第32話
突然の出来事に、リベラとロアは為す術もなく戸惑う。
「えっと……ロア、何が起きてるの? あの女の人は誰なんだろう?」
「分からないわ。けど、サフィラスちゃんにだけ明確な敵意を向けているということは……」
二人の会話をよそに、サフィラスに幾度となく振り翳される刃。女の息も上がり始め、彼女は遂に勝負を仕掛ける。
「はあっ、はあ――これでお仕舞いです!」
女はナイフを逆手に持ち替え、疾風の如くサフィラスの背後に回り込む。
「危ない!」
リベラが咄嗟に声を張り上げるも、サフィラスは表情ひとつ変えずに鞘で受け止め、振り向くと女を見据える。
「あ――」
動揺する女の喉元に剣の切っ先を当てると、サフィラスは問い掛ける。
「投降か、討死か。好みの末路を選ぶと良い」
「……分かりました」
手放されたナイフが、芝生に突き刺さった。
◇◇◇
ハンカチを使用した急拵えの手枷で女の手首を縛ると、ロアは眉尻を下げる。
「それで? この後どうするの?」
「尋問かな。私は要していないけれど」
「アタシにならあるんじゃないかって? でもねえ……」
レジャーシート上ではリベラと女が身を寄せ合っており、ロアは目を泳がせる。
「ちょっとそういう雰囲気じゃないのよね……アタシには、あの空気を壊せないわ」
サフィラスとロアが対応に考えあぐねていると、やがて女がリベラに口を開く。
「……貴女は何故、白銀の犯罪者と一緒にいるのですか?」
「えっと……サフィラスのこと?」
「はい。あの男は幼女誘拐犯として、国から指名手配されている存在なのです。先日も被害を受けた少女がいるとのことですが……それが、貴女ではないのですか?」
「うん、それは私かも。“生きていくのに必要だ”って、知らない人に襲われたの」
「! では――」
「でもね、お姉さん。サフィラスは、そんなことしてない。助けてくれた方なの。昨日の人とは別の人なんだよ」
「っ、そう言えという指示まで――」
「本当に違うの。 ……信じて」
リベラに手を握られ、女は視線を動かしていく。汚れ一つない衣類に、新品の鳥のぬいぐるみ、細工された手料理。そして最後に佇む二人を観察すると、頭を下げた。
「……
するとロアは、思い詰めた表情で女の前にしゃがみ込む。
「ねえ、質問しても良いかしら」
「はい。何でしょうか」
「アナタ、警察官じゃないでしょ。一般市民でもなさそうだし……国からの
「それは――っ」
その時、三人の耳には腹鳴が聞こえた。女は顔を真っ赤にすると、咄嗟に顔を伏せる。
「ふふっ、無理に言わなくて良いわ。けど、あと一つだけ聞かせて頂戴」
ロアはリュックを手元に寄せると、女にカトラリーを差し出す。
「アナタも一緒に、ご飯食べない?」
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