋の机の上にある1冊のノートが目に映る。

「…日記帳?日記なんか書いてたのか、俺」

表紙をめくる。少し読んでみようか。

『4月1日、とりあえず学校には行ってみたが、やはり見た事のある顔がいっぱいだった。やはりここはあのゲームの世界らしい。まぁでも、転生前は一応全クリはしている。良かったよ生粋のゲーマーで…じゃなきゃあんなゲームやんねぇよ』

「…は?なんだこれ?ゲームの世界?転生前?何を言ってるんだ…?」

書いている意味が全く分からない。

「がっ!あぅっ…!」

急に頭に激痛が走る。

頭の中がぐちゃぐちゃになり、何も考えられない。

ただ、あのノートだけが読みたい。それしか無かった。

「はぁ…はぁ…なんなんだ…この日記帳は…」

『4月6日、とうとう亀井に絡まれた。しかもあいつまで転生者だった。おまけに性格までねじ曲がっているとは…神様っていうのは本当に存在するのだろうか?とにかく亀井には要注意。あと花蓮って誰やねん!そんなNPC見た事ナイヨ?あれだけ派手な髪型しててただのモブとかはないだろー。全ルートクリアした俺ですら知らないってことは…本当に誰?あっやべぇなんか怖くなってきた。ほんとにモブだったりする?』

「…分からない、ほんとに」

頭痛はまだする。さっきよりも更に酷くなっているが。

言い例えるならば、頭の中で何か分からないものが歪に混ざり合っている…そんな感じだ。

「何者なんだ…?俺って」

その日はただ、そんな疑問が頭の中に渦巻いていた。

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