第23話 嘘をつく俺、気づくお前

「プレゼントも渡し終わったことだし、何かして遊ぼうよ!」

「そうだなー。日野、何かないのか?」

「なんで俺なんだよ」


 俺ほどつまらない人間も珍しい。そんなやつに期待する金田は相当アホだ。しかし、陽キャ三人に囲まれてキラキラとした瞳を向けられると断れない。ここは妥協案を通すか……。


「まずは飲み物でも飲もう。騒いで少し喉が渇いたからな」

「そうだね!」


 というわけで、月宮の家にある飲み物を勝手に使ってお茶会が始まった。主に月宮がバタバタと動いて準備する。


「お菓子は私が持ってきたわよ。クッキーとかラスクとか」


 土屋のカバンから様々なお菓子が出てくる。それを机に並べていくと、月宮が誰よりも先にクッキーを取った。ドーナツが一番好きなんじゃなかったのか。まあ、甘いもの全般好きなのかもしれない。


「んー! おいしい!」


 月宮はリスのように頬を膨らませてクッキーを食べている。


「美味そうに食いやがって」

「日野くんも飲み物自由に取っていいよもぐもぐ」

「食べ終わってから喋れ」


 俺は机の上に置かれている飲み物を見渡す。うーん、何にしよう。ココアにしようかな。


「日野、ココアなのか? コーヒーとか好きそうなのに」

「苦いの苦手なんだよ」

「意外だなー。じゃあコーヒーは俺がもらう」


 マジかよ……。金田はコーヒー飲める系パリピだったようだ。なんだか負けた感じがする。早く大人になりたい。だが仕方ない。俺はココアの缶を開けて勢いよく飲む。甘い香りが漂い、ほのかな甘味が口に広がる。


「日野くん、おいしい?」


 土屋が期待のこもった眼差しを俺に向けてくる。なんでお前が自慢げなんだよ。


「うまい」

「それはよかったわね」


 こうしてみんなで集まって食べたり飲んだり、バカな話をしたりするのは初めてかもしれない。中学の時はもちろん、純粋だった小学生の頃からそんな機会はなかった。これが青春なのかもしれない。高校に入ってから青春を感じることが多くなった気がする。


「……」

「どうしたの日野くん」


 俺の雰囲気を察したのか、月宮が話しかけてくる。目を少し見開き、透き通った純粋な瞳で俺を見る。この眼差しを向けられているのは俺で、そう思うとなんだかむず痒い。

 なんでこいつは俺に引っ付いてくるんだろう。なんで俺のことをそんなに気遣うんだろう。


「何でもねえよ」


 そろそろこの言い訳も苦しくなってくる。何でもないはずがないと月宮も気づいているはずだ。


「そっか」


 気づいていながら、気づいていないふりをする。それは間違いなく優しさだろう。今の俺にとっては、その優しさは逆に重荷となり始めている。嘘をつくのはやめたいが、正直になるのも嫌なので嘘を重ねてしまう。


「日野くんがまた考え事してるわ」

「変なやつだなー。日野って」


 他二人は気づいていない。俺と月宮の微妙な間合いに。


 ☆


 結局その後、夕方になるまでお菓子とジュースで騒ぎ続けた。すっかり馴染んでしまった自分に驚く。


「みんなありがとう! 今日は楽しかったよ!」

「また学校で会いましょうね」

「俺も楽しかったぜ」

「……楽しかった」


 それぞれが家に向かって歩き出す。俺はなんだかここから離れたくなくて、少し立ち止まる。


「日野くん!」


 それに気づいた月宮が俺の方に走ってきた。なんだか犬みたいだ。


「どうしたんだよ」


 俺は月宮の方を向かないで尋ねる。すると、俺の手を取って大声で叫んだ。


「日野くんのプレゼント、嬉しかったよ!」


 それを聞くとなんだか浄化されたような気持ちになり、穏やかな心が取り戻った。月宮はいつだって素直だ。俺のプレゼントも心から喜んでくれたし。彼女の方に向き直ると、満面の笑顔で立っていた。


「よかったよ。喜んでもらえて」


 こいつのバカ素直が感染したかもしれない。でも、そんなのも悪くない気がしてきた。月宮は俺の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

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