第10話 祐奈VS吸血鬼
「その子たちから離れて!」
ゆっくりと男が振り返る。彫りの深い男だった。吸血鬼特有の紅の瞳で睨みつけてくる。
「あぁん? んだ、お前」
「シスターよ」
答えながら祐奈は、手のひらにリリウムを集結させた。粒子が弾け、銀の刀が生成される。
すぐにでも吸血鬼を霧散させてしまいたいところだが、祐奈は吸血鬼の背後で怯えている女の子たちに目をやった。戦いに巻き込まないためにも、まずは女の子たちをこの場から逃がさねばならないだろう。
「あなたたち。この吸血鬼はわたしが倒すから、早く逃げて」
「あ、ありがとうございます!」
女の子たちが逃げたのを見送って、祐奈は刀の切っ先を男に向けた。
「悪いけど、あなたにはここで死んでもらう」
「できるもんなら――」
男が右手に血器を創り出し、祐奈に斬りかかってきた。
「――やってみろや!」
「ッ!」
それを冷静に躱して、祐奈は反撃に出る。男の首を切り落とそうと刀を横に振り払った。しかし、男の血器に受け止められる。
祐奈の攻撃を防いだ男が得意げに、吐き気を催すような意地の悪い笑みを浮かべた。
「残念だったなぁ」
舌で唇をペロリと舐めた行動に悪寒が走り、祐奈は一度男から離れる。
「てめぇ、シスターよぉ。せっかく人が血をいただこうとしてたのに、邪魔しやがって」
「邪魔って、させるわけないでしょ」
「まぁ、シスターだもんなぁ。でもよ、邪魔されて俺の気が済まないんだわ」
「そんなの、わたしに言われても困るんだけど」
「だからよぉ、お前をぶっ殺して血をもらうことにしたわ」
男はあくまで余裕な態度で、血器を振り上げこちらへ向かってきた。力任せに振り下ろされた攻撃を受け止めて、なんとか弾き返す。
少し距離ができたので、祐奈は踏み込んで勝負を決めようとしたのだが、それよりも先に男が血器を突き出してきた。
「オラッ!」
「くっ……」
祐奈は攻撃を断念し、身をよじってなんとかその一撃を躱す。
前髪がわずかに血器に触れて切り落とされてしまったが、ここぞとばかりに祐奈は構わず男の懐に飛び込んで肉薄した。
「やぁぁッ!」
躊躇なく、刀を男の胸部に突き刺した。
銀の刃に身体を貫かれた男は、口から血を吐きながらその場に崩れ落ちた。祐奈が刀を引き抜くと、灰となって霧散する。
その姿が完全に消えたことで、ようやく祐奈は安堵の息を吐き出した。同時に刀が粒子に包まれて、祐奈の手の中からなくなる。
「ふぅ……」
少し苦戦を強いられてしまったが、桜子に戦わせることなく吸血鬼との戦闘を終えられた。上出来だと言えるだろう。
電話を終えたであろう桜子の元へ戻ろうと、祐奈はくるりと方向を変える。
すると、角からひょこりと桜子が姿を見せた。
太陽は沈み、大通りから外れた場所だというのに、桜子の姿を見ただけで世界も心も明るく晴れ渡ったような気がした。
「あ、桜子ちゃん」
「……終わったの?」
祐奈の後ろをちらと見ながら、桜子が首をかしげる。
先ほどの吸血鬼は完全に灰となって霧散したので、祐奈は強くうなずいた。
「うん」
「ふーん、そっか」
「さ、商店街の方も見回りして、沙織さんに報告しよう」
なんだか桜子が不満げなのは気になったが、きっと自分も吸血鬼と戦いたかったのだろう。
桜子の肩を押して、商店街のほうへ向かおうとした――刹那。
「祐奈さん、後ろ!」
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