第24話 流す俺、奮起するお前

 十二月。意外と何もない月だ。クリスマスはパリピの祭典なので俺には関係ない。寒さばかりが増して苦しいので、外に出ないのが生き物として正解だと思う。人間にも冬眠を導入するべきだ。


「日野くーん!」


 そんなときにもかかわらず元気なやつだ。俺がもし冬眠に入ったとしても、月宮は外から窓をどんどん叩いて起こしてきそうな気がする。


「おはよー!」

「……おはよう。相変わらずテンション高いな」

「えっへん!」


 いや、褒めてはないから。びゅうびゅうと風が強く吹くが、それに逆らうがごとく明るい月宮。子どもは風の子元気な子。


「そういえばさ、一月に生徒会選挙があるんだって」

「興味ねえ」

「水野委員長も生徒会長候補で出るって」


 マジか……。あの委員長が出るのか。ぶっちゃけ、そこまでリーダー適性は感じないけど。


「楽しみ!」


 こいつはまた何か企んでそうだな。そう思ったが、その何かを今聞くのはやめておく……、までもなく自分から教えてくれた。


「私、生徒会に立候補しようと思うんだ!」

「ほう。何のために?」

「なんとなく面白そうだから」

「はあ……」


 どうせそんなことだろうと思ったさ。こいつは深く考えて行動するようなやつじゃない。直感で動いて、楽しい方へと行く。それで後悔することなんてないし、いつも明るく振る舞って

いるから憎めないのだ。


「そうかよ」


 俺は一言だけ返して、学校に向けて歩き始めた。

 しかし、本当に月宮が生徒会選挙に出るのだとしたら大きな変化だな。月宮が生徒会に入ったことを想像してみる。


『ミニスカートを認めます!』


 こうして学校の風紀は乱れまくり、世は世紀末になった……。うーん、心配だ。これは少し大袈裟に面白おかしく言っただけにしても、なんかまずい気がする。


「日野くんも一緒に出ようよ」

「嫌に決まってるだろ」

「えー……、つまんないの」


 俺が生徒会に? 無理無理。面倒だし、仕事が増えるし、だいたい人のために動くなんて俺のすることじゃない。周りの人間は俺に対して何もしない。だから俺も周りに何もしない。それでいいだろ。


「きっと楽しいよ。初めて見ないと分からないから」

「ふん、始まる前から分かってるさ」

「きっと後悔するよ。始める前からそんなこと言ったらもったいないよ」

「……やりたくないことをやっても意味がない」


 挑戦してみようとか、やってみないと分からないとか。こんなことを考えていたのは昔の話だ。やってみてダメだった経験をしてから、根拠のない希望はやめた。というか、現状に満足しているからリスクを負う必要もないと考えている。

 校門が見えてきた。桜木先生が立ってあいさつをしている。どうやら服装チェックらしい。寒いのにご苦労様です。


「おはようございます」

「おはようございます!」

「おはようございます。月宮さん、日野くん。服装チェックしますね」


 先生は今日も凛とした姿で立っていた。黒のメガネを輝かせ、上着を着てマフラーを巻いている姿はまるで雪女……、って褒めてるからな? ボッーとしている間に服装チェックは終わった。


「日野くんはOKです。月宮さんはスカートが短すぎです!」

「はい……」


 バカめ。やはり女子の気持ちは分からない。スカートを短くしようとする意図が全く理解できない。寒いだろ。見てるこっちまで寒くなるし。


「先生ー! 許してー!」

「明日には直してきてくださいね?」

「むー……」


 月宮は先生に対しても素直だ。何でも正直に言えるのは長所であり、短所でもあると思う。


 ☆


「生徒会役員が服装検査に引っかかるなんて大丈夫なのか? お前が生徒会に入るのが心配になってきた」

「私できるもん!」


 頬を膨らませて……怒っているのか? 弱そうで怒っているように見えない。


「とにかく、私は絶対生徒会に入る!」

「そうか」


 月宮の方ではなく窓の外に目を向ける。外は木枯らしが吹き、寒そうだ。太陽もまだあまり出ていない。このどうしようもない生徒、月宮光の活躍にはあまり期待していない。


【おまけ】

ある日の学級日誌


記録者 日野冬馬


 なぜリア充は群れたがるのか。今日一日を通して思った。登下校や教室移動、果てにはトイレにすら一人で行けないのか。彼らは自分一人では何もできないのだろう。確立した『個』を持っていないのだろう。俺のように自分一人で強い者が最強なのである。


担任 桜木真奈美


 あなたが大変捻くれていて、強い『個』を持っているということは分かりました。しかし、学級日誌に思想を持ち込むことは感心できません。この欄にはクラスの様子をありのままに書いてください。

 それより、あなただっていつも月宮さんと一緒じゃないですか……。


 

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