第40話 綺麗な月の下で
「おはよ、ってどうしたの?」
先に来ていた咲愛に挨拶をした友達の芽美は、あることに気付いた。
「おはよう、芽美ちゃん。えへへ、どうですか? 似合ってますか?」
似合っているか自信のない咲愛は、照れながら自分の髪の毛を触る。
冬休み明けに会ったら長い髪の毛がバッサリと切られていてショートカットになっていたので芽美は、咲愛に何があったんじゃないかとすぐに思った。
「うん、似合ってるし可愛い。けど、何で急に髪切ったの? バッサリ切ってるけど……」
「……気分転換です。隼人さんに見せたら、可愛いと言ってもらえたので結構気に入ってます」
咲愛は顔を赤らめながら嬉しそうに笑った。芽美は、失恋して髪の毛を切ったのかと思ったが、それを本人に確かめようとは思わなかった。
「良かったね、咲愛ちゃん」
「はい、嬉しかったです」
***
3学期が始まり、学校へ登校すると冬休み中、会わなかった穂香と拓海がいるところへカバンを机に置いてから行った。
たった数日会っていないだけなのに2人に会うことが久しぶりな気がする。
「あけおめ、隼人」
「明けましておめでと」
「うん、明けましておめでとう」
新年の挨拶を済ませてから穂香はずっと聞きたいことがあったらしくその話をしてきた。
「そう言えば、この前咲愛ちゃんに会ったんだけど、髪の毛切ってたんだよ。知ってた?」
「知ってるよ。昨日、会ったからね」
「そかそか知ってたか。可愛かったよね、咲愛ちゃん」
穂香の言うことには共感できた。彼女は、長い髪の方が似合うが、ショートカットも似合っていてとても可愛いと思う。
「あっ、理沙結衣、おはよー!」
「おはよ、その理沙結衣って何?」
理沙は、何かのコンビ名みたいで嫌そうだった。
「おはよ、隼人。冬休みは楽しかったね」
ツンツンと背中をつつかれて後ろを振り返るとモコモコの暖かそうなジャケットを着た結衣がいた。
「あっ、おはよ、結衣。寒そうだね」
「逆になんで、隼人は、防寒着なしでいられるの? 上に何も着てないとか半袖着てる小学生と同じだよ」
そ、そうなのかな……。冬に半袖を着る人と俺は全く違う気がするんだが……。
寒い寒いと呟き、結衣は、自分の席へ行ってしまい、机に突っ伏してしまった。
「あっ、結衣ちゃんがまた寝てる~」
穂香は、結衣のところへ行き、窓側の端に固まっていた俺と理沙、拓海は、冬休み、何をしていたのかを話していた。
「で、噂によると冬休み、彼女に告白して、付き合うのは大学からって約束したんだっけ?」
拓海も理沙もこの話がしたかったらしい。拓海の質問に対して俺は頷いた。
「うん、今はお婆ちゃんのことがあったり忙しいから。大学生の時、両親が帰ってくるからそれまでは彼女に待たせてしまうんだけどね」
冬休み、両親と久しぶりに会うとあちらでの仕事を終えたら帰ってくると嬉しい報告があった。帰ってくるのはだいたい今から2年後らしい。
「いや~、あの鈍感な隼人が彼女作るとは。ほんとおめでとうだよ。ダブルデートとかできるな」
「話早くない?」
「いいな、私も彼氏作って週末はデートの予定がとか言ってみたい」
理沙は、そう言って結衣と穂香のところへ行ってしまった。
「まっ、困ったことあったら親友として相談乗るからな。恋愛相談でももちろんオッケー」
「うん、ありがと」
***
「また隣の席よろしく」
「うん、よろしく」
席替えがあり、俺と結衣はまた隣の席同士になった。他のみんなもわりと席が近く、今までに1番いい席替えかもしれない。
「そだ、両親と過ごす冬休みはどうだった? 楽しかった?」
「楽しかったよ。寒いからほとんど家で過ごしたんだけど、1週間前にみんなで旅行に行ったんだ」
「えっ、いいね」
結衣はさっきまで眠そうに机にうつ伏せていたが、バッと起き上がった。
「結衣はどうだった? 遊園地」
緋村家は、冬休みに遊園地に行ったらしい。楽しそうな写真が2人から送られてきたが、どうだったかはまだ2人に聞いていなかった。
「楽しかったよ。けど、聞いてよ、咲愛が私が怖いの知っててお化け屋敷行こうって誘ってきてさ無理やり私を連れていこうとするのよ」
彼女の話を聞いていると咲愛が言っていたのを思い出した。そう言えば結衣は怖いの苦手だったな。
「で、入ったの?」
「入るわけないじゃん。咲愛はお父さんと入ったよ。私とお母さんはそういうの苦手だから違う乗り物に乗ってた」
楽しそうに話す彼女を見ていると本当に楽しかったんだなとこちらに伝わってくる。
「家族と遊園地なんて行くとは思わなかったな……家族なんていなくても私は1人で生きていくって決めてたから」
最初は妹の咲愛のためにお母さんと話し合うことにした。その次は、家族なんて要らないと思いながらも本当は寂しいと気付いてまた家族といたいために行動をした結衣。
「隼人にはたくさん助けてもらったよ。ありがとね」
「こちらこそありがとう結衣」
***
「あっ、明日の弁当用の卵がない……」
家に帰ってきて、夕食を食べた後、キッチンで明日のお弁当の用意をしようとしたが、卵がないことに気付いた。
妹の分も作る予定でついさっき明日は卵焼きを入れると美雨に言ったばかりだ。
「買いに行くか」
美雨とお婆ちゃんにスーパーに卵を買いに行くと伝えてから俺は家を出た。
時刻は20時。外は暗く、ふと空を見上げると空には綺麗な月があった。
「綺麗だな……」
このまま見上げていたら何かにぶつかりそうなので前を向いて歩くと咲愛とよく待ち合わせている公園を通りかかった。
咲愛とはここで初めて会った。悩んでいた俺に声をかけてくれた天使のような彼女と。
公園に足を踏み入れると後ろから誰かの気配がしたので後ろを振り向いた。
「大丈夫ですか?」
振り向くとそこには、茶色のショートカットに目がパッチリとしていてお人形さんのような緋村咲愛がいた。
「こんな時間に外にいるけどもしかして迷子?」
「むふ~、迷子じゃないです。それより質問に答えていません」
「ごめんごめん。俺は大丈夫だよ。咲愛は、何でここに?」
懐かしいやり取りをしてから俺は彼女になぜここにいるか尋ねた。
「お母様と少しコンビニに。隼人さんを見つけて来ちゃいました」
「えっと、それは大丈夫なの? お母さんは? お母さんにちゃんと言ってからここに来た?」
いろいろと心配になりいくつか聞くと咲愛は、クスッと笑った。
「大丈夫ですよ。お母様にはちゃんと言いましたし」
「それならいいんだけど……」
安心してホッとしていると咲愛は、公園に足を踏み入れた。そしてクルッと振り返り俺のことを見た。
「隼人さんには本当に感謝してます。結衣お姉ちゃんとお父様、よく喧嘩しますけど、前より仲がよくなった気がします」
「良かったね。俺こそ咲愛には感謝してるよ。あの時、声をかけてくれてありがとう」
一歩前に踏み出し、感謝の言葉を彼女に伝えると咲愛は、小さく笑った。
「いえ、お礼を言うのは私です。ありがとうございます。引き止めてしまいすみません。では、またここでお会いしましょう。お兄さんとはまた会える気がします」
「うん、またね」
公園を出てコンビニの方へ戻る彼女の背中を見て、俺は彼女に言い忘れたことがあり、離れていく彼女に向けて言った。
「咲愛、その髪似合ってるよ」
咲愛は、俺の声が聞こえ、立ち止まりそして振り返った。
「ふふっ、ありがとうございます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます