第11話 止める俺、暴走するお前
HR。新学期最初ということもあって、桜木先生の長い長い話が続く。夏休み気分で気が緩んでないかとか、勉強にも手をつけろとか、よくあるやつだ。
「それと、今日は委員会の集まりがあるので、放課後は指定の場所に集まってください」
委員会の集まり? めんどくさい。どうせまた変な役割を与えられるんだろうなあ。
「これでHRを終わります」
桜木先生の話が終わる。先生が教室を出ると、皆は散り散りになる。月宮は俺のもとに一直線に向かってきた。
「放課後も一緒だね!」
「はあ……」
☆
放課後、俺たちは図書室に向かう。委員会でないにもかかわらず、土屋が先に来て本を読んでいた。いかにも土屋が好きそうな、表紙から明らかに恋愛ものと分かる本だった。
「あっ、日野くん。久しぶりね」
「本当に久しぶりだな。ところで、委員会でもないのになんでここにいるんだよ」
「本はいつでも読みたくなるものよ!」
そういうものだそうです。はい。土屋が本にかける情熱は太陽より熱いに違いない。
「優子ちゃん、今から図書委員会の集まりがあるからまた後でね」
「あら、ごめんなさい。また後でね」
土屋はそそくさと図書室から出ていった。それとすれ違う形で桜木先生が入る。なんだか嬉しそうに見えるが……。
「ではみなさん、図書委員会を始めます。さて、みなさんには集まってもらった理由を話しましょう」
桜木先生はゆっくりと座る。そして自信満々に話し始める。
「二学期の主な活動は文化祭と体育祭のお手伝いです。一日二、三時間程度働くことになります。また、図書委員会は例年、文化祭でコスプレ喫茶をやっています」
周りのみんながざわついた。聞き間違いでないことを願ったのだが、そう都合よくはいかなかったようだ。俺はその疑問をすぐにぶつける。
「あの、コスプレと図書委員会に何の関係が……」
「小説には様々なキャラクターが登場します。そのコスプレをするということです」
なるほど、分からん。何より分からないのが、学校に認められているということである。コスプレと図書委員会……、本当に何の関係もない。桜木先生曰く、伝統らしいのだが、納得できない。
「今から去年の写真を回します。見ておいてください」
配られた写真には様々なキャラクターが映っていた。これのコスプレ? 無理無理。中には魔法少女のコスプレまである。これを着せられる女子は可哀想だ。
「日野くん日野くん、楽しみだね」
「はあ?」
「きっと可愛いよ。私が着ることになったら、日野くんは私に釘付け……」
月宮はこういうイベント好きそうだよなー。女子は割とこういうコスプレが好きだから、盛り上がるのかもしれない。
「そして日野くんは私がそんな格好をしているのを見て……」
「暴走するな」
俺は月宮の額にデコピンをする。
「イッター!」
月宮が叫ぶと、桜木先生が無視するはずもない。すぐさま注意する。
「月宮さん、静かに」
「は……はい」
ざまあみろ。俺を侮辱した罰だ。
「日野くんのせいで怒られたじゃん!」
「お前が悪い」
文化祭。それは高校生の楽しみの一つ。俺にとって楽しいものになるかどうかはまだ分からない。
☆
委員会が終わり、図書室を出て月宮と話していた。月宮の興奮はまだ冷めない。顔からワクワク感が溢れている。
「クラスの出し物も楽しみだね!」
「ああ、何するんだろうな」
「私ね、クラスの出し物ではお化け屋敷やりたいんだよねー。うらめしやー」
月宮はお化けっぽいゆらゆらした動きをしながら驚かせようとする。だが、ただのバカにしか見えない。月宮の動きに反応したのか、外では風が吹いていた。
「お化け屋敷かー。俺、お化けとか全然怖くねーし」
「強がっちゃって〜。可愛いね〜」
「はあ?」
やっぱこいつ嫌い。ウザい。だけど……、これにも慣れてきたなあ。俺たちは夕焼けの中を歩き、いつもの分かれ道で月宮と別の道に進む。しばらく一人で歩いていたところ、金髪の男が待ち伏せしていたかのように現れた。
「よう、日野。答えは決めたか?」
「金田か……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます