第23話
ロアの合図に浮かび上がった箱は、一本の光の線を辿ると建物の外へ抜け、外壁を優雅に飛んでいく。箱の向こうには夕陽に照らされる市街が見られ、リベラは瞬きを惜しんで見入っていた。
やがて箱は再び建物の中へ入り、一枚のドアの前で三人を降ろすと、ゆっくりと来た道を引き返して行った。ソレを見送ったロアはドアノブを引くと、サフィラス達に道を譲る。
「二人とも、お疲れ様。さ、入って入って」
「お邪魔します」
リベラは直ぐに玄関に備えられたスリッパに足を通すが、サフィラスは腕組みをしたまま懐疑心を露わにする。するとロアは、わざとらしく悲しげな顔を見せた。
「あら、アタシ疑われてる? ヒドイわ、今更騙すようなマネはしないわよ〜」
「……それもそうだね。失礼するよ」
リベラに続いてサフィラスも足を踏み入れると、ロアはドアにカードキーを差し込んだ。
◇◇◇
室内は広く、白を基調とした空間の先には大きな窓が、カーテン越しにうっすらと見えた。一方壁際の棚には装飾品が色ごとに並べられており、虹のように配置されている。そのどれもが小粒の宝石をつけており、サフィラスが無言で見つめていると、背後からロアの声が聞こえてくる。
「ふふっ、気になるかしら?」
「……いや、別に。それより此処が、キミの言う“安全地帯”なのかい?」
「そうよ。流石に個人宅には監視の目はないから。 ……さて、と。お近付きのしるしに、お茶でも用意するわ。少し待ってて頂戴」
リベラはケープを脱ぐと、ベージュ色のソファーに座る。サフィラスは暫し躊躇いを見せたが、観念して麻袋を下ろし、リベラの隣に腰掛けた。するとロアは、振り向きざまにトントンと自身の目元を示す。
「アナタも、その堅苦しい仮面を取ったら?」
「……これで満足かい?」
サフィラスは渋々仮面を外し、ローブの内側に仕舞う。するとロアは、大きく頷いた。
「折角の綺麗なお顔なんですもの。
「えっとね、果物が入ってる甘いもの――この子と一緒に食べられそうなものが良いな」
するとリベラはポシェットからネーヴェを取り出し、テーブルへ乗せる。ネーヴェは周囲をきょろきょろと見渡すと、やがてテーブルクロスと戯れ始めた。その様子をひと目見たロアは両手で口を覆い、驚喜の声を上げる。
「うわっ――やだ、すっごいカワイイ……! お店で見た時からずっと気になってたけど、まさかここまでの破壊力だなんて! ああ……このちっちゃいお手手が堪らないわ!」
ロアがテーブルに手を伸ばすと、ネーヴェは彼の手のひらによじ登る。するとロアは、一層身悶えた。そうして暫くネーヴェを撫でると、ロアは満足気に頷く。
「リベラちゃん、触らせてくれてありがとね。お礼にネーヴェちゃんも喜ぶような、とっておきのお菓子を持ってくるわ!」
そう言うとロアはネーヴェをテーブル上に降ろし、パタパタとキッチンへ向かう。リベラはそんな彼に微笑むと、サフィラスの耳元に顔を近づける。
「ね? 悪い人じゃなかったでしょ?」
「……そうだね。現時点では、ただの
「サフィラスはまだ疑ってるの?」
「リベラは何故、それほどまでにヒトを信じ込むんだい?」
サフィラスが問うと、リベラはきょとんとした声で返す。
「えっと……本当に悪い人なんて、いないと思ってるから」
その答えに、サフィラスは冷たく問いを重ねる。
「先は悪人二人に誘拐された。そして森では、兵士らから惨たる仕打ちを受けた。それでも、その思考は不変だと?」
「うん。たしかに怖かったけど、それでも……そんな事をするのは、何か理由があるからだと思うの。だから私は、あの人たちを責めたりはしないんだ」
「……私には、理解し難いな」
迷いのないリベラの瞳に、サフィラスは視線を逸らす。
『――いくら性善説を唱えようと、被害者を救うことは不可能だというのに』
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