第33話
ハンカチを解かれた女は、ロアとリベラから、前のめりに持てなされていた。皿に盛られた料理の数々に困惑しながらも、女はロアに問い掛ける。
「こちらのお料理は、貴方が調理されたのですか?」
「ええ、そうよ。こっちが、グレイビーソースを絡めたミートボール。そしてこっちが、それぞれ味の違うドレッシングと刻んだ野菜を包んだ、一口サラダ。あとこれは、魚の切り身が入ったおにぎりよ」
「ですが――本当に頂いて宜しいのですか? 私は、その……」
「良いの良いの。余らせて持って帰るより、誰かに喜んで食べてもらった方が嬉しいもの」
「……では、お言葉に甘えて」
女はフォークを手に取ると、サラダにミートボール、おにぎりと、順番に一つずつ口に運んでいく。やがて表情を綻ばせる女に、ロアはにこやかに尋ねる。
「どうかしら、お味は?」
「はい、とても美味しいです。優しくて、包み込まれるような……そんな味がして」
目を伏せる女に、ロアは彼女の空いたコップにお茶を注ぐ。
「うんうん、まだまだあるから沢山食べていって頂戴ね。えっと――」
「……メネレテです」
「ん?」
「私の名前です。メネレテと申します」
「! メネレテちゃんって言うのね! アタシはロア。そしてこの子が――」
ロアが説明するよりも早く、リベラはハツラツと声を上げる。
「リベラって言うの。よろしくね!」
「ロアさん、リベラさん。こちらこそ、宜しくお願いいたします」
「うん! それでね、この人がサフィラスだよ」
リベラがサフィラスの手を取るも、サフィラスはやんわりと振り離す。
「……すまない。無闇矢鱈と、人に関わりたくないんだ」
「っ……私、やはり貴方には好感を持てません」
目を向けることすらしないサフィラスに、メネレテは語気を強める。ロアはその間に割って入ると、メネレテの持つ空いた皿を受け取った。
「ま、まあまあ。サフィラスちゃんにも事情があるのよ」
「そうですか。 ……ともあれ、ご馳走さまでした。諸々の報告がありますので、これで失礼します」
「ええ。また会えた時には違うお料理を用意するから、楽しみにして頂戴ね」
「ありがとうございます。 ――では」
メネレテは頭を深々と下げると、瞬く間に草原の向こう側へと姿を消す。ロアとリベラが手を振って見送る中、サフィラスは、彼女のナイフに彫られた文字を見つめていた。
◇◇◇
軽くなったリュックを背負い、三人と一匹は帰路についた。そしてリベラはよろめきながら玄関を通り抜けると、手洗いを済ませて寝室へ向かう。
「少し寝るね……おやすみ、なさい……」
「うん、お休み。 ――良い夢を」
リベラはベッドに横たわるや否や、寝息を立て始める。その様子を確認したサフィラスはドアを閉めると、リビングで紅茶を飲むロアのもとへ向かった。
「ふふ、リベラちゃんってスゴイわね。殺る気満々の子ですら、簡単に大人しくさせちゃうんだから」
「キミこそ、餌付けで牙を抜くのは流石だ。あの場を穏便に済ませることが出来たのも、二人のお陰だよ」
「どういたしまして。 ……まあ、これで解決したとは思えないけど」
「だろうね。無傷で帰してしまった以上、いつ何処で再び襲撃されるか分からない。加えて、此方の
「……そうね、ぶっちゃけても良い?」
「勿論。率直にお願いするよ」
「これは、アタシの勝手な推理なんだけどね。この国はきっと、ルベールの
「ルベール……」
「そう。アナタ
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