第36話 咲愛さんの友達
クリスマス当日。午前中は、咲愛さんの家にお邪魔した。
今朝早くから起きて作ったロールケーキを後で紅茶と一緒に食べようと約束し、食べる時間までは、クリスマスイブはどう過ごしたか話していた。
「私も『tuki』のケーキ食べましたよ。あのカフェのケーキ、美味しいですよね」
「うん、初めて食べたけど結構良かったよ。ところで、咲愛さん。渡したいものがあるんだけど」
彼女が来てから俺はずっとクリスマスプレゼントを渡すタイミングを見計らっていて妙に落ち着きがなかった。
「渡したいものなら私もあります」
「えっ、咲愛さんも?」
「はい、クリスマスプレゼントです。ちょっと待ってくださいね」
咲愛さんは、カバンからラッピングされたものを取り出し、俺に手渡す。
「メリークリスマスです、隼人さん」
「メリークリスマス、咲愛さん」
今度は俺から咲愛さんへ用意していたプレゼントを手渡した。
彼女から受け取ったクリスマスプレゼントは、少し大きめだ。彼女から許可をもらい、中を確認するため入っていたものを出す。
「マフラーだ」
「猫さんのマグカップです……」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
同じタイミングでお礼が言ったのが面白く俺と咲愛さんは、顔を見合わせて笑った。
「私が猫さんを好きなこと知ってたんですか?」
「ううん、知らなかったけど咲愛さん、猫好きそうだなって思って猫にしてみたんだ」
このマグカップを買う前、美雨もいたが、彼女から自分で選んだ方が咲愛さんは喜ぶよと言われた。
そして自分で探して選んだのがこの猫のマグカップだ。
「そうなんですね、とても嬉しいクリスマスプレゼントです」
「喜んでもらえて良かった。マフラー、丁度欲しいと思ってから嬉しいよ」
「ふふっ、隼人さんに似合うものを選びました。一度巻いてみます?」
咲愛さんにそう言われてマフラーを一度巻いてみることにした。
黒とグレーのマフラーはとても自分に似合っている色だと思う。咲愛さんが一生懸命、似合うものを選んでくれたのがわかる。
「巻いて差し上げます」
巻くためにマフラーを半分に畳んでいると咲愛さんが近づいてきた。
手からマフラーが消え、彼女は、俺の首に巻いてくれた。その時、彼女と顔が近くなり、ドキッとした。
「あ、ありがと……」
「ふふっ、これやってみたかったんです」
咲愛さんが、近くでクスッと笑い、また俺はドキッとしてしまう。
距離が近いとこんなにも相手を意識してしまうんだと初めて知った。
「はい、できましたっ! 似合ってますよ」
「ありがとう」
首に巻かれたマフラーはとても暖かい。頬も少し赤く感じたが、これはマフラーの温かさではないだろう。
「隼人さん、少しだけぎゅ~としてもいいですか?」
聞き返すと咲愛さんは、両手を広げたので俺はすぐにぎゅ~の意味がわかった。
「えっとそれは……」
そう言うのは付き合っている人とか、親しい人でやることだと思う。
「ダメ……ですか?」
うるっとした目でお願いされ、ドキッとした自分はダメなのに断れない。
「……いっ、1回だけだよ?」
「はいっ!」
本当に何度も思うが、俺は小さい子のお願いには断れないみたいだ。
ぎゅ~としたいと言った本人は、俺のところに来て、体に手を回してぎゅっと抱きしめた。
「隼人さん、大好きです……」
ボソッと呟いた彼女の声は俺の耳にしっかりと届いた。
これまで何回か好きですと告白されたことはあるけど、咲愛さんからの好きという言葉は何か違う。
「咲愛さん……次なんだけど────」
シーンと静かなのは何だか落ち着かないので彼女と話そうとしたが、ドアの前から加代子さんが咲愛さんの名前を呼んでいる気がした。
「お婆様?」
咲愛さんも気付き、俺から離れてドアを開けにいった。すると、加代子さんが、そこにはいた。
「芽美ちゃんが来てるよ」
加代子さんにそう言われて来たことに驚いていた咲愛さん。どうやら突然の訪問らしい。
「あ、あの、隼人さん、私の友達を少し呼んでもいいですか?」
「あっ、えっと、俺帰ろうか?」
俺がいたら咲愛さんと友達の邪魔になると思い、帰ろうとしたが、彼女に止められた。
「だっ、ダメです。私の友達に隼人さんを紹介したいので」
「しょ、紹介……?」
帰らないで欲しいと言われて俺は咲愛さんが友達を上に連れてくるまで彼女の部屋で待つことになった。
そして数分後。足音がしてドアが開いた。
「お待たせしました。友達の
咲愛さんは、隣に立っている黒髪のセミロングの彼女を紹介してくれた。
「初めまして、桜芽美です。呼び方は、桜でも芽美でもどっちでもいいです……」
緊張しているのか少し声が小さく、集中して聞かないと全て聞き取れない。
「初めまして、桜さん。間宮隼人です」
自己紹介をすると桜さんは、「知ってます」と呟き、俺の目の前に咲愛さんと並んで座った。
「で、咲愛ちゃん。この人が好きな人なの?」
「はい、私が片想いしている隼人さんです」
ニコッと俺の方を見て言ってくる咲愛さんに俺の顔が赤くなっていった気がした。
それより咲愛さん、自分の好きな人、友達に言ってるんだ……。
「お兄さんは、咲愛さんのこと好きなんですか?」
(お、お兄さん……)
どう呼ばれるだろうか気になってはいたが、思っていなかった呼び方で呼ばれたことに驚く。
「今言えることは咲愛さんは友達としての好きかな」
「へぇ……お兄さん、恋愛トーク苦手そうですね。聞かれたことに全て答える人は初めてです」
「あぁ、うん……苦手です」
確かに桜さんの言う通り、ここは別に答えなくても良かったのかもしれない。
「けど、お兄さんがいい人そうで良かったです。咲愛ちゃんが高校生を好きになったと聞いた時はさすがに驚きました……」
まぁ、そうだろう。中学生が高校生を好きになったなんて話を聞いた側としては普通、心配になるだろう。
相手はどんな人か。相手は怪しい人なんじゃないかと。
「咲愛ちゃん、寂しがり屋なんで側にいてあげてください」
桜さんがそう言うと咲愛さんが顔を真っ赤にさせて彼女の肩をゆさゆさと揺らしていた。
「め、芽美ちゃん!? 私は、寂しがり屋さんではありませんよ!」
「えっ、じゃあ、この前の────」
「い、言ったらダメです!」
咲愛さんがこんなにも慌てている姿は、初めて見た。彼女にはしっかりとしたイメージがあるけど、まだ俺の知らない咲愛さんがあるのだろうか。
「わかったよ、桜さん。咲愛さんは友達だからできるだけ側にいるよ」
「は、隼人さん……」
咲愛さんが嬉しそうな表情でこちらを見ていると隣で桜さんが呟いた。
「何ですかこのほわほわ空気……あの、お兄さんは、小さい子供は好きですか?」
「えっ、子供?」
小さい子と遊ぶのは嫌いではないが、ここでうんと頷くと桜さんに変に見られそうな気がしてならない。
というか小さな子供ってどれくらいなんだろうか。幼稚園の子、小学生の子、どういう年齢の子供を指すのか。
「嫌いではないよ。親戚に咲愛さんぐらいの子がいるんだけど、その子とよく遊ぶから」
「むふ~、ちょっと嫉妬しちゃいます。隼人さんは小さい子なら誰でもいいんですね」
「いや、えっと……」
なぜそうなると心の中で咲愛さんの言葉にツッコミを入れ、嫉妬する彼女が可愛いと思った。
「誰でもは良くないよ。俺、こう見えても初対面の人とは緊張して話せないし」
「そうなんですか? 私と会った時は、もしかして……」
「咲愛さん?」
「なっ、何でもないです!」
もしかしての後に何が続くのか気になったが、聞かないでおくことにした。
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