三章 国難

第18話 雨に越えて

ツムグさんとの再会後、とりあえずユミビコと一緒に宮殿に移動する。

 私の隣にはツムグさんが歩き、ユミビコはオトシロさんにおんぶされ武勇伝を楽しそうに足をバタバタさせて聞いていた。


 ツムグさんは両手を上げて腰を伸ばて声を漏らす。

 それにしてもツムグさんとは何ヶ月ぶりだろうか。色々ありすぎて本当に忘れてしまっていた。


 ツムグさんは少し怖い顔で私を見ながら脇腹を小突いてきた。


 「とりあえずマカが意外と冷淡なのを知って良かったよ」


 「ごめんなさい。色々あったのでそれどころではなかったんですよ」


 「ふーん。まぁ、大体予想がつくからいいけど。その様子だと撃退・・は出来たんだね?」


 ツムグさんは少し口調を強くして言う。

 まぁ、大体は合っている。撃退はできた。だけどその分大きな犠牲を払い私はアタベとの戦いに敗れた。

 アタベが来るまでになんとかしないと。それはそうとどうしてツムグさんがここにいるのかが分からない。いや、確かにチホオオロさんに無礼を働いて捕まってのまでは知っているけど、どうしてオトシロさんといるのかがわからない。


 「そういえばどうしてツムグさんはオトシロさんと?」


 「——牢獄にぶち込まれた後にオトシロ様に引き取られたんだよ。なんかボクを親を欲しがっている童みたいだからそばにいてあげたいってね。良い迷惑だよ」


 「——その割には嬉しそうにオトシロさんに様つけてますよね」


 「——っ!」


 私の言葉が気に障ったのか目を開くと顔を赤くすると露骨に私から目を逸らす。

 それを見てか後ろを歩いていたオトシロさんは大笑いした。


 「ガハハハ! マカよ。ツムグは良き娘御だ。よく働きよく食べる。まるで遠い昔に亡くした我が娘にそっくりだ」


 オトシロさんは心なしか幸せそうに話す。

 ツムグさんは気恥ずかしいのかさっきから頬をかいている。とりあえず住むツムグさんが元気で何よりだ。

 それから私はツムグさんたちと喋りながら一緒に宮殿に向かった。


 ——————。


 村の奥に進みようやく宮殿が見え、階段を登って門の前に向かうと見知った後ろ姿の二人組が門番と話していた。

 その二人は兵士と話し、兵士が私たちに気がついて手を振ったのと同時に振り返る。

 二人は似たような藍色の長い髪を垂らし片方は大人びてもう一人は私と同じ年ぐらい。


 「——カグヤとナビィさん!?」


 私の言葉にカグヤは嬉しそうに階段から大きく飛ぶと私の胸に飛び込んだ。


 「おっと!?」と後ろに倒れそうになったところをオトシロさんに支えられながらカグヤをしっかり抱きしめる。

 体制を整えたあとゆっくりカグヤを地面に下ろした。

 カグヤは寂しかったのかずっと私の胸に埋まっている。


 「ちょっとカグヤ?」


 「——もう少しこのままが良い」


 「——もう」


 私とかぐやのやりとりを見てかナビィさんはゆっくり階段を降りる。ナビィさんは私を見ると安心する様な優しい微笑みを向ける。


 「マカさん。無事で何よりです。ところで後ろにおられる大男と子供、それから赤髪の娘は?」


 「うん。まずこの大きな男の人は大音部の蝦夷の長、オトシロさん。で、この子供はユミビコで赤髪の子はツムグさんって言うんです」


 私の自己紹介でナビィさんは「なるほど——あぁ行きしなに通った集落の長ですか」と口にする。

 そしてナビィさんはオトシロさんとユミビコ、ツムグさんにひとりづつ丁寧に自己紹介した。

 するとナビィさんはオトシロさんをじっと見る。


 門を見ると天河の二人の門番がこちらに駆け寄るとナビィさんは振り返った。

 

 「あら? どうかしました?」


 「客人方を外に待たせるのは悪いので客間にご案内いたします」


 兵士たちの言葉に私は周りを見る。

 うん、普通に寒いから中で話そう。


 私たちは片方の兵士に宮殿の中の客間に案内された。


 ————。

 兵士は私たちを案内した後、チホサコマさんとチホオオロさんを呼びに行くと言い出ていった。

 カグヤは本当に寂しかったのか私にくっついたままで、今は肩にもたれている。

 そういえばツボミさんはどこに行ったのだろう。

 そんなことをふと考えているのも束の間、ナビィさんはオトシロさんに話しかける。


 「そういえば何故蝦夷がこちらに?」


 「少し野暮用でな。ツムグが役目に戻りたいと申してこの村で待つと言ったから連れてきたのだ。それにしてもナビィという名は面白いな。ユダンダベアの版図の下々が祀る日の神の名とはな」


 オトシロさんは思うところがあるのかナビィさんから目を逸らさずじっと見ている。

 オトシロさんは天河には使えているけどユダンダベアの大王に仕えているわけではない少しややこしい状況だ。

 

 「まぁ、良い。女子二人で狛村から天河村まで来るとは……。ナビィとやらは見た目に反して心は武人なのだな」


 「えぇ、古い友人に少し鍛えられた程度ですがね」


 意外なことにオトシロさんとナビィさんは少し仲が良くなったようだ。

 カグヤは眠たくなって来たのか目を手で擦る。


 「カグヤ眠いの?」


 「——うん。ずっと歩いて来たから」


 それにしてもカグヤまで来るとは思わなかったな。てっきりナビィさんだけだと思っていたんだけど。

 

 カグヤは眠そうな顔でツムグさんをじっと見る。

 ツムグさんもカグヤを見ると困った顔を向けた。

 

 「ねぇ、マカ。あの人——ツムグさんとどうして仲がいいの?」


 「——ふふふ、いいところに気付いたね?」


 ツムグさんはどこか悪巧みをしている様な顔で笑う。

 多分ツムグさんがいると必ず問題が起きるのはこういう意味のわからないことをするからだと思う。

 それからしばらく談笑をしていると客間にチホサコマさんとチホオオロさんが入ってきた。

 チホサコマさんはナビィさんとカグヤを見ると「久方ぶりだな」と口にした。

 そしてチホオオロさんは初めて会った時と同じように真面目な顔で入ってくる。

 チホオオロさんはツムグさんを見るや否や露骨に一瞬嫌な顔をした。


 「あの、兄様。あの赤毛の女子をどうしてこちらに?」


 「——知らぬ。オトシロが連れてきたのだ」


 チホサコマさんがそういうとオトシロさんは頭を下げて話した。


 「上方。この娘はチホオオロ様より命じられた罰を果たしましたのでお連れいたしました。先は作法も知らぬ田舎娘でしたが今では作法を巧みに扱える女でございますのでどうかご勘弁を」

 

 「——オトシロがそういうのでしたらもう何も言いません。赤毛の娘。次はありませんよ?」


 「もう懲り懲りです。あと私の名前はツムグと言います」


 ツムグさんはカタコトの声で返事をする。


 「ツムグ。反省しているのならならいいのです。次は斬首ですのでご覚悟を」


 チホオオロさんは満足したのか安堵の声を吐く。

 それから私はチホサコマさんに一連の起きたことを話した。一応チホオオロさんが事前に話してくれたらしく大体は納得してくれた。


 その後ナビィさんは私の肩を叩く。


 「では、早速ですけど剣の力を目覚めさせます。剣と勾玉を持ってきてくれますか?」


 「は、はい!」


 「待って」


 私が立ち上がるのに合わせてカグヤは立ち上がると私の袖を掴んだ。


 「私も行く」


 カグヤはまるで母親から離れたくない娘のような悲しげな目でこちらを見る。手の力も珍しく強い。

 ——そういえば天人と戦う前にもイナメさんに言われたな。かぐやのそばにいてあげろって。


 「うん、行こう」


 私はカグヤとともに一度客室から出て寝床に剣と勾玉を取りに向かった。


 ————。


 寝床に戻ると私は剣と紅色の勾玉、所謂源氏の勾玉と黄金色の王の勾玉を手に持つ。

 一応だけど竪琴も持って行っておこう。

 私は勾玉を手に握りしめ、剣を背中に背負い竪琴を開いたもう片方の手で持つ。

 カグヤは王の勾玉が気になるのかそれをじっと見ている。


 「どうしたのカグヤ?」


 「ううん。綺麗だなって」


 「これは王の勾玉。大王からの使者が持ってきてくれたの」


 私はカグヤと話しながら共に寝床から出て客膣に戻ろうと再び歩き始める。

 カグヤはトコトコに私の隣を歩く。


 「ねぇ、そういえばマカはユミタレの許嫁だったんだ。知らなかった」


 「——私も知らなかったよ」


 私の言葉が不愉快だったのかカグヤは頬を膨らませる。 

 どこか怒らせたのかな。


 「えっと、どうしたの?」


 「ユミタレ、マカがいないって言われた時とっても悲しい顔していたよ? ユミタレと会ったのにもしかして変人を見る目で見てた?」


 「いや、流石にしないよ。どう見てもあれは私と違って格上の家柄。変な目で見るなんて無理だから。喋り方も上品で下々を見下さない素晴らしい人だっていう視線を向けてたよ」


 「——奇人じゃなくて貴人だったんだ」


 「何か言った?」


 「なんでも」


 ——今一瞬だけど奇人って聞こえたような。

 一体ユミタレさん狛村に来た時何をしたんだろう? 私が見た時はすごくまともな感じだったけど……。


 「マカ、分かった」


 「——どうしたの?」


 カグヤは慣れない笑みを浮かべるとゆっくり腹から声を出した。


 「最初ユミタレが狛村に来た時にイナメさんにこっそりとあわよくばマカを夜這いしたいって相談したのは内緒にしておくから」


 「——」


 今度ユミタレさんと会う日があればチホオオロさんかチホサコマさんにでも頼んで宗介さんに同行願おう。


 ————。


 しばらくカグヤと雑談をしていると客室に着き中に入る。

 ナビィさんはチホオオロさんから受け取ったのか青色の天河の勾玉を手に持っていた。

 私はカグヤと中に入る。

 カグヤを一旦座らせるとナビィさんは部屋の中心に指を差した。

 

 「マカ様。とりあえず剣を鞘から抜いて指を指している場所においてください」


 「分かりました」


 ナビィさんに王の勾玉を渡す。

 ナビィさんは手のひらの上で三つの勾玉をコロコロといじるとそれぞれ順番に剣を囲うようにしておいた。

 私含めカグヤとツムグさん、オトシロさんやチホオオロさんとチホサコマさんも唾を飲み込んだ。

 そしてナビィさんは柏手を鳴らしゆっくり首を動かし真剣な眼差しを私に向けた。


 「マカ様。言い忘れていたのですけど竪琴を持ってきてくれていたんですね」


 「はい。ナビィさんのことですから多分必須かなって思いまして」


 ナビィさんは少し笑みを浮かべると再び柏手を鳴らし目を閉じると祝詞を唱え始めた。


 「掛けまくも畏かしこき速耳媛ハヤミミウミナイ。隼人ハヤトの日向の神殿に降臨されり別天津神コトアマツカミに神命を受け神器に宿り給タマひ大源オホミナの神と共に諸々の禍ワザワイ払い給タマひ清めたまへ」


 ナビィさんが言い終えるのと合わせて三つの勾玉が輝き、溢れんばかりの光の粒を吐き出すと翡翠の剣に覆うように集まる。

 ナビィさんは私を見ると竪琴に視線を移す。


 「マカ様。私の歌に合わせて竪琴を弾いてください」


 「は、はい!」


 ナビィさんは息を深く吸い歌い始めそれに合わせるように私は竪琴を弾き始めた。


 「古の契り果たせし今勇イマタケル。目覚めや大神。禍事マガゴトを払ひ給タマへ鎮め給タマへ。今、日向千穂矢彦ヒナタチホヤビコ、大源尊オホミナモトノミコト、妖大蛇翁アヤカヒオロオキナが集ひ、神の力が剣に宿る!」


 ナビィさんの歌声は部屋中に響き渡り、中央に置かれた剣は急に揺れ始めると翡翠色に輝き瓦剥がれるように表面にヒビが走る。

 チホサコマさんはヒビを見ると何かが見えるのか驚愕して声に出した。


 「中に何かあるぞ!」


 チホサコマさんの声と共に剣の表面が割れ破片が光の粒となって消えた。

 剣は徐々に光が静まると元の翡翠の剣に戻った。


 見た目はあまり変わっていない、しかしよく見てみると刃が以前にまして鋭くなっている。

 剣を手にもつとナビィさんは肩で息をして汗を拭う。


 「ふぅ、これで剣の中に宿る神が目覚めました。後は天人を待つだけです」


 ナビィさんの言葉にチホサコマさんは安堵の息を漏らす。

 するとチホオオロさんは剣をゆっくり指で撫でた。


 「——意外とあっさりなんですね。てっきり長期的に使うのかと」


 「——そうですね。ナビィさん。勾玉はもう使わないですか?」


 ナビィさんはしばらく考えて頷く。


 「はい。もう使いません。天河の皆様ありがとうございました」


 ナビィさんはお礼を言うと頭を下げた。

 私も釣られて頭を下げる。


 それから少しして顔を上げるとオトシロさんはツムグさんの背中を叩く。


 「ツムグよ。取り敢えずこれで一件落着なのだな?」


 「うん。ありがとうございます。マカ。あとは天人を倒すだけだね」


 ツムグさんは最後に私を見て瞬きをする。

 その時チホオオロさんが思い出したかのようにチホサコマさんに小声で伝えるとチホサコマさんは「あー」と口に漏らすと襖を開けてそばに待機していたのであろう家来に何かを話した。

 そして家来がどっかに行くとチホサコマさんは元の場所に戻ると立ったまま私を見下ろした。


 「マカよ。そう言えば大王の元に馳せ参じるように命じられているのであるな?」


 「はい。我らの秘宝を手にしたらすぐにと言われました。天人のことは話しました」


 「なるほど話したか。その選択は間違いではないな。お前の一族は大王の側近。大王の勅令とあれば国造は必ず黙る。安雲の東の国境に接している鳥取トリトリは朝臣の物部だ逆らうことは出来ん」


 チホサコマさんは早口に喋った。

 

 だけど問題はその不吉な予感が伝陣でなかった場合はどうすれば……。

 そんな時部屋の外から大きな音が響くと襖を突き破ってボロボロの甲冑を着た宗介さんが飛び込んできた。

 宗介さんは泥だらけでさらに所々怪我をしており腕と足からは血が流れており、襖の外を見れば豪雨が降り始めていた。

 宗介さんはみんなの視線を無視してお構いなくチホサコマさんに近づくと頭を下げた。


 「チホサコマ様。無礼承知で話してもよろしいでしょうか?」


 チホサコマさんは困惑しつつも頷くと宗介さんは息を荒くしたまま話し始めた。


 「国造様がご乱心です! 大源オホミナノユミタレ様から授かった蛇剣オロチノツルギをお渡しした所、一瞬月を模した仮面が顔に浮かび上がったかと思えば暴走し始めました!」


 「——その格好。追っ手と戦ったのだな」


 「はい。追っ手の顔にも模した仮面がありました。恐らく——」


 宗介さんが考えるとチホサコマさんは「大丈夫だ。理解が追いつかないが状況は察せる」と口にすると私を見た。


 「マカ、それからナビィよ。我は天人と考えるがどうだ?」


 「天人ですね。それも確実に操られています。下手に殺せば確執を生みかねませんよ」


 ナビィさんは珍しく眉間に皺を寄せる。

 そしてチホサコマさんはカグヤを一瞬見ると私に声を掛けた。


 「カグヤよ。体力には自信はあるか?」


 「うん、泳いだり野草を取りに行ったり狩りをしてるよ」


 「そうか。ならマカよ。カグヤとともに安雲の東の国境に接している鳥取トリトリの国の与那子ヨナコに迎え。そこに居城を構える物部キジの一族に援軍を願い出るのだ」


 「え、えっと——」


 つまり今天人に操られた国造との戦争が始まるの!?


 今戸惑いを隠せない私にチホサコマさんは近づくと方の上に手を置いた。


 「マカよ落ち着け。取り敢えず天人の策が日に日に巧妙となっている。物部に頼むのは厄払いに長けた一族が奴に使えているからだ。おそらく彼らなら天人を払える」


 「——っ!」


 「それにカグヤとお前が共に行動する方がいい。カグヤは証言者でもあるのだからな」


 しょうがない。今やるしかない!

 カグヤを見るとやはり不安そうにおどおどしていた。

 ここは安心させないと。

 私はカグヤに視線を合わせて優しく抱きしめた。


 「カグヤ、大丈夫だから。ね?」


 「——うん」


 「よしよし。良い子」


 私は宗介さんを見る。


 「宗介さん! 国造の兵がこちらに来るのはいつ頃ですか?」


 宗介さんは乱れていた息を整えるとすぐに頭を整理させたのか立ち上がると外を見る。


 「この冷たい日にこんな大雨——オトシロ殿。蝦夷たちの騎馬部隊は動かせますかな?」


 オトシロさんは少し考えると笑みを浮かべる。


 「えぇ、いつでも。もしや宗介様お得意の待ち伏せですかな?」


 オトシロさんの言葉に宗介さんは笑みを浮かべる。そして宗介さんは私を見た。


 「マカ殿。明日には敵は来ますぞ。鳥取トリトリは早くても片道三日はかかります」


 「それだと往復六日ですけど耐えれますか? 無理でしたら私も残って戦った方が!」


 宗介さんは首を横に振ると私に笑顔を向けた。


 「心配は無用ですぞ。天人が操っているのであればその天人を討てば良いだけです。無理であれば六日程度耐え切って見せますのでご安心を」

 ツムグさんは咄嗟に立ち上がると私の手を掴んだ。


 「マカ。今すぐに行こう。チホサコマ様。良いですよね?」


 チホサコマさんは特に反対もせず頷く。


 「マカよ。鳥取トリトリに行く近道は海だ。山を降りた先に漁村があるだろう? そこにいるカブカセと言う商人に我の命と言って鳥取トリトリまで送っても貰え、帰りは物部に頼むのだ」


 「分かりました。カブカセさんですね。どこにいるのか具体的に分かりますか?」


 「奴は家船ヤブネに住んでいる。港に大きな船があるからそれこそが家船ヤブネだ」


 「なるほど。分かりました!」


 ツムグさんを見ると理解したのか頷く。

 

 「じゃマカ! 今すぐ行こう!」


  

 ツムグさんは入り口で待っていると言って笠を被ると走って行ってしまった。

 私はカグヤに手を伸ばす。


 「カグヤ、行くよ」


 「——うん」


 私はカグヤの手を掴むと置きっぱなしにしていた剣を鞘に戻しツムグさんを追うように走った。

 大雨の中私は宮殿を飛び出すと宮殿の前に軽装で笠を被り袋を背負っているツボミさんが待っていた。

 私は足を止めるとツボミさんは微笑む。


 「——何か不吉な予感がしたので雨を降らせましたが余計なお世話でしたかね? それと食料はお持ちください。雨の日、特に冬場は獣も人も無理に出てきませんので行くのでしたら今のうちに」


 私はツボミさんから袋を受け取ると肩に乗せた。


 「ありがとうございます。では、行ってきます!」


 ツボミさんに向かって手を振ると袖を振って返してくれた。

 そして門の前まで来るとツムグさんは腰に手を置き私とカグヤを見るとニヤニヤと笑う。


 「姉妹みたいだね」


 「——うん。カグヤは私にとって妹分だし」


 「私にとってもマカはお姉ちゃんだからむしろ褒め言葉だよ?」


 ツムグさんは私とカグヤの予想外の言葉に面白くなかったのか不満げな表情になるものの、振り返りと歩き始めた。


 「それじゃ行くよ。蝦夷の騎馬隊に敵う兵士はこの世で宗介さんだけだから当分は足止めできるよ」


 「うん。分かった」


 私はツムグさんとカグヤと共に漁村に向かって歩き始めた。

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