第15話

俺は出来上がった料理を見て驚く。

なんと皿がほとんどダークマターで埋め尽くされているではないか。酷い悪臭がしており、吐き気を催す。

「う〜ん…いい香りね!」

「えぇ、とてもおいしそうです」

結衣、花蓮。

俺にはこの料理からいい香りがするとは思わないしおいしそうとも思えないんだが。

「……」

何も言えない。

何か言おうとしても目の前の暗黒物質が目に入りそんな気も失せる。ある意味一種の薬物だと思う。逆の意味でね。

highになるどころか、Lowになる。

…ダメだ、もう花蓮に料理はさせてはいけない。

俺の本能がそう告げている。

「…?兄さん、どうかしました?」

「えっ?あっ、いやなんでもないよ」

「そう?…あ、じゃあこれ!これ食べて元気出して!

元気になれるようおまじないをかけたの」

そう言って俺の前に1つ皿が持ってこられる。上に乗っているのは隕石のように焦げた何かだ。

「あ〜ん…もぐもぐ、おいしいですよ、兄さん」

おい待てどうなってるんだなんでお前食べれてるんだ。

目の前の光景に動揺を隠せない。妹がダークマターをなんの躊躇いもなく口に運んでいるのだ。…えっ?マジで?

死なない?食べた瞬間爆発とかしない?

「…もしかして勇也って…エビフライとか嫌いだったりする?」

エビフライ?これが?本当に?

さすがに冗談を言ってるとしか思えない。だってそれはエビフライと言うには、あまりにも小さすぎるからだ。

もしかして腹に切り込みとか入れなかったの?だからこんなに丸くなっちゃったの?

あっ、そんな場合じゃない。花蓮の機嫌を損なう前に目の前のこいつをなんとかしないと…

「い、いやそんなことはないよ。いただきます…」

覚悟を決め、ソレを口の中に入れる。

…あぁすごい。サクサクしてて、そしてちょっと苦味が…

あっ

もうダメ

そして俺の意識は途絶えた。



「う、うーん」

ふと、目を覚ます。目眩がして視界がよく見えない。

あれ…今何時だ。そういえば晩ご飯どうなった…?

「俺はたしか、エビフライだった何かを食べて…」

「…あぁ、そうか。俺死んだのか」

俺は自分の現状を悟る。当たり前だ、あんなものを食べれば、誰だって死んでしまうしな…

結構短い人生だったけど、まぁ楽しかったなぁ…

と、そんなことを考えているとふと、自分の太ももの辺りで誰かが寝息を立てているのが聞こえる。これは…

「花蓮?」

「……ぅん?あっ!起きたのね!」

一瞬で現実に引き戻される。やっぱり俺は死んでなかった。

「あー、えっと…あの後どうなった?」

俺は花蓮に現状の状況を聞く。

「あのね、あの時勇也が倒れて、それで一体どうしたんだって慌てちゃって…それでもしかしたら私の料理口にしたから倒れたんじゃないかって思っちゃって…」

実際そうなんだよなぁ、心の中で思う。

「だから私、何とかしようとして勇也を起こそうとしたの。私のせいで勇也が起きなくなっちゃったらどうしようって」

「そのつもりで精一杯看病してたんですけど、私も寝ちゃってたみたいで…」

「あぁ、そう…大丈夫だよ、気にしないで!」

「あの……ほんとにごめんね。勇也の口には合わなかったみたいだから」

「いいって本当に、気にしてないから」

「そ、そう…ならいいけど」

そう言って花蓮は部屋から出ていこうとする。

「あの、ほんとにごめんね」

「もういいって」

「うん…」

そう言って花蓮は下へと降りていった。

……はぁ、今度からは結衣一人に作ってもらおう。

それが大事だと今回は学んだ。

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