嘲る革
はてさて。これはどないしよ。
馬頭は誰も居ない劇場で頭を搔く。もちろん、鼻を突くゴムの匂いがする被り物の頭だ。
「あの男、ほんまに死ぬ価値のある男やったんやろな」
死ぬ人間、というのには2種類ある。長年この仕事をこなしてきた中で垣間見た人間のあるべき姿──否。"為す術なき姿"。
一つ目には、自分の傲慢さを貫こうとした者。自身の欲のみならず、他者の願いや幸せを奪ったりして生きてきた人間。そういった奴らは問答無用で地獄に行く。
二つ目は、己の愚かさを改めようと出来なかった者。……つまるところ、自身の弱さを誰かに肯定してもらおうとした者。弱肉強食という生の世界において、命乞いほど醜い行為はない。生きることを諦めた者は、問答無用で死に至る。
山口光太。あいつは、見たところ後者の匂いがした。弱く、いじらしく、文字通りに生きる価値のない人間。
私の"
「あいつ、ひょっとすると、ひょっとするんちゃうか」
劇場のスクリーンが、ぱっと明るくなった。品のない定点カメラが、光太を頭上から見下ろすような形でスクリーンへ映す。さてさて。これから、こいつはどないすんねやろ。
あの男は、本気で過去に向き合おうとしている。それが、異様におかしく、むず痒い。
これまで、
この男──山口光太はどうする。
二度目の再映。これまでに類を見ない。私の中の、狂った人間の姿を見たいという心持ちが、何やら形容しがたい感情に変わり始めているのがわかる。
希望に縋ろうとするこの男が、私の全てを否定しようとしている。そんな気がするのだ。
あの男なら。
淡い期待が起こっていた。
「だから、人間は嫌いだ」
希望に満ちたその顔が、私たちにはできない。許されない。
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