第28話

 朝食は重苦しい空気のまま終わり、サフィラスはいよいよ話を切り出す。


「さて、リベラ。キミに伝えたいことがある。聞いてもらえるかな」

「……うん」


 リベラが自身の袖を握ると、隣に座るロアが徐にその上へ手を重ねる。


「リベラちゃん。アタシも一緒に聞くから大丈夫よ」


 その光景を暫し見つめた後、サフィラスは言葉を紡ぐ。


「……唐突で申し訳ないけれど、リベラとは此処で離別したい」

「どうして?」

「簡単な話さ。私は、幼子のキミにはそぐわない。 ……短期間で何度、キミに精神的な苦痛を与えてしまったことか。それも全て、私が余りにヒトを忌避するが故の結果だ。 ――よって私は、ロアとひとつの誓約を交わした。“リベラの意思を確かめ、返答次第では、今後の保護は一切彼が担う”という旨で」


 俯き肩を震わせるリベラに、サフィラスは淡々と問い掛ける。


「だから、教えて欲しい。此処に残るか否か、その本心を」

「……サフィラスのばか!」

「え――」

「洞窟にいた時に言ってくれた言葉は、嘘だったの?」


 目を丸くするサフィラスに、リベラは頬を膨らませて言葉をぶつける。


「私、今までに“いや”とか“つらい”とか、言ったことある?」

「それは……」

「一回でも、サフィラスのせいにしたことある?」

「……いや、無いね」

「うん。どっちも無いの」


 するとリベラは、凛とした表情でサフィラスと向き合う。


「……あのね。私、サフィラスと会うまでは、ずっとお家で一人ぼっちで。でもどこにも行けなくて、毎日同じことをして過ごしてたの。森をお散歩することすら、本当は許されてなくって。それでも私は“いつかきっと、絵本のお話みたいに何かが起きるんだ”って信じて、内緒でお出かけしてたの」

「……」

「そしてあの日、サフィラスと会って。今はこんな風に――色んな人とお話しして、ネーヴェと一緒に美味しいものを食べたり、綺麗な景色を沢山見てる。サフィラスには上手く伝わってないかもしれないけど、今の私は“明日はどんな思い出が作れるかな”って思うくらい、毎日がすごく楽しいんだよ。怖い人と会った時もあったけど、それに負けないくらい、サフィラスから素敵なものを沢山貰ってるんだよ」

「リベラ……」

「だから、置いていかないで……」


 消え入りそうな、悲痛な叫び。サフィラスは立ち上がると、リベラの足下でひざまずく。


「……すまない。私の行いは、かえってキミを傷付けていたようだ。よって、先の発言は撤回する。リベラが望むのであれば、私は責任を持って、共に旅を続けよう」

「……本当に?」

「勿論。二言は無いよ、もう二度と」


 するとリベラは小指を立たせ、サフィラスの手に触れる。


「リベラ、これは一体?」

「約束の時にする、おまじない。これをするとね、約束が絶対に叶うんだって」

「成程。 ……こう、だろうか」

「うん!」


 サフィラスも小指を伸ばすと、リベラは指を絡める。そしてそのまま軽く上下に揺らされ解かれると、サフィラスは彼女の隣に腰を落とした。すると今度はロアが立ち上がり、二人の前に立つ。


「うんうん、仲直り出来て良かった。 ……よし、決めた! アタシも一緒について行くわ!」

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