第13話 聞かざる俺、着飾るお前

 文化祭の準備が始まった。今日は図書委員会の方に行ってみる。今日は図書室ではなく空き教室の方で開催となっているが、本番までなら好きなタイミングで来てよいとされているので、きっと俺たちしかいない。空き教室を利用してコスプレの試着をすることになっているのだ。


「楽しみだね〜」


 月宮はかなり嬉しそうだ。割とコスプレとかは好きそう。ルンルンした感じで歩いている。


「早く行こうよ!」


 俺の手を引いてどんどん進む。周りからは笑い声が聞こえる。


「あの子たち、仲良しねー」

「可愛いー」


 目立ってる……。俺は我慢ならなくなり、月宮に問い詰めた。


「お前のせいで目立ってるじゃねえか」

「えー、ダメなの?」

「ダメに決まってるだろ」

「私はこのままがいいけど?」

「……勝手にしろ」


 ☆


 俺たちは空き教室に着いた。普段は荷物を置くためだけの部屋らしい。中に入ると、一人の女子が席に座って待っていた。青みがかった色の髪は、ゆらゆらと美しく、暗い教室の中でよく映える。


「あなたたち、今日はよく来ましたわね」


 うわ……、お嬢様な喋り方。こういうの苦手かも。


「今日はコスプレの試着をするらしいですわ。楽しみですわね」


 お嬢様は青色の髪をクルクルと触りながら言う。月宮は少し引き気味に尋ねた。


「あの、あなたは……」

「私は水野萌みずのもえですわ。図書委員会の委員長ですの」


 委員長ということは、多分最初の時に自己紹介したはずだが、俺は他人に興味ないし、月宮の記憶力も怪しい。覚えていなかった。


「それなのに……、委員長という立場にありながら覚えられていないとはどういうことですの?」


 声は落ち着いているが、怒っていることに間違いない。容姿のいい人ほど怒ると怖いな。


「委員長さん! ごめんなさい!」


 月宮が光の速さで謝罪した。こういうところにコミュ力の高さが表れている。


「ふっふっふ。分かればいいのですわ」


 ダメだこれ。典型的な高飛車人間だ。こんなのが委員長だったのか……。


「それより、本題ですわ。今からコスプレの衣装を着てもらいますわよ。まずはそこのいかにも捻くれてそうな男から」


 委員長は俺を指さした。誰が捻くれ男だ。俺は委員長に渡された衣装を持った。緑のシルクハット、スーツ、モノクル、弓矢。これは今大人気のラノベに登場する敵キャラの衣装! アニメ化もされているやつだ! 俺は内心ではテンションを爆上げしながら、月宮にそれを悟られないように、ここから隣にある更衣室に向かう。


 ☆


「どうだ?」

「わーっ! すっごくカッコいい! 本物の悪人だー!」

「誰が悪人だ」


 月宮の額にデコピンが炸裂。


「イッター!」


 額を抑えながら痛がる。それもすぐに引いたようで、改めて俺に向き直る。


「なんというか、様になってるよ。カッコいい」

「……」


 素直に褒められると照れる。いや、なんで照れてるんだよ。月宮なんかに照れるなんておかしい。


「あのー、お二人とも仲良しですわね」


 俺と月宮の間に入るのが気まずそうにしながら委員長が声をかける。


「「いや、これのどこが……」」


 月宮と重なってしまった。こういうところで気が合うのは恥ずかしい。


「お二人ってとても相性が良いですわね……。若いですわ〜」


 いや、委員長は何歳だよ。俺たちより一つ歳上なだけだろ。


「お二人の仲を確かめたところで、まずはポーズを取ってみてほしいですわ」


 困ったな。俺そんなことできないぞ。よく分からないが、弓矢を構えてみたりする。これ、恥ずかしいな。


「いいよ日野くん! ちゃんと悪そう!」

「それ褒めてるのか?」

「褒めてるよー!」


 月宮は満足したようだ。委員長も軽く手を叩いているから、満足しているとみなしてよさそうだ。


「では、次の衣装を可愛らしいお嬢さんに着てもらいますわ」


 委員長は月宮を指さした。俺は「いかにも捻くれてそうな男」だったのに、月宮は「可愛らしいお嬢さん」なのか。格差がひどい。法の下の平等は果たされていない。


 ☆


「じゃーん! 見て見て! 可愛い?」


 月宮の衣装は魔法少女、セイントブラック。知る人ぞ知るラノベの主人公だ。黒を基調としたデザインで、伊達メガネもかけている。ステッキまで用意されていて、学校にこんなものがあるということに驚いた。可愛らしさとカッコよさの融合だ。


「とても可愛らしいですわ!」

「でしょー! 日野くんはどう思う?」

「悪くないな」

「……なんか、日野くん反応悪いなー。ちょっと照れるくらい言ってよね!」


 俺は照れるほど可愛いとは思っていない。いやだって、カッコいいといえばそうかもしれないが、地味なのだから。魔法少女といえば普通、ピンクとかだと思うが、黒は珍しい。


「衣装を着てみてどうでしたか?」


 委員長は俺たちに感想を聞く。


「可愛いです! 楽しい!」

「これで接客とかするんですか? 信じられません」


 俺は不服で仕方ない。本当に接客とかするのか? このコスプレで?


「では、今度は接客の練習もしますので、いらっしゃってくださいね」


 委員長が笑顔を見せる。それはそれは、心からの笑顔であり、俺にとっては恐怖の笑顔でもある。窓から夕陽が差し込み、月宮の髪を照らした。


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ゲスト出演


『陰キャの私でも魔法少女になれますか?』(拙著)

セイントブラック


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