第24話
サフィラスが口を噤んでいると、一際明るいロアの声が飛んでくる。
「お待たせー! 自信作のフレーバーティーが完成したわ!」
ロアはトレーに乗せた大皿とカップ三客、そして小皿とティーポットやミルクピッチャーを、一つひとつテーブル上に置いていく。大皿には卵型のカラフルなお菓子が盛られており、ネーヴェも興味津々と鼻を動かした。その様子を一瞥すると、ロアはサフィラスたちに飲み物を注いでいく。
「はい、どうぞ。お砂糖やミルクが必要なら、遠慮なく言って頂戴ね」
「わあ……いい匂い! それにこのお花も、とっても綺麗! これ、ロアが育てたの?」
差し出されたカップには桃色の花弁が一片漂っており、ロアはリベラの向かいに座ると得意気に語る。
「ええ、そうよ。ちなみにソレ、アタシが丹精込めて育てた食用花だから、良かったら紅茶と一緒に食べてみて? ちょっとした面白いことが起きるから」
「うん。えっと……ロアはお花屋さんなの?」
「いいえ、アタシは“ティーデザイナー”っていうお仕事をしているの。お客さんと一対一で向き合いながら、その人好みのフレーバーを調合するんだけど、お花はそのサービスの一環なのよ。だから、リベラちゃんにも喜んでもらえて嬉しいわ」
「えへへ……」
リベラは照れ笑いをし、カップに口を付ける。すると今度はサフィラスが、ロアへ疑問を投げ掛ける。
「察するに、キミはこの国の住人なのだろう? ならば尋ねたいのだけれど、此処は先のような存在を、黙認するような地なのかい?」
「……ええ、恐らく。住んでまだ二年目だから、確信を持って言えないけど」
「成程。では、次いでキミ自身について尋ねたい。街中で特段周囲から視線を集めなかったのは何故だい? その
胸元に輝く金の証を指されたロアは、目を開くと「驚いたわ」と声を漏らす。
「ああ――それはね、お客さんに予め説明しているの。いたずらに絡んでくる人の依頼は受けませんって」
「今までに警告を無視した者は?」
「勿論いたわ。アタシのプライベートを嗅ぎ回ったり、嫌がらせをしてきたりね。熱心なファンのフリをして、ドタキャンや理不尽なクレームをつけてくる人もいたわ。でもそういう人とはもう、一切関係を絶ったの」
するとロアはカーディガンの内側から、小さな円柱を取り出す。
「この中には、過去取引をした顧客の情報が入っているの。契約を交わすときに、許可を取ってその人の顔と指紋を撮らせてもらっててね。だから街中で、万が一トラブルが起きても安心ってワケ。そして後に残るのは、アタシに無関心な人だけ。時間はかかっちゃったけど、その甲斐あって、今はとっても快適よ」
「成程……やはり自身の居場所を確保するのは、生きていく上で避けては通れないという訳だ」
「そうね。人はひとりでは生きていけない。だからこそ、心身共に越えちゃいけないラインを引くの。動物にだって、群れの中にルールがあるでしょ? それと同じよ」
するとサフィラスは、ロアを見据える。
「確かに、キミの言う通りだ。 ――その均衡を崩した結果、ヒトは幾つもの生命を絶滅させてきたのだから」
「っ、それは――」
「観賞用、装飾具、食料……果ては快楽を貪る為に、数多の生命を手に掛けた。せめてもの
「サフィラスちゃん……」
「果ては、その様に良心を痛めたヒトが――諸悪の根源であるヒトが、この世界に棲む全ての生命を管理しようとするだなんてね。不合理極まりないとは思わないかい?」
そっと、リベラがサフィラスの手に触れる。するとサフィラスは、仮面を着け立ち上がった。
「……すまない。少々離席させてもらうよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます