第21話 察する俺、ニヤニヤするお前

 俺と月宮は棚にたくさん陳列されたグッズを見ていく。有名なアニメから、ややマイナーなものまで様々だ。なんとなく知ってる作品のグッズを手に取ってみる。魔法少女……。文化祭のことを思い出す。


「あ、これ可愛い……」


 月宮はそう言うと、棚の奥の方からポーチのようなものを取り出した。それは確かに可愛らしくデザインされていたが、月宮にはあまり似合わないくらいピンクが主張されていた。ついでに、俺はそのアニメを知らない。女子高生のキャラのイラストが描かれている。


「可愛いでしょ? 私このアニメ好きなんだ〜」

「どんなやつなんだ?」

「女の子たちが書道部で仲良くするお話!」

「それって……、百合なのか?」


 月宮が百合を好むなんて意外だ……。割とガチなオタクだったのか?


「ゆり? お花がどうかしたの?」


 違ったようだ。なんか俺がバカみたいじゃないか。


「いや、なんでもない」


 俺がそう言うと、月宮は納得したような顔をして会計をしに行った。

 月宮の背中を見ながら考える。さっきのアニメといい、月宮にとって友情は最大の関心事なのだろう。学校では俺以外にも多くの人と話すから、自然と趣味もそちらに寄るのかもしれない。月宮は本当に毎日が楽しそうだ。


「あー!」


 店内で騒ぐな。会計を終えないで俺の方に一直線に戻ってきた。


「お財布忘れちゃった」

「バカか」

「また今度来ようかな。日野くんは何も買わないの?」

「俺は今回はいい。やることないなら帰るぞ」

「そうだね」


 店を出た後、俺たちは駅に向かって歩いていった。少し歩いたところで、ふと振り返る。テカテカとした店の看板が俺たちを見送っている。


「あれ? やっぱり欲しいものあった?」

「まさか、そんなわけねえだろ」


 涼しいどころか、寒くなりつつある秋の風が俺たちを包んでいた。


 ☆


 月宮の誕生日、十月九日まであと三日……。意外にも、それを主張こそしないが、月宮のオーラは明らかに誕生日を意識していた。ふとしたときにニヤけている。


「なんかいいことでもあったのか?」


 誕生日のことなど全く知らないというふりをして声をかけてみる。


「いやー? 何もないよー」


 わざとらしい。髪を揺らして何でもないふり

をしている。バレていないつもりなのだろうが、単純な月宮の考えは全てお見通しだ。


「何もないことないだろ」

「えー? なんでそう思うのー?」

「なんか、いつもと違うんだよ」

「つまり、日野くんは私のことをよく見てるってことだよね。普段との違いが分かるってことは」


 ニヤニヤとしながら煽ってくる月宮。うぜえ……。「私可愛いでしょ?」とでも言いたいのか。


「見てねえし。お前なんか」

「素直じゃないね。それでこそ日野くんだよ」

「……もう席戻れよ。ホームルーム始まるぞ」

「照れ隠しー?」

「うるせえ」


 照れ隠しなわけない。月宮に照れるはずがない。それに、ホームルームが始まるのは事実だ。すぐに桜木先生が教室に入ってきた。今日は秋なのに少し暖かい気がする。

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