第31話

 陽は真上に昇り、腹鳴が聞こえ始める頃。三人と一匹は丘の上で大樹を屋根に、レジャーシートを広げていた。


「すごい、このぬいぐるみ……さっきの鳥さんと同じくらい、ふわふわしてる!」


 触れ合いを存分に楽しんだリベラは、受付の女性から貰った青い鳥のぬいぐるみを愛おしげに抱いており、時折もふもふと顔を埋めている。その横でロアは緩みきった表情でリュックを開くと、白い箱を取り出した。


「ふふ。さっきのリベラちゃん、まるで絵本で登場するお姫様みたいだったわよ。あのエリアの動物は人懐っこいとはいえ、一度に七匹も寄ってくるなんてまず起きないんだから!」

「えへへ……私、小さい頃から動物さんと仲良くなるのは得意なんだ」

「あら、素敵じゃない! 動物は第六感――本能的に仲良くなれる人かどうかを見抜く力があるみたいだし、きっとリベラちゃんの“気持ち”が伝わっているのね」

「うん!」

「さてさて。アタシの気持ちは、リベラちゃん達に伝わるかしら?」


 そう言うとロアは、白い箱の蓋を開ける。その中には野菜で作られた森があり、動物を模した料理が詰め込まれていた。瞳は黒胡麻、体は卵やミートボールで作られているようで、リベラは大きく身を乗り出すと、細工をまじまじと見る。


「わあ、可愛い!」

「ふふっ。そう言ってもらえると、夜中こっそり作った甲斐があるってものよ。はい、リベラちゃんとネーヴェちゃんのお食事セット」

「ありがとう!」


 ロアからカトラリーの一式を受け取ったリベラは、早速フォークでミートボールを掬い上げて皿に乗せ、箱によじ登ろうとするネーヴェの横に置く。それに気が付いたネーヴェは箱から手を離すと、毛が汚れるのもお構いなしに食べ始めた。


「ふふっ、かわいい。あとで拭いてあげなくちゃ」


 リベラは「いただきます」と両手を合わせると、自身の皿にもミートボールを乗せた。そのやり取りに微笑みながら、ロアはサフィラスにもカトラリーの一式を差し出す。


「はい、どうぞ。こっちがサフィラスちゃんの分よ」

「有り難う。しかしキミは、随分と献身的だね」

「あら、そんなこと言う人にはあげないわよ?」

「……」

「冗談よ。ほらほら、冷めないうちに食べちゃいなさいな」

「いや――」


 しかしサフィラスは立ち上がると、剣の握りに手を掛け背後の大樹を見上げる。


「すまない。食事は一時中断だ」


 刹那、上空から襲来する黒い影。サフィラスは飛来物を剣でなすと、真横に跳躍する。


「まさか、単身で来るとはね。報奨金を独占したいが為かな」

「っ、うるさい!」


 彼らの視界に映ったのは、三つ編みを両耳の横で丸く束ねた紅髪の若い女だった。彼女は黄金色の瞳を鋭く光らせながら、ブーツで大地を蹴り上げる。そして右手に構えたナイフを豪雨の如く刺突するが、サフィラスは涼しい顔で回避する。


「くっ、この……っ! 犯罪者が、大人しく捕まりなさい! 今なら軽い怪我だけで済ませてあげますから!」

「生憎と、私はまだ成すべき事があるのでね。此処で囚われる訳にはいかないんだ」

「なっ!? 堂々と犯行予告とは――予定変更です。貴方を始末します!」

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