第29話

あれから数日。

動かなかった体は徐々に動くようになった。

内臓へのダメージも少なかったらしく、あと三日もあれば俺は退院できるそうだ。

「…」

「…」

で、今は何してるのかと言うと…

今目の前にいる花蓮という方とにらめっこしているのだ。

「にらめっこじゃないわよ!」

「あ、そうなの?てっきりにらめっこかと」

「もう…そういうところは変わらないのね」

「はぁ」

このお方、どうやら記憶を失う前はかなり親密だったようで、ココ最近は、ずっと彼女が見舞いに来てくれる。

「じゃあ、今日の話を」

「えぇ、分かったわ」

彼女には俺が記憶を失う前の話をしてもらっている。

出会ったときの事や、夏休みの間に起きた様々な出来事。

どれも面白い話ばかりだった。

「…ってことがあって〜」

「うんうん」

なんて話していると、もうすっかり日が暮れていた。

「もう夕方か…」

「えっ、もうそんな時間?帰らなくちゃ…」

「そうか、気をつけてな」

「うん…勇也も頑張って…思い出してね」

「あぁ…」

…思い出す、か。

彼女を見送ったあと、いろいろ考えてみた。

記憶についてだが、俺も完全に忘れたわけではない。

ただ、全てが朧気なのだ。まるで霧がかかったみたいに。

それに今まで見舞いに来てくれた人もうっすらとではあるが、ちゃんと記憶の奥にある。だがどれも断片的ではっきりと思い出せないのだ。

「…厄介なもんだ」

会う度申し訳なさそうな顔をしながら対応しなければ少々心苦しい。向こうは顔見知りだと思っていても、こちらは何も知らないからポカーンとなる。

何はともあれさっさと戻ってきて欲しいものだ、俺の記憶。




あの事件から数日。

勇也は相変わらず元気そうだった。

見舞いに行けば笑いながら出迎えてくれる。

『毎日飽きずによく来るなぁ、ははっ』

でも、違う。

勇也だけど、勇也じゃない。

目の前にいる勇也と私の記憶の中にいる勇也。

似てるようで全く違う。こんな日があと何日続くのだろう。

こうなったのも全部…亀井のせい。

私は言った。

爆弾を仕掛けたのは亀井だって。本人が言ってたって。

でも先生達は聞く耳を持たなかった。

証拠不十分、それに本人は否定。挙句の果てには自分の学校にテロリストがいるなんてバレたら、面子が持たない、騒ぎなるのは面倒だなんてふざけたことを言う。そいつのせいで、勇也はあんなになってしまったのに。

もちろん、このことに反対する人はいた。

一部の生徒や私のクラスメイト。皆は亀井がやったって言ったけど、学校側から圧力をかけられたようで、もう何も言わなくなった。

もっと気になるのは亀井の言葉。

『こいつさえいなければ』

『機械風情に』

『この世界は誰のものか』

『そんな脇役』

どの言葉にも憎悪が込められていた。

何故かは分からない。勇也がそこまでひどいことでもしたのだろうか。でなければおかしい。

彼と勇也の間に何があったかは知らない。

でも、彼のしたことは許せない。そんなやつを放っておく学校も許せない。だって…


ワタシノユウヤヲキズツケタモノ。





「エラー 未知の脅威が検出されました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る