第3話 嘲る俺、妄想するお前

 なぜ、委員会のときまでこいつと一緒なんだ。俺の隣をウキウキした様子で歩く月宮。今日の委員会はただでさえめんどくさいのに、こいつのせいでさらにめんどい。


「日野くんと一緒なんて、最高だね!」

「ああ、最低だ」

「本当は嬉しいくせに」


 月宮はそう言って、俺の背中を叩く。俺はこのウザい女との会話をやめ、机に座る。すぐに時間は過ぎ、委員会が始まる時間となった。


「ねえ、日野くん」

「なんだ?」

「図書委員会って何をするの?」

「それを今から聞くんだろうが」

「てへっ、うっかりしてた」


 舌をペロッと出して笑う。ウザい。


「では、まず最初に自己紹介をしましょう」


 桜木先生の号令で委員会が始まる。というか、図書委員会も担任かよ。委員会は男女一人ずつ……。自己紹介が始まり、月宮の番が来た。


「はじめまして! 一年三組月宮光です! よろしくお願いします!」


 なんて元気のいいやつだ。ここまで元気なやつを俺は見たことがない。月宮はそのあとも笑顔で自己紹介を続けていく。


「最後に、私は日野くんと同じクラスです! 彼は少し怖い印象を持っているかもしれませんが、本当は面白い人なので、皆さんと友達になれると思います!」

「おい」


 俺は小声で話しかける。月宮はこっちを向いてニコニコしている。そして、親指を立てる。「やってやったぜ」みたいな顔するな。


「次は日野くんの番だよ」


 最悪だ。こいつのせいでハードルが無駄に上がった。


「日野冬馬。よろしくお願いします」


 当たり障りのない挨拶。悪くないだろう? だいたい、委員会の集まりで多くを語る必要はない。しかし、俺が着席すると、月宮はすぐに小声で話しかけてきた。


「つまんないね」

「うるさい」

「もっと面白いこと言ってよ!」

「やらないとダメなのか?」


 俺はため息をつく。こいつと話していると疲れる。


「それでは、自己紹介も終わりましたので、図書委員会の活動内容について説明します」


 楽そうだからと思って図書委員会を選んだが、本当に楽かどうかはここで分かる。まあ、他の委員会に比べて面倒なことはしないだろう。


「図書委員会の仕事は、月一回の集会と……」


 これはどこの委員会もほとんど同じだろう。


「それと、六月にはそれぞれのクラスで本の紹介をしてもらいます」


 え? それは面倒だな。月宮も同じことを考えたようで、困った顔をしている。本の紹介なんて一度もしたことがないぞ……。


「各クラスで紹介したい本を決めておいてくださいね。今日はここまでです」


 桜木先生はそういうと、職員室に戻っていった。


「日野くん、どうしよう?」

「知らん」

「日野くんはどんな本が好きなの?」


 ライトノベル……なんて口が裂けても言えない。絶対バカにされる。


「お前はどんな本を読むんだ?」

「先に日野くんが言って!」

「俺は……ファンタジー小説」


 ごまかせただろうか? ラノベはファンタジー。間違いないだろう。


「へー、私は恋愛小説かな」

「意外だな」


 もっと激しいバトルとかやってるやつが好きなのかと思った。バカそうだから。


「白馬の王子様に憧れちゃうんだよね〜。キャー!」

「バカなこと言うな」

「バカじゃないもん!」

「もういい」


 これ以上、こいつの相手はしていられない。白馬の王子様に憧れるだと? そういうのは小学校で卒業しろ。


「日野くんの理想の恋愛は?」

「え?」


 予想外の質問に戸惑う。だが、俺は恋愛なんてしない。だから、理想なんてものは……。


「そうだな……。少なくともお前ではない」

「別にいいよ。今はまだ気持ちが私に向いてないだけでしょ? これから仲良くしていったら、変わるかもしれないね」

「変わらないさ」

「私、諦めないから!」


 月宮はそう言って俺を睨む。本当にウザい女だ。だが、今日はここまでにしておこう。


「おい、もう帰るぞ」

「私と一緒に帰ってくれるの!?」

「違う」

 

 そうは言いながらも、帰り道が同じだから一緒に帰るのが常なのだ。めんどくさい。

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