第18話

 サフィラスは風船を預かると、リベラにパンフレットを手渡す。しかしリベラは、直ぐに表情を曇らせた。


「難しくて分かんない……」

「なら、此方はどうだろう」


 サフィラスが頁を捲ると、“必見! 穴場スポットから定番ルートまで! イルミス国を、思う存分楽しもう!”という見出しがリベラの目に飛び込んできた。


 その後も十頁に渡り、思わず垂涎すいぜんしてしまう料理やアトラクションの写真、人気の土産一覧が掲載されており、リベラは瞳を輝かせる。


「わあ……! どうしよう、どこに行こうかな……」

「暫くの間滞在する予定だから、目に留まった場所からでも構わないよ」

「本当!? えっとね、じゃあ――」


◇◇◇


 リベラが指したのは、ペットと一緒に食事が可能なクラシカルカフェだった。


 市街の中心部に構えているだけあって、店内は満席状態。だが幸いにもテラス席は空きがあり、二人は池のよく見える隅のテーブルに案内された。


 そしてモノクルを着けたウェイターは、彼らの着席と共に水の入ったグラスを置き、メニュー表を手渡すと、決り文句を口にする。


「本日の日替わりメニューは五番です。ご注文がお決まりの頃、お伺いします」


 ウェイターが一礼して去った後、リベラはネーヴェをテーブルの上に乗せる。


「どれも美味しそう……ネーヴェは何が食べたい?」


 ペット用の料理が掲載された頁には、一品一品に動物の絵が描かれており、リベラははたと気が付く。


「サフィラス、この子が食べちゃいけないものはあるの?」

「ヒトと同じ雑食性で、特に中毒を引き起こす物も無い。単純に、何を好むか程度だよ」


 するとネーヴェは歩みを止め、一品の料理の写真を舐め始める。


「これが良いのかな?」

「かもしれないね」

「じゃあ、これと……私はどれにしようかな」


 ギルティフリーを謳う、低脂肪乳を使用した野菜ケーキに、赤身肉のみで作られた、食べ応えのあるハンバーグ。採れたて卵のオムライスや、高原で栽培された木の実の粉を、贅沢に練り込んだパスタなど。いずれも魅力的で、リベラはメニュー表とにらめっこをする。


「悩ましいのであれば、此処に打って付けの選択があるよ」


 サフィラスが示したのは、メニュー表の下部に表記された説明書き。そこには“お子様限定! 欲張りセット”の文字が印刷されていた。“十五歳まで御利用可能です。一覧から三つお選び下さい”という誘惑に、やがてリベラは意気軒昂と声に出す。


「これにする! サフィラスは?」

「私は――そうだね、これにしよう」


◇◇◇


 そして注文を済ませ、十分後。テーブル上は、一気に華やかになった。


 ネーヴェは自身の体長ほどの野菜入りミートキューブに一心不乱に齧り付き、サフィラスはシルキークリームの冷製パスタをフォークに絡ませていく。そしてリベラはオムライスとハンバーグ、ケーキのワンプレートを、少しずつ味わっていった。


 やがて食事を終えた二人と一匹は、柔らかな茶葉の香りに包まれながら、感想を伝え合う。


「美味しかった……! それに、このお茶もすごく良い匂い!」

「そうだね。いずれも繊細な味わいで、客足が絶えないのも頷けるよ」


 ネーヴェも満足気に伸びをしており、一向は暫しの休息をとる。そこでふと、リベラはサフィラスに疑問を投げ掛ける。


「そういえば、お金って……」

「案ずることはないよ。旅立つ際に、故郷から調達してある」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る