第25話 呆れる俺、慌てるお前
「光ちゃんが立候補するなら、私が応援弁士になるわ」
「優子ちゃんがいてくれたら心強いよ!」
昼休み、昼ごはんを食べながらそんな話をしていた。月宮が生徒会役員に立候補するというのは本気らしい。土屋はニコニコして月宮の方を見つめている。
「月宮は生徒会に出て何がしたいんだよ。何となくはなしで」
「うーん、なんだろ?」
「体育祭の実行委員とか、予算会議に出て意見言ったり、いろいろあるだろ」
俺がそう言うと月宮は頭を抱えて唸りだした。そして苦し紛れに言葉を発する。
「意外と楽しくなさそう!」
「やりたいのかやりたくないのか、はっきりしろよ」
髪をフサフサとなびかせて頭を振っている。こいつ、勉強苦手だし会計とかできなそう。土屋は会計とか向いてそうだけど。
「光ちゃんならきっとできるわ!」
「やめろ、土屋。根拠のない励ましほど残酷なものはない」
「やっぱり、日野くんは捻くれてるわね」
「本当のことを言ったまでだ」
そう、俺は捻くれてる。素直であることが絶対的正義だなんて思わない。自分の考えを持つことが大事だと考えている。それが他人に何と言われようと。
「うーん、確かに私は事務の仕事は苦手かも」
「そうだ。得意なことだけ頑張ればいい」
「日野くんって実はいい人?」
「今までは悪人だと思ってたってことかよ」
うーん、俺って悪なのかな? 少なくとも周りにはそう見えているのかもしれない。
「日野くんを見習ってもう少し深く考えてみるよ」
「光ちゃんが頑張るのなら、私もいつでも応援するわ」
本当、こいつらは仲良しだな。この二人は全く逆のタイプに見えて、かなり相性が良さそうだ。コーヒーと牛乳みたいな? ダメだ。俺の前に置かれた土屋のカフェラテに引っ張られて変な例えが思いついてしまった。
チャイムの音で教室は秩序を取り戻し、クラスメイトたちは次の授業の準備をし始めた。
☆
今日は図書委員会の定例会の日。面倒だが、毎回全員出席という社会の縮図なのだ。図書室の方に月宮とともに歩いていく。
「せっかくだから、水野委員長に生徒会選挙のこと聞いてみようよ」
「そうだな」
図書室の重たい扉を開ける。そこには既に数人の生徒がいた。水野委員長ももちろんいたし、美しい出立ちは一際目を引く。俺たちが入ってきたのに気付いたようで、彼女は微笑みを浮かべた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう!」
月宮はお嬢様の喋り方をマネした。水野委員長はそれを全く気にせず、髪を揺らしながら俺たちに語りかけた。
「私、生徒会選挙に出るつもりですわ。それも生徒会長で」
「どうして生徒会長になりたいの?」
月宮が率直な質問をぶつける。それに対して委員長は自信満々に答える。
「理由は一つですわ。それは、私の権力を誇示するため!」
お、おう……。清々しいまでに自分の欲のために選挙に出ようとしているな。これが彼女の本性なのか? 思い返せば、紛れもなく自分本位な人間でした。
「権力を誇示してどうする?」
「はあ……、あなたのような日陰者には分からないでしょう。私は皆の注目を集めてチヤホヤされないと死ぬんですわ!」
「頭がおかしいと思う」
俺はこういう自信過剰なやつは苦手だ。暑苦しいし、ムカつくし。だが月宮はというと……。
「委員長さんカッコいい! 私も応援するよ! 一緒に頑張ろうね!」
「あら? 月宮さんも出るんですの?」
「そうだよ。私も生徒会に入ってからチヤホヤされたい!」
月宮もチヤホヤされるの好きそうだよなー。まあ、積極的なのはいいことだ。
「一緒に頑張りましょうね、月宮さん」
「うん!」
水野委員長は月宮と違って、何だか深い野望を持っていそうだ。例えば世界征服とか。
彼女らにとって生徒会に入ることがどれほど魅力的なのか、俺には分からない。しかし、水野委員長の目はやる気に満ち溢れている。みんなそれぞれ打ち込むことがあるんだな。
「日野さんも! 是非とも投票よろしくお願いいたしますわ!」
「それは保証できない」
【おまけ】
ある日の学級日誌
記録者 月宮光
今日は天気が良くて、外で走り回りたくなるくらい気持ちよかったです。クラスのみんなも同じだと言っていました。あの日野くんでさえ晴れている方がいいそうです。
担任 桜木真奈美
天気が良いと、心も明るくなりますね。外で走り回っているあなたを想像すると、私の飼い犬のことを思い出してしまったのはなぜでしょう。寒いので走り回るのはやめておいた方が良いと思います。
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