レッツ朝活

「__おい、おい起きろ」

「はぁ……何、君にしては早起きだね」

開かれた窓からは光が差し込んでいる。

起きたばかりだからだろう、頭も痛いし、眠いし、叩き起こされるしで私は最悪な気分だ。

しかも昨日は深夜、日が昇るまで報告書を片していたのだ。今すぐもう一度寝たい。


「今日は朝の定例会議だろうが。らしくないぞ、大事な予定を忘れるなんて」

「カミエス、今日は出席できそうにない……、体調不良ということにできないか?」

「しょうがない、そうしよう…………とでも、言うと思ったか?私はお前を引っ張ってでも連れて行くぞ」

「何故そこまでする?いつもなら」

「ボス直々だ。今日は絶対に出席しろとのこと。だから行かねばならんのだ」

「あんの老害が……」

「何か言ったか?早く仕度しろ、私までも遅れてしまうだろう」

「ああ……そうするよ」


~…~…~…~… ・ …~…~…~…~


会議室。この船は、全体的に白が基調で洗練されたイメージだ。

部屋に入ると無駄に縦長い机と8個の椅子。両端にはボスと管理人が座っている。


「ゴホン……諸君、今日は朝から集まっていただき感謝する」

本当に最悪だ。何故よりにもよって今日なんだよ……

と、心の中で溜息を吐いた。

「今日の議題なのだがね。最近この天空の船____________スカイ・ノアについて良からぬ噂が立っておるのだとか」

噂?そんなもの放っておけばいいのではないか……この場にいる全員がきっと同じことを考えただろう。

「噂と言えども放ってはおけない。何故か?それはこの世界が、偽善ではないかと疑う者が出始めたからだ」

あぁ、昨日の朝に聞いたアレか…………


突然ダンッ、と机を叩くと同時に、椅子を引く音が響いた。

「どういう、こと、ですか………………」


押し殺したような声で発した彼女____エズは心なしか顔も赤く火照っているようだ。

彼女の家系は父、祖父、曾祖父と、代々この船の次位管理人をしている。「偽善」なんて言われたなら、頭に来てしまう気持ちも分かる。


「まあ落ち着けよ。所詮はただの噂だ。君が気に掛けることはない」

エズは私の隣に座っているので自分なりに彼女を宥めてみたのだが、あまり効果的ではなかったようだ。

「あなたに何が分かるって言うの……?」

だんだんと眉間にしわが寄っていき、握りすぎた拳からは血が滲みそうだ。俯いているため表情は隠れて見えにくいが、雰囲気で分かる。怒っている。

「エズ、ごめ」

「いいの。…………すみません、ボス。少し席を外してもいいでしょうか」

「ああ」

「ありがとうございます」


コツコツ……、とドアに向かって彼女は歩いていき、ボスに一礼してから部屋を出ていった。

彼女は私に謝ることさえもさせてくれなかった。

悪いことをしただろうか、少し反省せねば。あとで彼女にもう一度謝っておこう。


「ゔうん。まぁ、そういうことだ。もし万が一船から飛び降りるなんて者が出てきたら大変だからな。集団パニックも起こしかねないだろう。まずは噂を根源から潰す」


ほう……なるほど。このオーバーワークを強いてくる老害にしては良い考えだろう。

この船の起源はここにいるボス、管理人、次位管理人、各隊隊長の計8人しか知らない情報だ。噂……ここが偽の世界ということが広まってはいけないのだろう。なにせ半分は当たりなのだからな。

今日も今日とてこの船の下には空が広がっている……。そう。お察しの通り、ここは天空に浮かぶ巨大な船だ。

昔。数千年、数万年も昔。人類が生き住んでいたという「地面」が崩れるということを神が小耳にはさみ、慈悲の心でこの天空に浮かぶ船____命名スカイ・ノアが誕生したというわけだ。

いつ聞いてもファンタジーで壮大な物語だ。

向かいに座るカミエスもつまらないのか、長い赤色の髪を指でクルクルしている。


「調査は司令隊、攻撃隊に任せる。当然隊長のみで行ってくれ。ああ、そういえば、ポケット転送装置のバグが発見されたそうだ。科学センターにも言っておいてくれ」

「は」

カミエスはちゃんと返事をしたようだが、私はもう声に出すのも億劫なのだ。

私の管轄ではないところにも仕事を増やしやがって。もうちょっとホワイトにならないものだろうか?


「では朝の定例会議は以上とする。各々解散してくれ」


「また仕事が増えたな」

「はぁ……どこにそんな体力があるの?ちょっと分けてくれないかな」

「さて、早速調査しに行くとするか。いいか?」

「ああ、終わらせるなら早くしよう」


~…~…~…~… ・ …~…~…~…~

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