第11話
そして共に休憩する事、三十分。未だ留まる少年に痺れを切らしたサフィラスは、彼に帰宅を促す。
「……さて、目標は達成した訳だけれど。一刻も早く、母親に薬草を届けるべきではないだろうか」
「う、うん……いやでも、その……」
しかし、歯切れの悪い返答をする少年はソワソワとするばかりで、一向に離れる兆しが見えない。視線を合わせようとするも顔を逸らされ、サフィラスは腕を組む。そのやり取りに、リベラは少年にそっと耳打ちをする。
「もしかして、まだ何かお願いしたいことがあるの?」
「いや、そういう訳じゃ――でもまあ、間違いでもないっつーか……」
「うん。私で良ければ聞くよ?」
間近で見詰めてくるリベラに、少年は矢継ぎ早に吐露をし始める。
「良かったら、村に来てくんねーかなって。薬草手に入ったのは、お前らのお陰だし。何か礼をしたいんだよ」
「お家に連れていってくれるの?」
「あ、ああ。 ……でも、あんま期待はすんなよ?」
「やったあ! ねえ、サフィラス。行ってもいい?」
「構わないよ。私は村の外で待機しているから、気の済むまで楽しんでおいで」
少年は目を丸くすると、サフィラスに訴え掛ける。
「えっ!? 兄さんは来てくれないのか?」
「少々都合が悪くてね。故に、気持ちだけ受け取らせて貰うよ」
「……そっか、分かった」
少年は肩を落とすも、リベラの顔を見るや否や、顔を赤らめ先導を開始する。
「村はこっちにある。ついて来てくれ!」
◇◇◇
一時間ほど歩いた先にあったのは、お世辞にも豊かとは言えない村だった。畑は痩せ細り、辛うじて生長している植物の芽が、数本顔を覗かせている。井戸の前には手桶を持った人間の列をなしており、その表情は酷く虚ろだった。ふとぶつかった視線にリベラが慌ててフードを被ると、少年は「ゴメンな」と眉を下げた。
そして少年は隙間だらけの生け垣を通り抜け、一軒の茅葺き屋根の家の前で足を止めると、慣れた手付きで外れかけたドアノブを捻る。その先には、簡素ながらも掃除の行き届いた部屋があった。
リベラは見様見真似で、玄関に置かれた桶から
「母さん、ただいま」
「……あら、おかえりなさい。中々帰ってこないから、心配したわよ」
少年の声に、花を頭に付けた女性は弱々しく微笑む。リベラも「お邪魔します」と頭を下げると、女性は翡翠色の瞳を丸くする。
「あなたは――」
「ち、違う! そんなんじゃない、ただの恩人だから!」
少年が勢いよく首を横に振ると、女性はフッと声を漏らした。
「あら、残念。 ……恩人って?」
「ああ。実は――」
少年は女性と向き合い、渓流での出来事を搔い摘んで報告する。女性は嬉々として耳を傾け、最後に少しばかり肩を落とした。
「そんな事があったのね……まるで冒険譚みたい」
「まあ、そんな感じだったよ」
「ふふっ、楽しかった?」
「……まあな」
「良かった。もう一人の恩人さんには、お礼を用意しないとね」
「おう。 ――じゃ、先にお前から」
少年は台所に向かうと、三つの湯呑みと籠に盛った小ぶりな蒸し芋を、お盆に乗せてテーブルに運ぶ。そして床に薄い座布団を敷くと、リベラを手招いた。リベラはさっそく座ると、目の前でほこほこと甘い香りを漂わせる芋に顔を近付ける。
「わあ、美味しそう! 私、お芋好きなんだ」
「そ、そうか! まだあるから、好きなだけ食ってくれ!」
「うん! あなたは食べないの?」
「ん。オレは、あっちで薬を作ってくる」
少年は台所を指さすと、さっさとテーブルから離れていった。
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