第3話

放課後、陽介と街を歩いた後、俺は家に帰った。

「ただいまー」

なぜ俺が今ただいまと言ったか分かるか?

それは…

「あ、お帰りなさい…」

そう、実は神崎には妹がいるのだ。

名前は神崎 結衣(しんざき ゆい)で、

ゲームでは神崎が唯一、心を許せる人だった。

神崎はどうやらこの子を大切にしていたらしく、

愛想はかなり良い。だが…俺はこの子が最後にどうなるかを

知っている。そう、この子も亀井に寝取られるのだ。

亀井は自分が気に入った女性なら誰であろうと奪おうとする。例えそれが親友の妹であってもだ。

かなりタチが悪いよ、ほんとに…

大切な妹が奪われた神崎はゲームでは完全に壊れていたが…

俺はそんな結末にはさせない。

正直神崎が大切にする理由がなんとなくだが分かるのだ。

家事はできるし、料理もでき、おまけに顔まで良いと来た。



「兄さん、今日の晩御飯はハンバーグですよ」

「ハンバーグねぇ…いい響きだ、楽しみにしとくよ」

「はーい…」

ハンバーグは俺も好きだ。

転生前は色んなハンバーグを求め日本一周するくらいだったが、果たして結衣のハンバーグはどんなものだろうか…


キッチンからいい匂いがする。

肉の焼ける音が聞こえ、香ばしい匂いが俺の鼻を刺激する。

うーん…これは、なかなかの相手だな…

なんて事を考えていると、ハンバーグが運ばれてきた。

「どうぞ、兄さん…今日の晩御飯のハンバーグです」

「うむ…では、いただきます」

俺はハンバーグへ箸を持っていく。

まずはハンバーグの強度を確認…

うむ、いい硬さだ。実に肉々しい。

「結衣、このハンバーグにはつなぎとかって入れてるのか」

「いいえ、そのようなものは特には入れてませんよ」

「そうか…つなぎなしでこの結束力…たいしたもんだ」

このハンバーグはつなきが入ってないにも関わらず、

その形を保っている。そして、このハンバーグからは肉汁が

溢れ出てくる。これだよ、これ…

俺が求めていたハンバーグはさ…!

いよいよ口に運んでみる。

「…(もぐもぐ)」

「どうですか?兄さんの口に合うといいのですが…」

…!

こ、これは…

う…

う…!

うぅ…!!

「うんまぁ〜い」

そのハンバーグはとても柔らかく、口に入った瞬間とろけるようだった。そして何より、噛めば噛むほど出てくる肉汁。

おそらくデミグラスソースも市販のものではなく、わざわざ自分で作っているだろう。だがしかし、これが死ぬほどうまい。あぁ^〜、美味すぎるぜ。



「ふぅ…ごちそうさま」

俺は今まで感じたことのない幸福感に包まれながら、

お腹をさすっていた。米を三杯もおかわりしてしまったから

死ぬほど苦しいのだ。

「もう、兄さんたら…食べ過ぎですよ」

「悪い、でも結衣のハンバーグが美味しすぎたからさ」

「…///ほっ、褒めても何も出ませんよっ」

結衣はそそくさと、キッチンへ戻って行った。

可愛い!

と心の中で俺は髪が逆立っていて白目を剥いている筋肉ダルマのポーズの真似しながらそう思った。



翌日。

再び学校へ向かった俺は、嫌な光景を見た。

亀井が恐らく同じ学校の女子生徒に詰め寄っていたのだ。

女子生徒の方は、明らかに怯えている。


「だからよぉ!俺の女になれって言ってんだよ!」

「ひっ…!い、嫌です…!」

「このアマが!大人しく俺の言うこと聞けや!」

亀井が腕を上げる。まずいな。

急いで助けに行く。

「おい、その辺にしたらどうだ」

亀井の手を掴んで俺はこいつと初めて会話する。

「あ?…あんたは…」

「そこの人、見るからに怯えているじゃないか。

いい加減離してやれよ」

「…ちっ」

亀井は思ったより素直に、この場を離れてくれた。

女子生徒のほうを見る。どうやら亀井が離れて安心してるようだ。その場に座り込んでいる。

「災難でしたね、大丈夫ですか?」

「あ…ありがとう。あなたは…一年なのね。」

「そっちは二年…あ、先輩でしたか」

同じ制服、どうやらこの人は俺の先輩だったらしい。

「自己紹介、しましょうか」

「私は、宮野 夢莉(みやの ゆめり)。あなたは?」

「俺は神崎 勇也です」

「神崎くん、ね。ありがとうさっきは」

「いえ、気にしないでください」

「そう、優しいのね…それじゃまた、学校で会いましょう」

そう言って宮野さんは学校へ向かった。

俺は…あの人を知っている。

宮野 夢莉…彼女も実は亀井に人生を狂わされた一人だ。

彼女はゲーム通りであれば、さっきの場所で無理やり亀井の女にされていたのだが…本来、その現場を見た神崎が一緒になって彼女を追い詰めるはずだったのだが、もちろん俺はそんなことはしないのでここでまたひとつ、

運命を変えたってこと。

しかし…気になる事がある。

亀井はあそこまで凶暴だったろうか。

ゲームで亀井は彼女に詰め寄るとき、あそこまで強気では

なかった。至って普通に詰め寄っていたはずだ。

しかしあいつは、大声を上げて彼女に詰め寄った。

…どういうことだ、亀井の性格が変わっている。

あいつはもっと、落ち着いたやつのはずだ。

「…考えても仕方がない。さっさと学校に行こう」

気持ちを切り替えて、俺は学校へ向かった。


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