第4話 変わらない俺、変えようとするお前

「月宮、俺なんかと一緒にいたら友達できないぞ。俺が言うのもおかしいけど」

「大丈夫! 中学の頃の友達がいるから!」

「誰だ?」

「土屋優子ちゃんだよ!」


 ああ、あの女子生徒か。月宮と友達とは知らなかった。静かでおっとりした印象のやつだ。


「そうだ! 明日、優子ちゃんに本のこと尋ねてみない?」

「そうだな。悪くない」

「でしょ!? じゃあ、明日の朝イチでね!」

「ああ」


 そんな話をしていると、すぐに月宮の家についた。俺は月宮と別れて自宅へと戻る。今日はいつもより疲れた。早く寝たいものだな……。


 ☆


 翌日、月宮と共に教室に入り、土屋が来るのを待つ。するとすぐに土屋は来た。


「おはよう! 優子ちゃん!」

「おはよ〜、光ちゃん」


 元々か、朝だからかは分からないが、眠そうな顔をしている。こいつが土屋優子だ。


「優子ちゃん、最近読んでる本教えて!」

「そうねぇ……。最近読んでるのはこれかしら?」


 土屋は鞄から一冊の本を取り出す。『恋する少女の囁き』 。恋愛小説か。最近のJKはどいつもこいつも恋愛小説ばかりが好きなようである。


「これは本当に面白いのよ! 主人公の女の子と男の子の恋愛がすごく良くてね!」


 土屋は目を輝かせて本を勧めてくる。


「お前も恋愛小説読むんだな」

「ええ、もちろんよ! 日野くんも読む?」

「私が先に読むの!」


 月宮が割り込んできた。割り込みは常識的にも、法律的にもアウトであることを知らないようだ。


「仕方ないな」


 月宮に順番を譲らなければどうなるか分からない。ワーワーうるさくなるに違いない。


「わー! 表紙の女の子可愛いー!」


 月宮は土屋から本を受け取り、パラパラとページをめくる。


「今から集中して読むから、日野くんと優子ちゃんは一緒にお話ししててね」

「了解」


 土屋は敬礼っぽいことをして俺に向き直る。


「言っとくけど、土屋とも仲良くなるつもりはないからな?」

「ふふ、日野くんって噂通り変な人なのね」


 土屋は笑いながらそう言った。本当に変な人に出会ってしまったという顔だ。しかし、その笑顔はどこか安心しているようにも見えた。


「ねえ、日野くんって光ちゃんとどういう関係なの?」

「月宮は俺のストーカーだ」

「光ちゃんはただ、あなたと仲良くしたいだけなのよ? お付き合いしたいとかは一言も言ってないわ」

「友達がいらねえんだよ」

「本当に不器用な人ね」


 土屋はそういうと、勝手に質問コーナーを続ける。


「どうしてお友達がいらないの?」

「一人の方が気楽だからだ」

「それでも、誰かと一緒にいる方が楽しいこともあるわ」

「ねーよ。そんなの幻想だ」

「一人は寂しいわよ?」


 土屋は少し悲しそうに言う。彼女の経験からの言葉だろうか? ぼっち経験でもあるのか?


「寂しいだと? そんなのは、一人じゃ何もできないやつだけが抱く感情だ。一人で何でもできる俺は、仲間などいらない」

「ふふっ、カッコつけちゃって」


 土屋は俺に笑いかける。俺にここまで言われて引き下がらないやつは初めてだ。いや、月宮も同じだろうか。


「よし、決めた! 私も日野くんのお友達候補になっちゃうわ!」

「またバカが一人増えたか……」

「私がバカかどうかは、あなた次第よ」

「ふん……」


 そんなところで、チャイムが鳴った。


「あー! 読みきれなかったー!」


 月宮が大声で叫ぶ。そこそこ長い小説を、朝の数十分で読むのは無理がある。


「優子ちゃん、これ借りていい?」

「いいわよ。読み終わったら感想聞かせてね」

「うん! それじゃ、また後でね!」


 月宮と土屋は席に戻る。なんか厄介なやつに懐かれてしまった気がする……。


 ☆


 放課後、月宮は真っ先に土屋に話しかける。


「優子ちゃん! これ本当に面白かったよ!」

「でしょー! やっぱり光ちゃんも分かってくれるかしら!」

「次は日野くんに渡さないとね」

「そうね」


 二人は笑い合う。一人、冷めた目で見ているやつがいる。俺だ。


「帰るぞ」


 俺はさっさと教室を出ていこうとするが……。


「日野くん、この本渡しておくわね」

「ああ」


 家に帰ったらこれを読むという仕事が待ち受けている。読み終わったら感想を言わなければならない。めんどくせえ……。


「帰るわよ! 日野くん!」

「……ああ」

「わーい! 優子ちゃんも一緒だー!」


 月宮に加え、土屋という面倒なやつが増えてしまった。俺の平穏な高校生活は、遥か彼方へと消えていってしまった……。

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