第39話 家族
12月31日。お母さんにお父さんはいないからと嘘をつき、家に来てほしいと頼んだ。こう嘘を付かないとお母さんは来てくれないだろうと思ったから。
最初、隼人にこう提案された時、嘘を付くのはどうなのかと思ったが、家族が元に戻ってくるのなら手段は選んでられない。
家にはお父さんが待っていて私は、玄関でお母さんを待っていた。お婆ちゃんと咲愛は、外に出掛けている。
「寒っ……」
もうすぐ着くとの連絡が来たのでクリスマスプレゼントで隼人からもらったマフラーを首に巻き、手袋を付けてお母さんが来るのを待つ。
今日、お母さんを呼んだのは、お父さんが話し合ってもらいたいから。いつまでもギスギスした関係ではいてほしくない。
「結衣?」
「あっ、お母さん。電車で来たの?」
「えぇ、今日は、香帆さんがいないから」
「そっか……」
私は、ドアを開けてお母さんと一緒に家の中に入った。すると、リビングからお父さんが出てきた。
「杏子さん」
「大輝……さん」
お母さんは目の前にお父さんがいてくるっと背を向けてドアノブに手を伸ばしたので、その手を私は、掴んだ。
「ダメ……ちゃんとお父さんと話して」
「結衣……」
ここでお母さんが帰ってしまったら次はいつお父さんと話す機会が訪れるかわからない。
「私は、外出るからお母さんにはお父さんて話し合ってほしい」
「……わかったわ」
お母さんが靴を脱ぎ、リビングへ向かった背中を見てから私は家を出た。
(さて、話し合いが終わるまでバイト先でゴロゴロしてよっかな)
寝不足なため今は物凄く寝たい気分だ。家からバイト先へ向かい、店内の奥にある部屋へ行く。
ベッドに寝転び寝ようとしたが、お母さんとお父さんのことが気になり結局寝れなかった。
(上手くいってるかな……)
***
お母さんからメールが来たのは夕方頃だった。咲愛と私は、一緒に家へ帰ることにした。お婆ちゃんも一緒にと言ったが、お婆ちゃんとお母さんは喧嘩中なので後から行くそうだ。
家族だけで話したいことがあるだろうと配慮してくれたのだろう。
「ただいま」
靴を脱いで家の中に入るとリビングからお母さんが走ってきて私と咲愛をぎゅっと強く抱きしめた。
「お母さん?」
「お母様?」
私も咲愛も急に抱きつかれて驚いた。こんな風に抱きしめられたのは何年振りだろうか。
「結衣、咲愛、ごめんなさい。私は、本当に母親失格だわ。産まなきゃ良かったなんて思ってないのにあの時、カッとして言ってごめんなさい」
どうやらお父さんとの話し合いは意味があったようだ。
リビングの方からお父さんが歩いてきて笑顔でいた。
「お母様にはいろいろ思うことがありますが、私は、またお母様と暮らしたいです」
「うん……これからはそうするつもりよ。ごめんなさい、咲愛。寂しい思いをさせて」
お母さんは咲愛の頭を優しく撫でた。咲愛は、嬉しそうな表情をして、目を閉じた。
謝罪だけで許させることじゃない。けれど、家族がまたこうして一緒に暮らせるなら……。
「結衣もごめんなさい……。私は、自分のことしか考えていなかったわ。お姉ちゃんとして咲愛のことありがとう」
今度は私の頭をお母さんは優しく撫でてきた。もう頭を撫でられて嬉しくなるような歳ではないのだが、この時だけは嬉しくなった。
「私じゃ、お母さんの変わりにはなれない。だからこれから子供のことをちゃんと見て」
「えぇ、見るわ」
「約束だからね?」
隼人には感謝しないとね。咲愛も相談に乗ってもらってたみたいだし、ほんとありがとうだよ。
家族で久しぶりに話した後、帰ってきたお婆ちゃんは、お母さんとお父さんに説教していた。
これまで家を空けて子供をほったらかしにしていたのだから怒られて当然だろう。
夕食は、お婆ちゃんが作ってくれた。家族での久しぶりの夕食。この日を私は忘れない。私達、家族は、今日、この日をスタートにするんだ。
「今度、遊園地に家族で行きたいです」
「おっ、賛成! もちろん、行くよね?」
咲愛と私が遊園地に行く話をするとお母さんとお父さんは顔を見合わせてふっと笑った。
「えぇ、行きましょ。大輝さんもね」
「あぁ、そうだね」
バイト先、学校と居場所ができた。この家族でいるのも私の居場所と思える日がいつか来るといいな。
***
1月1日。待ち合わせした神社に行くと先に結衣と咲愛が来ていた。
「明けましておめでと、隼人」
「明けましておめでとう、結衣、咲愛」
「はいっ、明けましておめでとうございます」
何も変なことは言っていないはずだが、結衣に睨まれた気がした。
(なぜか不機嫌になってる……)
「さてさて、参拝してからおみくじ引きに行こっか」
「だね。並ぼう」
長い参拝の列の最後尾に並び、待っている間、昨日のことを結衣と咲愛から聞いていた。
どうやら話し合いは上手くいったようで今度、家族みんなで遊園地に行くそうだ。
(本当に良かった……)
「そう言えば、隼人の両親は?」
「俺の両親は仕事で別々に住んでるよ。夏休みは忙しくて帰ってこれなかったけど明日、帰ってくる」
「へぇ~、それは良かったね」
「うん、久しぶりに会えるから妹の美雨も喜んでた」
妹とお婆ちゃんの3人で暮らしているけどやっぱり親がいないと時々寂しくなる。だから久しぶりに会えるのはとても楽しみだ。
会ったら高校生活のこと話したいし、お母さんとお父さんにあっちの暮らしはどうか聞きたい。
「あっ、次ですよ」
話していたらあっという間に列の先頭に来ていて3人で並んで参拝した。
「さて、次はおみくじです」
引いたおみくじを見せあうと俺と咲愛は、大吉で結衣は中吉だった。
大吉パワーを分けてよと結衣は、俺と咲愛に言っていたが、どうしたらいいのだろうか。
おみくじの後は、彼女達と一緒にショッピングモールに行った。
「みんなでプリ撮らない?」
「プリ? プリンですか?」
「プリ?」
結衣は、俺と咲愛の反応を見るなり知らないの?と言いたげな表情をしていた。
「プリクラだよ。2人とも真面目すぎて知らないとは……これだよ、これ」
ゲーセンに入り、結衣にプリクラの機械がある場所へ案内された。
「2人とも本当に見たことないんだね」
俺と咲愛の表情を見て、結衣は、驚いていた。やり方もわからないので結衣にプリクラが何かを教えてもらった。
狭いところに3人で入り、いろんなポーズで撮り、その後は撮った写真に文字を入れたりしていた。
「おぉ、いいじゃん」
「いい……のかな? やっぱり俺が真ん中じゃない方が良かったんじゃ……」
これを見たら妹の美雨が何というか……。絶対に見られないようにしよう。
「これ宝物にします」
咲愛は同じく初めてのプリクラでとても嬉しそうに写真を見ていた。
結衣は、次は何しようかなと辺りを見回し、俺と咲愛に話しかける。
「次はあのバスケのやつやろっか。元バスケ部だからって負けないよ?」
「おっ、言ったな?」
「わっ、私だって2人に負けませんから!」
勝つ気満々な姉妹だったが、結果、俺が断トツ得点が高かった。
「悔しい!」
「悔しいです……またチャレンジしたいです」
バスケ勝負をした後は甘いものを食べたり、雑貨屋、本屋といろんなところに行った。
楽しい時間はあっという間で、気付けば夕方頃だった。
「いや~、楽しかったね。遅くなったけど、隼人、ありがとう。おかげでバラバラだった家族が1つになった」
「私からもお礼を言わなければなりませんね。ありがとうございます、隼人さん」
これで家族問題は解決かな。俺は、2人の力になれたのだろうか。
【第40話(最終話) 綺麗な月の下で】
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