第9話 出かける俺、多分出かけてるお前
夏休み。夏休みと言えば、海? 夏祭り? いやいや、一人でゴロゴロするのに限る。今日も自室にこもって一人で遊ぶぞ。
「よーし、夏休み満喫するぞー!」
……という生活を昨日まで送ってきたが、今日はそうもいかない。今日は大学のオープンキャンパスがある日。久しぶりの外出だ。
ドアを開けると、ギラギラと眩しい太陽、うるさいセミの鳴き声といういかにも夏という感じである。空は雲一つない晴天で、暑さをさらに増している。
夏は嫌いだ。暑いし、リア充が活性化するから。ちなみに、冬も嫌いだ。寒いし、リア充が活性化するから。
大学はここから電車で一時間ほど。結構遠い。電車に揺られながらスマホをいじる。
「さーて、そろそろ大学に……」
時間を確認するためにスマホを見ると、月宮からメッセージが来ていた。トーク画面を開くと、こう書いてあった。
『夏休みは何して過ごしてるの?』
俺はすぐに返信する。
『ゴロゴロ』
『つまんないの』
人の夏休みの過ごし方くらい、どうでもいいだろ。どうして陽キャというものはこんなに踏み込みたがるのか。全く、理解に苦しむ。まさか、オープンキャンパスまで一緒だなんてありえないよな……? 悪い妄想をしながら時間が過ぎる。
「あれ、日野じゃん」
俺のことを知る人間は数少ない。月宮か土屋くらいだと思ったが、話しかけてきたのは男の声だった。
「俺だよ」
「誰……?」
「俺だよ」
「いや、本当に誰?」
知らない男だ。金髪でチャラい見た目だが、喋り方は穏やかなやつだ。完全に夏服で、半袖半ズボンを着ている。向こうは俺のことを知っているようだ。
「
「ああ、あのカラオケの」
「そう! やっと思い出したか!」
入学式の時に俺をカラオケに誘ってきた男だった。思い出した。しかし、こんなパリピと気が合うはずもない。俺はスマホに目を落とす。
「今からどこ行くんだ?」
「大学のオープンキャンパス」
「どれどれ」
金田は俺が持っていたパンフレットを半ば強制的に見た。強引なのは嫌いだ。
「おっ、俺も今からここ行こうとしてたんだよ」
「はあ……」
月宮のような陽キャ女子も苦手だが、金田のようなパリピ男子も苦手だ。グイグイ来るのがどうしても合わない。
「なんで嫌がるんだよー」
「一人で行きてえんだよ」
「そんなこと言うなよー。一緒に行こうぜー」
そう言って俺に迫る。はあ……。パリピは性別に関係なく厚かましいようである。遠くの景色は、太陽に照らされ輝いている。まるで金田の瞳の輝きのように……。
☆
「つ……疲れた……」
俺って乗り物酔いする人だったっけ? 電車に乗っている間、金田とずっと話していたらとてつもない疲労に襲われた。オープンキャンパスは今からだぞ?
「大学は駅から徒歩五分って書いてあるな」
いつも思うのだが、徒歩五分とかいうのは誰が決めるのだろう? よく分からない基準だ。あと、東京ドーム何個分とかいうのも分からない。
俺たちは市街を歩いていく。俺たちの他にも、オープンキャンパスの参加者であろう人が何人もいる。しばらく歩くと、大学の建物が見えてきた。
「うおー! でけー!」
金田は大はしゃぎだ。大学のキャンパスは非常に大きく、迫力を感じさせるものだった。中央の時計塔のようなものは歴史を感じさせる建築だ。ここで学ぶことを考えると心が躍る。
「大学の説明を聞いた後は別行動な」
「えー! 日野! 頼む! 着いていっていいか!?」
陽キャは一人になるのを異常に嫌う。仲間に入らないのが怖いのか、周りと合わせて行動するのが安心するのか、理由は俺には分からない。きっと、俺が分かるようなことではないのだろう。
「はあ……仕方ねえな……」
☆
「本学は学生の自主性を重視しており……」
長ったらしい説明が終わった。この大学は自由な校風を売りにしているらしいが、コスプレをした学生がいるのには本当に驚いた。自由すぎるだろ……。
「んっー! やっと終わったー!」
金田は背伸びした。ずっと座ってると疲れるよな。
「じゃあ、一緒にいろいろ見に行こうぜ」
「ダメだ」
「なんでだよー!」
「お前といると疲れる」
そう言って一人で歩き始める。月宮でさえ疲れるのに、金田と一緒なんて生きられない。電車の時の苦労を思い出す。
「いろいろ見た方がいいぜ? まだ学部決めてないんだろ?」
「まあ、そうだが」
「日野が何やりたいか知らないけど、いろいろ調べてみたら?」
そう言って金田は俺の後をついてくる。俺は仕方ないと思い、構内を見て回る。すれ違う学生は皆、変なコスプレをしていたり、訳の分からない道具を持っていたりする。それを見た金田は思わず苦笑いしながらも、こう言った。
「ここの大学、面白い雰囲気だな。自由の象徴って感じだよな、日野?」
俺のような孤高の者にとって、独特な雰囲気は馴染みやすいが、パリピの金田にとっても魅力的なようだ。
「そうだな」
「楽しみになってきたぜ! 俺、ここの大学目指すわ」
「……俺もここにしようかな」
「おっ! 一緒に勉強するか?」
「……検討しておこう」
この大学に入るためには多くの苦労が伴うと理解しているが、それでも行きたいと思った。大学の全てが魅力的に見えてきた。それは金田のおかげか、何なのかは分からない。
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