第14話 パシられる俺、指示するお前

 文化祭の準備は図書委員会だけではない。むしろ自分のクラスの方がメインだろう。発案者ということもあり、月宮は常に忙しそうである。次から次へと指示を出す姿は意外だった。月宮はバカだからあたふたするのかと。


「光ちゃん、ここはどうするの?」

「そこはねー……」


 女子二人は仲良く作業を進めている。俺は一人でもできる単純作業に徹していたのだが……。


「サイコロってどこに売ってるの?」

「さあ……。買い出しも行かないといけないね……」

「じゃあ、私が日野くんを連れていくわ」


 土屋が余計なことを言った。また面倒ごとが増えた。こいつらといると仕事が増える。


「私が行くよ!」


 負けじと月宮が申し出る。すると、土屋はニヤッと笑って月宮を見た。


「それは悪いわー。忙しいでしょ?」


 こいつ、なんか企んでるな。無駄にニコニコしやがって……。


「いいの! 私が日野くんと行きたいんだから!」


 ドヤ顔で俺の方を見る月宮だが、正直それどころではない。周りからは殺意のような視線が向けられている気がする。嫉妬か? 女子生徒二人が俺をめぐって取り合いをしているのが羨ましいのか? 残念だが、他のやつらが思うほどいいことではない。


「光ちゃんはここに残ってもらわないと作業続かないよ」


 他の女子生徒が間に入ったことで、この論争は決着がついた。土屋が付いてくることが確定した。


「日野くーん! 必ず生きて帰ってねー!」


 俺が戦争に出るかのようにおおげさな月宮。目立つからやめて。


「日野くん、じゃあ行くわよ」


 俺は土屋に連れられ、買い出しに行くことになった。まずは職員室で桜木先生に報告しないとな。俺たちは職員室にスタスタと歩いて向かう。


「買い出しに行くんですね。それなら、私が車を出しますよ」


 先生が車のキーを指で回しながら言う。


「あ、ありがとうございます」


 これが文明だ。自動車を発明した人は天才に違いない。俺は空に向かって祈りを捧げた。


 ☆


「じゃあ行きましょー!」


 テンションが高い土屋である。さながら遠足のようだ。玄関を出て駐車場に向かう。先生の車は軽自動車で色は黄色だった。


「どうですか? 私の車は?」


 褒めろということか? うーん。黄色が可愛くていいと思う……とかか?


「いいんじゃないですか?」


 それしか思いつかないので、そう言うしかない。いやだって、そんなに褒めるところもないだろ。


「それでは出発します。シートベルトを閉めてくださいね」


 先生は運転席に着き、俺と土屋は後部座席に並んで座った。


「行きましょー!」


 土屋の声で車が出発する。いつから隊長になった。


「光ちゃんからメッセージだわ。サイコロとかは百均にあるって」


 土屋のスマホを覗き込む。百均ってすげえな。なんでもある。今日は本当に文明に感謝する日だ。


「百均ですね。ここからなら恵比寿店えびすてんが近いですから、そこに向かいます」


 恵比寿店は俺もよく行く百均だ。あそこは本当に品揃えがいいので、いつもお世話になっている。関係ないが、創業者の顔が恵比寿に似ているのが名前の由来らしい。


 ☆


 車の中でも土屋は元気なやつだ。それでも土屋、金田には敵わないが。俺にずっと話しかけてくる。喉乾かないのか?


「日野くん、最近光ちゃんとうまくいってるみたいね」

「まあな」


 うまくいっているのは否定しない。しかし、仲良くなればなるほど面倒ごとも増える。一緒にコスプレしたことさえあるし……。


「でも、私のおかげもあると思うわ。私が色々協力したんだから!」


 ドヤ顔でその大きな胸を張る土屋。


「お前、何したんだよ。スパイ活動か?」

「人聞き悪いわね。私はただ光ちゃんから相談を受けただけ。日野くんと仲良くなるにはどうしたらいいかってね」

「余計なことを……」

「男の子の心を掴むにはどうしたらいいかって話でね、日野くんはきっと押しに弱いと思ったのよ」


 それは違う。俺はそんな単純な人間ではない。相手が美少女だとしても、親しくならないと決めているのだ。


「ふん、バカめ。俺はそんな手にはかからない」

「そうね。ありのままの光ちゃんが好きなのね」


 土屋はいたずらっぽく笑った。うぜぇ……。


「日野くんの昔のことも知りたいわ。中学校まではどんな感じだったの?」

「……」


 昔のことなんて思い出したくもない。俺は今でこそこんな奴だが、小学生の頃は純粋だったさ。だが、俺が人を憎むようになったのは……。


「私、日野くんのこと全然知らないのよね。話せる範囲でいいから、少しでいいから知りたいな」


 土屋は優しく微笑む。……そんな顔されると困るだろ。俺の過去を聞いたら絶対引くくせにさ。でも、こいつが一生懸命になって俺のことを知りたがってくれるのに悪い気はしないな。


「……俺だってさ、小学生までは純粋だったんだよ」

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