第22話 祝う俺、祝われるお前

 今日は月宮の誕生日、十月九日だ。月宮の家に集合ということで、電車で少し遠出することになる。土屋と金田は家が近いらしいが、俺は別の地区に住んでいるため唯一の電車移動となる。電車に揺られながら少しずつ隣町に近づいていく。


『次は、……駅』


 ここで降りて、後は、月宮が送ってくれた地図をスマホで確認しながら歩いていく。駅から10分くらいだろうか。二階建ての大きめの家が見つかった。二階建て……。羨ましい。表札があるからここで間違いなさそうだ。呼び鈴を押して返事を待つ。


「はーい!」


 という声が聞こえると、勢いよくドアが開いた。


「日野くん!」


 いつも通りのハイテンション。普段の違うのは、制服ではなく私服であるということ。淡い色の長袖シャツと青のスカートに身を包んでいる。ファッションセンスがあまりないので、女子の流行りは全く分からない。


「早く入って!」

「待て待て。そんな焦るなって」


 月宮に手を引かれて家の中に入る。スタスタと階段を上がり、月宮の部屋に入った。


「日野くん、やっときたわね」

「日野ー、遅いぞー」


 土屋と金田の方が先に来ていたか。どちらもイメージと変わらないようなファッション。土屋は白のカーディガンを羽織り、黒のロングスカートで少し大人っぽさを出している。金田は派手な柄物の上着に紺のジーンズとラフな格好だ。


「それじゃ、日野も来たことだし始めるか」

「そうだな」

「光ちゃん! お誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「……おめでとう」


 それぞれが口々に祝いの言葉を述べる。


「いやー、ありがと〜」


 月宮はそれに応えるように、照れながら返事する。目を細めて笑顔になり、とても嬉しそうだ。


「私からプレゼントよ」


 土屋はカバンから赤の袋を取り出し、月宮に渡した。中身は何だろう?


「開けていい!?」

「もちろんいいわよ」


 わしゃわしゃと袋を開け、中の箱から現れたのはアクセサリー。銀色に輝くペンダントは月宮によく似合っている。さすが土屋だ。センスがいい。


「ありがとー! 大切にするね!」


 月宮が早速それを首につけると、銀が胸元でキラリと光った。これはもはや誕生日プレゼントの枠を超えている気がするが、多分安めのやつなんだろう。うん、そうだそうに違いない。10万円近くするものはさすがにありえないよな。


「次は俺の」


 金田のプレゼントは何だろうか。この男、きっと女子の心を掴むプレゼントを用意するはずだ。


「開けてみてくれ」


 金田は白い紙袋から包装された箱を取り出した。土屋も少し気になっているようだ。


「い、いいの……?」

「もちろん」


 月宮が包装を丁寧に開ける。そのプレゼントとは……?


「あ! 可愛い!」


 小さなストラップのようなものだった。それは月宮の好きなキャラクターのもので、さすがは金田、好みを把握している。きっと、前日までに尋ねていたのだろう。俺からしたらコミュ力お化けだ。


「わーい! 次は日野くんだね!」

「ああ、そうだな」


 俺のは喜んでくれるだろうか? 今更ながら緊張してきた。背中に少し汗を垂らしながら袋を取り出す。

 どこかで聞いた。緊張するのは、失敗したくないから。失敗したくないのは、本気だから。


「これ、プレゼント」

「開けていい?」

「ああ」


 俺が用意したプレゼント。それはあの日見たポーチ。ピンク色で、月宮の好きなアニメのグッズ。これを買うのにまた店に戻って買ったんだ。その苦労が報われなければ困る。さあ、月宮の反応は?


「これ……、あのときの……」

「ああ」

「ありがとー!」


 この笑顔を見ればわかる。気に入ってくれたのだろう。月宮は俺が渡したポーチを大切そうに抱きしめて、満面の笑みを浮かべた。自分に向けられた無邪気な笑顔に心打たれるものがあった。やっぱり、俺は……。


「大切にするね!」

「よろしく頼むぜ」


 人のために、なんて考えたことは一度もなかった。善意なんて、踏みにじられるものだと思っていた。現に、今までそうだった。しかし、この笑顔を見てみろ。ただ純粋な笑顔だ。

 俺はこの笑顔が見たかったんだと、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る