第29話

「ロアも来てくれるの?」


 喜ぶリベラの一方で、サフィラスは神妙な面持ちで尋ねる。


「けれどキミは、ここに多くのモノを抱えているのでは?」

「ええ、でも心配無用よ。家もお客さんも全部、いつ発っても良いように準備してあるから。 ……それに、少し気になることがあって。ここに残りたい気分じゃないの」

「そうか、昨日の――」

「まあまあ、その話は後にしましょ。それよりリベラちゃん。今日はどこで遊びたいかしら?」


 怪訝そうなサフィラスをかわし、ロアはテーブルに地図を広げる。リベラは前のめりになり目を走らせると、やがて頭を傾けた。


「うーん……ロアはどこが好き?」

「そうねぇ。アタシとしては、ここがオススメよ。色んな動物と触れ合えるエリアなんだけど、リベラちゃんはアレルギーとか無いかしら?」

「うん、大丈夫!」

「決まりね! 急いで準備してくるわ!」


 颯爽と隣の部屋に消えるロアの背を見送ると、サフィラスは眉を下げて微笑む。


「想定外だよ。まさか、彼も同行を願い出るとはね」

「サフィラスは嫌?」

「どちらとも。とはいえ、彼が居れば今後も事行く可能性が高い。何よりリベラが望むのであれば、断る理由も無いよ」


◇◇◇


 リュックを背負うロアに案内されたのは、端が見えぬ程に広大な草原だった。青々とした草の上では、健脚をもつ2mは有ろう大型の鳥や、草を喰む長毛の牛達が悠々自適としており、人々は同じ空間の中、一定の距離を保ちながら観察している。ロアは周囲を見渡すと、腕に巻かれた機械を覗く。


「あら? この時間にしては結構混んでるわね」

「いつもはもっと空いてるの?」

「ええ、けど心配しないで。目的の触れ合い広場には確実に入れるよう、予約はしてあるから」

「うん!」


 談笑をする二人の姿を、サフィラスは黙々とついて行く。


『……日を追う毎に、当初の目的から遠ざかっている。私は、ヒトと馴れ合う為に郷から下りた訳ではないというのに。何故彼らは頑なに、私から離れようとしないのだろう』



 すると遠くの方から、ザワザワと物騒な会話が耳に飛び込んできた。


「何これ? “幼女連続誘拐魔が逃走中、警戒されたし”……だって。あんた知ってる?」

「ああ、例の変態野郎の件だろ? “救助に駆け付けた二人の警察官を容赦無く殺した”って、朝のトップニュースになってたぞ。随分とエグいことするよなあ」

「うわあ、色々とヤバすぎ……絶対、犯人ロクな人生送ってきてないって」

「だな。しかも、無差別ってのがまたタチが悪い。俺んとこの子は、犯人が捕まるまで家から出さないことにしてるが……それもいつまで我慢してくれるか」

「んー。“情報提供者には報酬有”って書いてあるし、少しその辺探してみよっか? ルベール国も全面的に協力してくれるなら、そこそこ貰えそうだし」

「怖いもの知らずだなあ、アンタ……ま、あの国に恩が売れるなら、多少のリスクがあってもリターンの方が大きいしな。もしホントに動くつもりなら、オレも協力するぞ」


 声の主らは巨大な薄い機械の前で、十人十色の感想を吐き出す。その様をサフィラスが凝視していると、ロアは突如方向転換し、人通りの少ない脇道へと手招く。


「えっ、と――メインストリートは混んでるし、こっちから行きましょ。帰りに寄るから許して? リベラちゃんも、早く動物ちゃんと触れ合いたいでしょう?」

「? うん」

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