第17話 働く俺、近づくお前
今日はいよいよ文化祭。リア充は活性化し、リア充でない者さえ活性化する日。俺と月宮はいつものように電車に乗り、学校に着き、教室に入る。
「楽しみだね」
「……ああ」
俺と月宮は当たり障りのない会話をする。周りを見れば、文化祭への期待や不安が見受けられる。店番を任せられている人たちは特にそうだ。文化祭とはいえ、接客は慣れないものだからな。
そういう俺はというと、月宮とともに図書委員会のシフトが九時、つまりスタート直後にある。
「おはようございます!」
教室のドアが開き、入ってきたのは桜木先生だ。先生までもテンションが上がるとはおそるべし、文化祭。服装もいつものスーツではなく青ジャージだった。ダサ……じゃなくて、動きやすくていいと思う。先生もやる気だ。
しばらくして、時計は八時四十分を指した。
「それではみなさん! 楽しんできてください!」
先生の掛け声でクラスは一斉に散らばる。文化祭開始だ。俺と月宮、先生は図書室へと向かう。
着替えは図書室の隣の部屋でする。ちょうど二部屋、男女別れることができる。
「では日野くん、月宮さん。着替えて待機してくださいね」
「はい!」
衣装は以前試着したものと同じ。俺は緑のシルクハット、スーツ、モノクルを身につける。……弓矢は邪魔だ。
月宮は魔法少女のフリフリした服に伊達メガネ、先端がハートのステッキを持っている。正直、一番目立つ。
「見て見てー! 可愛いでしょー!」
「お前、試着の時も言ってたよな」
「だってー、日野くんに可愛いって言ってほしいからー」
「はいはい、分かった分かった」
月宮を適当にあしらい、俺たちは指定された持ち場へと向かった。そこには、青髪のツインテールの女性が。
「お二人とも、今日は頑張ってくださいませ」
水野委員長だ。相変わらずややウザいお嬢様口調、そして何のコスプレか分からないがメイド服にツインテール。
「私はツンデレキャラをさせていただきますわ。コスプレということで、やはりツンデレが求められるでしょう?」
「別に求められてないだろ」
「はあ……、あなたはツンデレに興味がないんですの? 一般的には大人気キャラですわ」
あきれた表情でため息をつき、ツインテールをひらひらとはためかせた。別に俺はツンデレに興味がないわけじゃない。人間全般に興味がないってだけなのに。
「そんなに言うなら、ツンデレキャラやってみろよ」
「べっ、別にやってもよろしくてよ?」
「イマイチだな……」
「もういいですわ。あなたごときには理解できそうにありませんから」
自分の演技力不足ではなく、俺の理解力不足のせいにするあたり、さすがと言うべきか。だからお嬢様は苦手なんだよ。委員長は俺に意見を求めるのは諦め、月宮の方に寄る。
「月宮さん、私のコスプレいかがですか?」
「可愛いです!」
「当然ですわ」
ドヤ顔。ムカつくくらいのドヤ顔だ。委員長はきっと、小さい頃から可愛い可愛いと言われ慣れているから、きっとこのようなドヤ顔ができるのに違いない。
「そんなことより、仕事はいつやるんだよ」
「そうでしたわ。もうすぐ全員そろうはずですので、もうしばらくお待ちくださいな」
委員長の言葉通り、時間までには全員そろった。それぞれが違ったコスプレをしている。例えば、海賊とか中二病とか、何でもありだ。個性的にもほどがある。
ついに開店時間だ。多くの客が入ってくる。委員長のアナウンスも始まった。
「こんにちは、図書委員会のコスプレ喫茶にようこそですわ。お好きな席にどうぞ」
次々と客が席に着き、注文をし始める。俺も仕事に取り掛かる。普段は愛想の「あ」もない男だが、やる時はやる。
「ご注文をどうぞ」
「店員さんのコスプレカッコいいー! 写真撮っていい?」
早く注文しろ。見世物じゃないんだぞ? って、見世物みたいなものか……。
「どうぞ……。SNSとかにはあげないでくださいね……」
「もちろん!」
本当か? 心配だが、客はパシャパシャと写真を撮った。
めんどくせえ。その感情が顔に出ないように気をつけないと。
「それじゃあ、パンケーキ一つ」
「かしこまりました」
中に戻って注文を伝える。厨房で料理を作るのは委員長でも月宮でもなく、知らない人たちばかりだ。
「パンケーキ一つ」
「はい〜」
こんな感じで一つ一つ注文をこなしていく。ふと、月宮の方を見る。二人組の女子生徒の接客をしていた。服装から他校の生徒だと分かった。
「魔法少女のコスプレ可愛いですね!」
「いや〜」
月宮は予想通り客に大人気だ。月宮もすごいな……。コミュ力が違う。
「何かセリフ言ってみてください!」
客もそんな無茶振りするなと思うが、それにもしっかり応える。
「光の戦士! 変身! セイント☆ブラック!」
客は「おぉー!」と盛り上がる。月宮、楽しそうでなによりです……。には接客を楽しむというのが理解できない。俺のような人付き合いが嫌いなやつには難しい話だ。
「えへへ……」
月宮は客のウケがいいからなのか、笑顔を浮かべていた。しっかり注文を取り、厨房に戻る。
「日野くん! 私接客できたよ!」
「そうだな。良かったな」
「うん!」
月宮はコミュ力はあっても、ドジなところがあるから少し心配だった。まあ、それほどミスる要素も多くはないが。
☆
「日野さん、月宮さん。もう上がっていいですわよ。お仕事お疲れ様でしたわ」
「ありがとうございます!」
月宮は元気よく返事し、俺たちは図書室を後にした。
「ねえ、日野くん! 一緒に回ろうよ!」
「はあ……しょうがねえなあ……」
「わーい!」
いつにも増して嬉しそうに答えた途端、月宮は俺の腕に飛びついてきた。そして、腕組みの状態となる。
「ちょ……おま……」
「えへへー。こうしてるとなんだか彼女みたいだねー!」
「彼女じゃないだろ……」
前を見ると、俺たちの前を通りかかった人たちも月宮と同じように腕を組んでいた。その姿と同一視してしまう。
「日野くんに彼女ができたらいいのにね」
「できなくていいし……」
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