第13話
そして、陽が傾き始めた頃。リベラは麻袋を抱えながら、こっそりと村を離れ、黒い仮面を着けたサフィラスと合流した。
「遅くなっちゃってごめんね」
「気にすることはないよ。私も丁度、個人的な用事を済ませる必要があったからね。 ……それはそうと、随分と手厚いもてなしを受けたようだね」
そう言うとサフィラスは、リベラの腕からずり落ちそうな麻袋を持ち上げ、中身を確認する。そこには干した魚と芋、そして心ばかりの木の実があった。
「……これは、大切に食さないといけないね」
「うん!」
リベラは頷くと、先程から気になっている仮面をまじまじと見る。艶めく仮面の縁には蔦の刺繍が施されており、紫苑の瞳を隠していた。
「ああ、
「すごい……お店屋さんになれるくらい、とっても綺麗!」
「有り難う。 ――では、今朝の洞穴まで戻ろう。一夜を明かした後、この地を出立するよ」
◇◇◇
そして食事や湯浴み、就寝前の一切を済ませた二人は、ぽっかりと空いた岩肌から夜空を仰ぐ。
「お星さまってどうして、いつ見てもこんなに綺麗なんだろ……」
「リベラは天体が好きなのかい?」
「うん。絵本でもよく読んでたんだ。中でも一番好きなお星さまは、あれなの」
するとリベラは、満月を指す。
「月か。確かに我々には、最も身近なものだ。しかしその親密性が故に、時として軽んじられる存在でもある。 ……因みに、何故リベラは月を好むんだい?」
「えっとね、ウサギさんが住んでるから」
「兎?」
「うん。それもね、普通のウサギさんじゃないの。お菓子を作るウサギさんなんだよ。お店を閉めてるときは踊って、毎日みんなで楽しく暮らしてるんだって」
「成程。それはさぞかし、満ち足りた生だろうね」
「……」
うつらうつらとし始めるリベラに、サフィラスは自身のローブを掛けようとする。
「――!」
その時、聞き覚えのある叫び声が静寂を切り裂いた。リベラは飛び起きると、耳に手を当てる。
「あの声って、もしかして――」
「……乗りかかった船、か」
サフィラスも起き上がると、リベラにローブを手渡す。
「私が様子を確認してくる。リベラは決して、此処から動かないように」
「っ、うん!」
駆け出すサフィラスを見送ると、リベラは岩陰に隠れて息を潜める。そして5分程経過した頃、洞穴の入口からは足音が聞こえた。
「サフィラス……?」
しかし覗いた先に立っていたのは、先の少年だった。少年は脚を引き摺っており、リベラと目が合うと、青褪めた顔で口を動かす。
「ど、どうしたらいいんだ……母さんはこれから、どうなっちゃうんだ……!? ああ――全部、全部オレが悪いんだ!! オレが、オレがいなければ――!!」
「お、落ち着いて……! ねえ、何があったの?」
「げほっ、げほっ――村のヤツらが、よってたかって母さんを……!」
苦しそうに
「……大丈夫、大丈夫だよ」
「うっ、うう――」
少年は大粒の涙を流しながらリベラを抱きしめると、やがて村の惨劇を吐き出す。
「母さんが、殺されるかもしれないんだ……! 悪魔と契約したっていう、ワケ分かんねぇ濡れ衣を着せられて!」
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